素材メーカー様 新規事業レビューの仕組み構築

新規事業立ち上げのヒット率を高めるための事業性評価と仕組みづくり -技術者に技術開発と受注活動のバランスを意識付け

  • 新規事業開発

素材メーカーA社では、かねてから新規事業をつくる際に、本来必要とされるレビュープロセスがなかなか踏まれないという問題を抱えていました。また、仮にレビューが実施された場合であっても、その内容は性能面などの技術視点に偏ってしまい、収益性をはじめとするビジネス視点が抜け落ちてしまっていました。その結果として、せっかく新規事業を立ち上げても収益性の観点でうまくいかず、短命となってしまう事業が少なくなかったです。

新規事業立ち上げにおける、事業性リスク評価のプロセス構築

上記のような失敗を低減するために、新規事業の種を選抜・育成し、事業として立ち上げるまでの事業性リスク評価のプロセス構築に取り組むこととしました。また単にプロセス構築に取り組むだけでなく、ビジネス視点でレビューする意識をA社内に植え込むこともミッションとしました。これらの達成に向けて、以下3点に取り組みました。

  • 新規事業立ち上げ時に考慮すべき項目の明確化
  • 事業性レビューのタイミングと役割の明確化
  • リスク管理の仕組み構築と運用ノウハウの醸成

①事業性リスク分析のテンプレート作成

表1:管理項目と質問リストの(抜粋)

関連課題解決メニュー:業務プロセス最適化

新規事業立ち上げ時に考慮すべき項目を明確にするために、ITIDの保有する事業リスク管理項目(汎用)をたたき台に、業界・事業特性に合わせた事業性リスク分析のテンプレートを作成しました。(例.市場規模の予測:素材ビジネスがBtoBであることを考慮し、直接の顧客だけを市場と捉えるのではなく、その先のエンドユーザーを含む各種ステークホルダーに視野を広げ、それら全体の変化を押さえることとしました)さらに、事業性レビューでの有効な問いかけ・気づきを促すべく、各管理項目について「質問リスト」を設けました。(表1)

②実適用を通したテンプレートのブラッシュアップ

図1:リスク分析

新規事業立ち上げの実プロジェクトに対し、上記テンプレートを用いて事業性レビューを開催しました。事業リスク管理項目は、営業、企画、開発、製造の業務プロセスに沿って大別することができました。それぞれについて効果的・効率的なレビューを実現するために適宜有識者を参集し、ワークショップ形式でリスク分析を進めました。(図1)また、実プロジェクトへの適用を通じて、テンプレートが各業務プロセスの実態に沿う内容・粒度になっているかを確認し、適宜ブラッシュアップを実施しました。結果として、テンプレートの実用性を向上させることができただけでなく、プロジェクトメンバーが事業性レビューのタイミングと役割を共通認識することができ、事業性レビューの実践経験を得られました。

③レビュー体制の構築

図2:体制

次に、事業性レビューを効果的にかつ継続的に行うために以下の体制を構築しました。(図2)

  • 事業部の実担当者チーム: レビューの主体
  • 機能別有識者チーム: レビューのアドバイザ(機能例: 知財、品証、法務、人事)
  • リスク管理チーム: 事業性リスクの管理責任者

特に、A社にはリスク管理チームに相当する組織がありませんでした。こうした特命チームの設置は、リスク管理のような新しい仕組みを浸透させる上でも運用ノウハウを組織として蓄積する上でも重要な役割を果たします。この特命チームは、将来的に新規事業開発に関する専門部署に発展させる予定です。

事業性レビューを通して現場の技術者陣が技術開発と受注活動のバランスを意識

本活動では新規事業の事業性レビューの仕組みを構築しました。この仕組みを実プロジェクトで運用することで、技術者が独自の勘と経験で事業性を判断してきた事実、その結果として大量の工数と金額を損失してきた事実を現場の技術者が認識できました。今回のケースでは、現場の技術者が、受注確度が不明な製品の目先の技術開発に取り組むよりも営業・企画やスタッフ部門を巻き込んで顧客ニーズを的確に捉えて受注確度を高めることのほうが重要であるとの理解につながりました。こうした共通認識は今後の変革の原動力として大きなものになります。単に仕組みを構築する場合に比べて、現場層への浸透度合いが格段に高くなるはずです。

技術者に自発的に気づいてもらう機会を設けることが重要だった

事業部の枠を超えて新たな価値を創造し新規事業を立ち上げていくことは、時代の変化を察知し新たな収益の柱をつくるために重要なテーマであります。一方で事業部の枠におさまらない様な新規事業は当然新規性が高く、そのヒット率を高めることは容易ではありません。A社の技術者陣には、ヒット率を高める手段が技術向上に尽きると思いすぎていた節がありました。本活動で、事業全体を俯瞰する機会を半強制的に実務で提供することで、営業・企画と連携してヒット率を高める方法があることを体感してもらうことができました。技術者に視野を広げてもらうために、単に相手に伝えるのではなく、自発的に気づいてもらう機会を設けることが重要でした。

  • 記載情報は取材時(2011年9月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。
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