アルパイン株式会社様 ‘DSMプロジェクト’

自動車メーカへの提案力向上を実現した引合検討プロセスの強化

  • ものづくり

アルパイン株式会社様では、車内のエンターテインメント、テレマティクス、ドライブアシストの役割を担うAVNC(Audio、Visual、Navigation、Communication)製品を開発・製造・販売している。製品の大半は自動車メーカ向けOEM製品であり、ユーザには自動車メーカ純正品として届く。高機能・高品質に加え、車の特徴に合わせた製品開発が求められています。
従来は比較的単純なAudio製品が主流であったが、近年はVisual、Navigation、Communicationと商品セグメントが多様化・複雑化し、開発規模が増大しました。加えて、自動車メーカから要求される開発スタイルも変化し、世界同時立ち上げへの対応、言い換えれば、開発期間の短縮が求められるようになりました。製品機能の複雑化と開発リードタイム短縮という要求に対して、自社内で量産設計プロセスの改革に取り組んだにも関らず製品開発は混乱し、量産間際での負荷は増大し続けていました。

引合検討から構想設計の整流化

図1:DSMプロジェクトの発足

量産間際の負荷が増大する原因を分析したところ、引合検討から構想設計にかけての各種成果物の品質にあると判明しました。そこで、引合検討から構想設計の業務を整流化し成果物の品質を安定させる目的で、「DSMプロジェクト」と命名したプロジェクトを開始しました。DSMには、「DSMを活用する」「電気(D)・ソフト(S)・メカ(M)が連携する」「大規模(D)製品(S)をムリムダムラ(M)なく作れる体質に変化する」という3つの意味をこめました(図1)。

①業務課題の把握:他社との開発プロセスベンチマークを実施し、問題点を客観的に分析

 改革活動を成功させるためには客観的に問題点を分析することが必要です。そこで、ITID INDEXを活用した他社との開発プロセスベンチマークを実施しました。その結果、「独自で改善活動を進めてきた詳細設計フェーズでは強みが多い」「引合検討から構想設計フェーズ、プロジェクト管理では弱みが多い」ことが分かりました。この結果を基にしてヒアリング等のさらなる診断を加えた結果、4つの重点課題を抽出することができました。それは、引合検討から構想設計フェーズにおける「意思決定プロセスの明確化」「技術者の受注活動参画」「受注前のリスク管理」「提案内容の実現性検証」です。これらの重点課題を解決するために、引合検討プロセスと構想設計プロセスを同期させながら部門を越えて連携する未来像を描きました。

②―施策の定義1:技術ばらし手法を活用した引合検討から構想設計の整流化

これまで、引合検討段階では営業部門が技術リスクを考慮せずに受注してしまい、受注後の構想設計段階になってから技術リスクが顕在化することが多かったです。そこで、後工程で顕在化する技術リスクを受注前に見極めるため、技術ばらし手法を導入しました。技術ばらし手法とは、ロジックツリーを応用して、論理的に技術情報を整理・可視化する弊社独自の手法です。この技術ばらし手法により、引合検討段階で製品が持つべき要件と「CDメカ」「ディスプレイ」「MPU」などの設計要素を網羅的に洗い出し、関係を整理することを通して技術的に曖昧な点を技術リスクとして洗い出せるようになりました。さらに、製品要件を具体化したことで営業と技術が共通言語で語れるようになりました。営業と技術の共同検討により顧客への提案ポイントを明確にできたことが魅力的な提案につながりました。また、引合検討段階での検討結果を設計の原点である「製品基本仕様書」にまとめられるようにもなりました。

②―施策の定義2:受注活動と構想設計を両立するプロセス定義

図2:策定したプロセスの特徴

受注確率の向上と構想設計の品質確保の両立に向けて、営業部門と商品企画部門からメンバーを選定し、引合検討プロセスの「あるべき姿」と要件を整理しました。例えば、「開発の手戻りがない」という要件をブレークダウンすると「開発リスクが小さい」「リスク対応策が事前にある」となります。通常業務として扱える粒度にまでブレークダウンすることで、変革後の業務を具体的にイメージし、あるべきプロセスを導くことができました。この活動で定義したプロセスには、以下4つの特徴があります。(図2)
1.受注活動開始時に担当技術者をアサインし、検討責任者と意思決定者を明確にします。
2.提案活動中、顧客反応などの状況変化に応じて柔軟に技術検討を実施します。
3.量産開発につながる「製品基本仕様書」を作成します。
4.ビジネス・技術両面から受注前レビューを実施し提案内容の実現性を検証します。

③施策の検証と定着:技術ばらし手法と新プロセスの適用、ルール・ツール・スキルの多面的フォロー

 技術ばらし手法と定義した新プロセスを実際の製品開発に適用して検証しました。メンバーによる技術ばらしや新プロセスによる顧客提案には慣れない点もあるため、コンサルタントが支援・コーチングしました。また、営業、技術などの部門を超えて、技術ばらし手法と定義した新プロセスを定着させるため、ルール・ツール・スキルという多面的な切り口を考えて展開しました。ルール面では、定義したプロセスの明文化、ツール面では技術ばらし手法を支援するiPRIME NAVI(現iQUAVIS)の導入、スキル面では新プロセスの教育や技術ばらし手法の教育のほか、定義した引合検討・構想設計フェーズを担当するリーダーを教育・育成しました。

提案の質の向上、製品の受注、3.6億円の収益性向上

技術ばらし手法と新プロセスの適用検証の効果は、まず自動車メーカからのアルパインに対する高評価と製品の受注という形であらわれました。裏づけデータのある提案を他社より少ない回数でできるようになった結果、「今までの提案と全然違うね!」という言葉を自動車メーカより頂くまでになりました。また技術検討面では、詳細設計に着手する前からのコストダウン検討が可能になり、収益性が3.6億円分向上しました。加えて、従来は量産間際に実施していた高リスクの音質評価を前倒しで実施するなど、高リスク要件を早期に抽出できるようになりました。

お客様に対してアルパインから提案することの意義や、個別最適を追求するだけでなく全体最適を考える意義を経験できた

共通開発副担当理事 江尻和繁様(当時)

 今回のプロジェクトを通じて、技術も営業活動に参画し、営業も技術を理解するという意識が広まっている。また、お客様から言われたことだけを実施するよりもお客様に対してアルパインから提案することの意義や、個別最適を追求するだけでなく全体最適を考える意義を経験できたと考えている。ただ、会社全体を見渡せば、まだまだ製品ごとに壁があるように見受けられる。今後、さらに自分たちで壁を減らし、もっと良い組織風土へと変革していきたい。よりよいものづくりのため、いずれ自動車メーカであるお客様と合同で技術ばらしができるようになり、ドライブアシスト機能などの合同検討ができることを期待している。

  • 記載情報は取材時(2009年12月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。
  • 2024年1月1日に電通国際情報サービス(ISID)、アイティアイディ、ISIDビジネスコンサルティングは、電通総研へ商号変更しました。
    社名、サービス名、その他の情報は発表当時のものです。あらかじめご了承ください。

スペシャルコンテンツ