産業機械メーカー様 付加価値高くトータルコストを削減した製品群を"要求起点"のモジュール化で実現

  • ものづくり
  • 業務・プロセス改革

産業機械メーカーA社。主力製品は、市場が伸びている一方でコモディティ化が進行し他社との差別化が難しくなってきていました。業界のトップランナーではないため、製品戦略はトップ企業に追従かつコストダウンした上で、顧客要求に細かく対応することでした。
これまで部品の標準化や共通化を進めてきてはいましたが、顧客要求に応える開発を繰り返し、全体で見ると同じ機能部品でも複数の種類の部品ができていました。その結果、保守や製造部門でコストが増える(例えば保守部門では多くの種類の保守部品をストックしなければならず管理コストが増える)などの問題が生じていました。
この状況を打開するべく、市場の多様な要求に応えた上で部品種類を抑えこむ、モジュール化に取り組むことにしました。

付加価値の高い、魅力ある製品をモジュールの組み合わせで効率よく実現
製品群、部門横断でトータルコストの削減を図る

これまで、A社では部品等の「もの」視点で共通化を行ってきていたため、顧客が実現したい「要求」視点では捉え方が甘かった部分がありました。そのため、要求変化に追従できず、設定した共通化方針が崩れて多くの種類の部品が生まれ、保守現場での部品管理の増加を招いていました。
そこでモジュール化にあたって、共通化方針が崩れないように市場の要求起点でモジュール化方針を策定することとし、要求変化に強いモジュール構成及び製品アーキテクチャを検討する手法「Robust Architecture Design (RoAD)」を採用しました。

モジュール化は今後の事業を大きく左右するので、活動体制は事業判断できる部長級以上で構成し、市場や製造の観点を盛り込むために、モジュールを具体化する設計部門だけでなく、商品企画や営業、製造などの関係部門もメンバーに加えました。

要求満足かつ競争優位のモジュール化方針(共通化・バリエーション・都度設計などの開発・設計方針)を策定するべく以下のステップで活動を進めました。

 ①対象製品・市場を設定
 ②顧客要求を整理
 ③自社要求を整理
 ④顧客要求を評価
 ⑤競合との比較
 ⑥ユニット・部品のモジュール化方針を策定

図1:施策の流れと情報整理・連携イメージ

①対象製品・市場を設定

今までの製品は幾つかのモデルに分類され、それぞれでコストダウンや共通化などの検討がされていましたが、今回はモデルの分類を取り払った上で、今後も販売していく製品全てをモジュール化の対象としました。対象の製品群を構成するユニット数は約20あり主要な部品の数としては約100ありました。
市場は、中期経営計画に基づき、国別の顧客の嗜好の違いでグルーピングして5つに整理し、過去の出荷台数と企画部門の予測から市場規模を設定しました。

図2:市場整理イメージ

②顧客要求を整理

顧客要求整理は活動当初、「交換作業に時間がかかる」といったメンバー自身が抱える課題ばかりが挙げられ顧客視点が不足。そこでコンサルタントのサポートとフレームワークの活用により、自社課題の背景にある顧客要求を引き出すとともに、要求の抜け漏れを抑制しながら丁寧に整理を進めました。先ほどの例は、顧客要求「点検停止時間が短いこと」に言い換えました。

③自社要求を整理

モジュール化では顧客要求だけでなく自社の要求も反映する必要があります。抜け漏れがないように設計・製造・調達・販売・施工・保守・物流といった幅広い工程で要求・課題のヒヤリングを実施し、その結果を自社要求として整理、エンジニアリングで解決すべき要求をモジュールに割付けました。

④顧客要求を評価

顧客要求に対しては、重要度、要求の幅、要求の将来変化の観点で評価しました。それぞれの定義は次の通りです。

  重要度:それぞれの市場において、その要求をどれくらい重要視しているか
  要求の幅:すべての市場を見たときに、要求値の差が市場間でどれだけあるか
  要求の変化:要求値が今後どれくらい変化しそうか

通常、担当レベルだけで評価を進めると、お互いの視野が狭く評価が割れて進まなくなってしまいますが、今回は経験豊富で市場や製品全体を俯瞰できる部長数名により、早期に評価が完了できました。

⑤競合との比較

各市場で重要視される顧客要求項目に対して優位性マップ(図3)を作成し、競合他社と自社を比較、自社の強み・弱みを明らかにして、戦略検討を実施。例えばコンパクトであるという顧客要求に対しては競合より劣っていることを受け入れ、代わりに導入コストで勝る方針にすることなどを決定しました。

図3:優位性マップ

⑥ユニット・部品のモジュール化方針を策定

④の市場毎の要求評価の結果を、要求に紐づいている約100の主要部品に割り付けました。割付けられた評価をRoAD手法のガイドに照らし合わせた上で、③の競合比較、⑤の自社要求を加味してモジュール化方針を決定しました。

これまでこのような検討をした際は互いの部署の意見が衝突し頓挫していましたが、今回はRoAD手法に基づき、論理的根拠を見える化できたため、全体最適の観点で合意形成ができ、全社一丸となって実行できる態勢ができました。

図4:モジュール化方針(一部)

モジュール化により都度開発を1割に抑制

顧客要求満足と競争優位性を担保した上で9割の部品を共通のモジュールで対応でき、都度開発を1割に抑える目処が立ちました。今後は策定したモジュール化方針に従って、各ユニットの仕様を作り込んでいく予定です。それに加えて、この取り組みを定着させるために、モジュール化方針を維持・管理・改善する運用方法と体制の定義、製品・モジュール・部品の複雑な関係をわかりやすく見える化する仕組み(ツール)の構築も推進していく方針です。

  • 記載情報は取材時(2020年9月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。
  • 2024年1月1日に電通国際情報サービス(ISID)、アイティアイディ、ISIDビジネスコンサルティングは、電通総研へ商号変更しました。
    社名、サービス名、その他の情報は発表当時のものです。あらかじめご了承ください。

スペシャルコンテンツ