三菱重工業株式会社 機械・設備システムドメイン 自動車部品事業部 ターボSBU様 設計者が"自らやり切れる"未然防止プロセスの構築と活用による市場クレームの撲滅

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三菱重工業株式会社(以下、MHI)機械・設備システムドメイン自動車部品事業部に属するターボSBUは主に乗用車・商用車用のターボチャージャーを製造・販売している。ターボチャージャーはエンジンの空気量を制御し、排気ガスをクリーンにする製品であり、燃費向上や排ガス規制強化の波に乗り、欧州を中心に市場を拡大していました。
MHIの製品はその性能が高く評価され、事業が順調に拡大し、世界シェア30%を目指しています。しかし、事業の拡大に対して技術的な知見が有効に機能せず、不具合を起こすこともありました。自社内でもFMEAや部内規定の見直しなどを中心に対策に取り組んでいましたが、不具合撲滅には至らない状態でありました。原因の多くは、エンジンにおけるターボチャージャーの使われ方の想定の甘さ、使われ方が変化した際の影響を把握し切れていない点にありました。
そのような中で、市場クレーム撲滅に向け、自動車業界を中心に問題未然防止活動で成果を挙げていたITIDのエッセンスを吸収しながら自社の問題未然防止プロセスを確立したいという思いでプロジェクトが始まりました。

技術部の知見を集約し、設計者が能動的に既知/未知の不具合リスクに気付き、事前対策する

自動車部品メーカーの主な悩みの一つに、製品の目標値を決める際に必要な全ての確定情報が自動車メーカーから受領できるわけではない点が挙げられます。自動車メーカー側は細部まで機能割り振りを明確に出来ていないことが多く、情報不備や曖昧さが残る中でいかに情報を取りに行くか、そこから発生するリスクに気づけるかがポイントでもありました注。
そこで、各技術者の頭の中に眠っている技術知見(使われ方、外乱、要求、機能、要素、故障モード)を体系的に整理・見える化し、自動車メーカーの要求仕様に対して不足している情報を取りにいけるようにし、また要求仕様の変化点・変更点を起点に影響が及ぶ機能や発生しうる故障モードを気づけるようにして対策検討できるようになることを目指しました。

注)要求仕様の必要情報のリストや過去トラなどは存在しましたが、開発に必要な全ての情報が揃っているとは言い切れない状態でした。

①技術ばらしベースライン構築

技術知見の体系化には技術ばらし手法を用いました。樹形図形式で、技術の全体像と各技術知見間の関係を明らかにすることで、未決事項や変化点により、どんなリスクが発生しうるかを気づけるようにしました。リスクについては、部品視点での検討だけではなく、機能阻害の視点からも考えること、SSM(ストレス・ストレングスモデル)の考え方を活用することにより漏れを抑える工夫をし、2種類の主力ターボチャージャー製品を対象に変更点・変化点の基準となるベースラインを作成し、業務で使えるように準備を整えました。

②FMEAベースライン作成

技術ばらし情報をFMEAフォーマットに落とし込むことでFMEAのベースラインを作成しました。これにより、FMEAを1から作成するのではなく、過去知見をベースにした検討の土台を用いて、変化点・変更点が影響する部分のみ技術検討できるようになりました。小改良の設計はFMEAベースラインを修正してリスク検討を行えます。機能追加などの設計の場合は技術ばらしベースラインに立ち戻り、機能成立性とリスク抽出をしたのち、FMEAに再度落とします。また、社内外の知見を集約しながら、リスク評価(RPN)基準やリスク評価結果による対策要否判定基準も、人による評価ばらつきを抑え、手を打つべき対策に注力できる基準に改善しました。

技術ばらしベースラインとFMEAベースラインへの落とし込みイメージ

③実務の時間制約の中でできるかを検証

今までよりも広範囲のリスク検討を確実にやることが目的である一方、設計者が積極的に活用するためには、現実的に確保できる時間内で検討できることも重要なポイントでありました。そこで、ベースラインを用いて複数の実プロジェクトを用いながらトライアルを行い、従来同様の時間内で高品質のリスク抽出ができることを検証し、本番リリースへと移行しました。

④自走のためのファシリテーション研修

主力製品以外への展開、今後の新規製品への適用に向け、社内で技術ばらしベースラインを構築できるように、ITIDが保有するエンジニアリングのファシリテーション技術を移管する研修を実施しました。集合研修を通して考え方・知識を習得した上で、新規製品の技術ばらしベースライン構築を題材にファシリテーションを実践しました。実践の際は、ITIDのコンサルタントが立会い、具体的な改善点を繰り返し伝えた。現在は開発責任者がファシリテーションを行い、技術ばらしの構築を行っています。

この仕組みを使った開発プロセスに移管後、重大クレームはストップし続けています。また現在は欧州拠点への展開も行い、世界一実現に向けて邁進中であります。

三菱重工のターボチャージャーはおかげさまで世界中の自動車メーカー様に高評価を頂き様々なエンジンに採用されており、また、環境意識の高まりによる更なる需要拡大により当社事業も順調に拡大を続けています。
そのような中で、予期しないクレームの発生に苦慮していました。これは、エンジン関連技術が急速に進化する中でターボチャージャーの使用環境、条件も変化しており、潜在リスクがあっても従来通りの検討や評価ではそれが見えなくなってきたこと、また、事業急速拡大に伴いスキルの高い技術者の知見が技術陣全体に浸透しづらくなっていたことが主な原因でした。そこで、自動車業界で様々な実績を上げているITIDの門をたたきました。
ITIDの方々は自動車部品業界での経験も豊富で、当社技術者の中に入り込んで問題の根本を的確に捉えた上で各種手法やフレームワークを駆使して対策を提案してくれました。また、それを我々自身が運用し更に改良を継続していける様になるまで、親身になって一緒に取組んでくれました。
現在、このしくみをすべてのプロジェクトに適用することでクレーム撲滅に効果を上げています。また、新知見のベースラインへの追加や開発製品の新ベースライン構築等、現在も進化を続けています。ITIDに頼って良かったと思っています。ありがとうございました。

三菱重工業株式会社 機械・設備システムドメイン 自動車部品事業部 ターボ技術部 佐俣次長

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