日産自動車株式会社様 エンジン適合業務で熟練のノウハウを見える化し、誰もが必要な適合項目を抽出できる環境を構築

  • ものづくり

2016年までの5カ年計画「NISSAN POWER88」を掲げ、グローバル市場占有率8%に挑む日産自動車株式会社(以下 日産)。
この計画の達成には生産だけではなく、国内開発協力会社を含む開発のグローバル化を推し進めることが不可欠となっていました。
一方で、自動車に求められる燃費・排ガスなどの高度な要求を実現するためにエンジンのシステムは複雑化が進み、エンジン適合業務(※)におけるチューニングする制御パラメータ数増加やエンジニアの担当性能特化が加速。この結果、各性能間の相互作用が把握できず、適合業務のやり直しが多発していました。

  • ※:
    自動車エンジン開発業務のひとつ。燃費・排気性能などの要求性能に対してエンジンの点火タイミングや燃料噴射量を最適化するエンジン開発における最終工程。
    近年の自動車では最適化する制御パラメータは数千にもおよび、その数は乗数的に増え続けています。

熟練のエンジニアが持つ知見を見える化し、誰もが活用できる環境の構築

性能要件間の太さは関連の強さを表しています。

各性能間の相互作用が把握できないという課題を解決するために、エンジンで達成すべき性能項目(要件)と実現手段の関連性(要素)を可視化する活動に取り組みました。
また、エンジンで達成すべき要件・要素を考慮して実施すべき適合項目(タスク)を選定できるフレームワークを構築し、経験に関係なく開発に必要な期間・工数の見積もりが実施できる環境を構築しました。

  • OBD(On Board Diagnosis):車両に搭載されたコンピューターが行なう自己診断機能。

①分散していた熟練者のノウハウを収集・整理

性能毎に保有していたマトリクス(QFD:品質機能展開)を活用しながら、延べ十数名の熟練エンジニアに参画いただくワークショップを開催し、性能間をまたぐ要件と要素の関係性を定量化する作業に取り組みました。
このノウハウのグローバルでの活用を考慮して各性能で独自に定義している用語の再定義なども工夫しました。ワークショップを通じて予想以上に性能毎の考えの差や意図の違いがあることがわかると共に互いの業務内容を把握することができました。

②技術と業務の関連性を明確化

要件・要素とタスクの関係性、各タスクの実施順序を明確化。
エンジン適合業務における数百のタスクと技術情報が紐付いたことにより、どのパラメータを変えたら、どのタスクを実施すべきか?あるタスクを実施するために事前に実施すべきタスクはどれか?が一目瞭然となり、経験に頼らずに適合業務の計画を策定できるようになりました。

技術情報と業務情報をリンクし、必要な業務選定・最適な検討順序を考慮した日程計画を効率よく導出

③自走に向けた準備

国内外への開発のグローバル化を推し進めるためには構築した環境を日産の人員が自らの手で活用できるようにならなければいけない。
そのために[1]容易に活用できるツール化、[2]支援体制の構築、[3]トライアル適用の自走準備活動を実施しました。
[1]のツール化活動ではiQUAVISを活用。活動を通して得られた使い勝手や操作性に関する要望を盛り込むことにより2・3時間で最適な適合計画を策定することが可能となりました。
また、[2]・[3]の活動では日産内に3名(専任1名・兼任2名)の支援体制を構築し、推進人員の教育・マニュアルの作成・啓蒙活動・トライアル適用支援を実施しました。
グローバル化を念頭に国内協力会社におけるトライアル適用を行い、課題の抽出・改善にも取り組みました。

熟練エンジニア並みの適合項目選定が可能に、開発のグローバル化へ邁進

以前は熟練エンジニアの経験に頼っていた部品変更による適合項目の導出は、今では経験の浅い技術者でも熟練エンジニアと同等の結果を得ることができるようになりました。
また、要件-要素間の関係から得られる情報は、自分の担当分野だけでなく他の性能との関係性も把握できるため、互いの担当者が協力し合い開発スピードも向上することができました。
これは開発経験の少ない協力会社においても日産の熟練エンジニアのノウハウを活用できることを意味し、今後国内外のグローバル開発能力の底上げに寄与することができるでしょう。

数百におよぶエンジンの要件、要素、タスクを整理することは大変根気のいる作業でした。
しかし、増え続ける制御パラメータや開発のグローバル化などの環境を考えると、今やらなければいつか開発が破綻するという危機感をもってこの活動に取り組みました。
今回構築したフレームワークは今後もブラッシュアップを続けながら、日産の世界中のエンジン開発者が活用するグローバルツールに育てたいと考えています。

  • 記載情報は取材時(2014年6月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。
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