株式会社セブン銀行 本場アメリカで最先端のUXデザインプロセスを学び
銀行ビジネスの変革を推し進める

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コンビニATM事業最大手のセブン銀行。同社が、未来に向けて打ち出したのが、「社会の変化に対応する新しいサービスを創出し、金融事業をより多角的に展開する」という方針です。ATMプラットフォーム事業を主軸にした社会インフラとしての既存ビジネスを強化する一方で、全社を挙げて、「コンビニから生まれた銀行らしい、より便利で、お客様にとって身近な、独自性のあるサービスを追求しよう」という動きを加速させています。

「そこで必要だと感じたのが、革新的なサービスをスピーディーに開発するための手法と体制、そしてUXデザインを重視したプロセスです」と同社デジタルバンキング部 プロダクト開発グループ長副参事の紙中加代子氏は語ります。2019年、紙中氏は不足しているノウハウや知見を獲得するためFinTech先進国アメリカに駐在。そこでISID、ISIDアメリカ、そして電通グループとISIDの合弁会社である電通イノベーションスタジオ(以下、DIS)とともに、約9カ月間、「UXデザインのプロセス・思考を体得し、セブン銀行に文化として醸成するプロジェクト(以下、UX Design Project)」に取り組みました。

このプロジェクトでは、最初のフェーズで紙中氏が、ISIDアメリカやDISが提供するコーチングプログラムで金融アプリのプロトタイプ開発を体験。次のフェーズで、体験した手法を日本の実働プロジェクトである「Myセブン銀行」アプリの機能追加に生かし、並行してプロダクトロードマップの策定を行いました。「社内にUXデザインプロセスを根付かせるための第一歩は踏み出せた」と紙中氏。今後も継続して、手法の浸透やイノベーションを生み出すための研究開発などを続けていく予定です。

UXデザインについて学ぶため、FinTech先進国アメリカへ

セブン銀行は、2001年にアイワイバンク銀行として設立されて以降約20年、ATMプラットフォーム事業を主軸に金融ビジネスを牽引し続けてきました。そんな同社が、未来に向けての一手として打ち出したのが、「ATMだけでなく、よりお客様にとって身近な、独自性のある、新しい金融サービスを展開する」という方針です。

「こうしたイノベーティブなサービスを生み出すには開発手法の構造改革が欠かせません。これまでのように大きなプロジェクトを長い時間をかけて粛々と実行するのではなく、小ぶりなプロジェクトを、スピード感を持って、アジャイルで積み上げていくような、新たな体制やメソドロジーが必要だと考えました。 アジャイル型のアプリ開発も取り組んでいたのですが、狙いとしている本質を捉えきれていないなあというモヤモヤ感が拭いきれず……。それなら思い切って、日本の一歩も二歩も先を行くFinTech先進国アメリカで、アジャイルの手法や知見を勉強しようと、研修渡米をすることになりました」紙中氏はこのように話します。

他にももうひとつ、「UXについて学びたいという思いもありました」と続けます。
「2019年頃から注力しているアプリ開発において、『UXが非常に重要である』『UXを磨き上げなければ、真にお客様に使っていただけるサービスにはなり得ない』と痛感していました。それもあって、本場アメリカで、なにかUXを中心にした次世代につながる知見を獲得するための実験的なプロジェクトをやってみたいと漠然と考え始めたのです」(紙中氏)

ISIDとともに情報収集を行ったことで、「UX Design Project」が始動

2019 年に渡米し情報収集を行うなかで、ISIDアメリカの社員と話をする機会があり、セブン銀行が抱えている課題や目指すべき将来像などについて相談をするうちに、今回の「UXDesign Project」が形作られていったと言います。

「渡米したばかりのときは、なにができるか、なにをすべきかも未確定の状態でした。そんなときたまたま、日本で一緒に仕事をしたことのあるISID社員の方がISIDアメリカに出向になったと聞いたのです。挨拶もかねて一度お会いし、そこで『構造改革につながるようなメソドロジーを獲得したい』『本物のUXデザインプロセスについて学びたい』といったことをお話したら、『この人の話を聞いてみたら?』『ここを見学してみては?』といろいろな情報をくださって。まだお取引の確約もなにもない、相談レベルの段階だったにも関わらず、とても親身になって力を貸してくれました。ISIDアメリカの方のアテンドでUXデザイナーの養成学校を見学したり、UXデザインのスペシャリストからお話を聞く機会をつくっていただいたり。現地で長年FinTechビジネスに関わっていた方々から、厳しい競争を勝ち抜いてきたアメリカならではの素晴らしいベストプラクティスや、日本では知り得なかったマインドセット、アメリカの文化や文脈に沿った粒度の細かい情報などを得ることができて、とても大きな刺激を受けました」(紙中氏)

ISIDの営業担当としてISIDアメリカ社員から連絡を受けた近藤恭弘は当時のことを次のように話します。
「ISIDアメリカとDISはISIDの米国におけるR&Dセンターとして、シリコンバレーの最先端技術を絶えずキャッチアップして得たUXデザインの知見やパートナー企業とのコネクションがあります。セブン銀行が求めるユーザーを中心にしたUX設計のサービス創出というテーマに最も貢献できる布陣だと確信しました」
紙中氏の思い描くセブン銀行のサービス創出の構想、インターネットバンキングの構築などを通じて支援してきたISIDとの関係性、ISIDアメリカ・DISという存在によって、2020年、セブン銀行とISIDが共同で、「UX Design Project」をスタートさせたのです。

UXデザインプロセスを用いて、実験的に新しい金融アプリを開発

UX Design Projectでは、ISIDが日本との連携、ISIDアメリカがプロジェクトマネジメント、DISがUXデザインプロセスのコーチングを担当しました。2020年6月~9月にかけて、「デザイン思考のメソドロジーを実践しつつ新しい金融アプリのプロトタイプをつくる」というテーマでフェーズ1を実施し、同年10月~2021年3月にかけて、「フェーズ1で学んだメソドロジーを日本で行われている実プロジェクトで実践する」「今後のプロダクトロードマップをUX視点で策定する」などの内容を中心としたフェーズ2を実施しました。

本プロジェクトを紙中氏と共にリードしたのが、DISの曽我亘です。曽我はフェーズ1を振り返り、「まずはターゲットとなるミレニアル世代にお金の悩みについて聞くところからスタートし、アイディエーションを行い、デザインプロトタイプを作ってまたリサーチする、というサイクルを3セット、とにかく徹底的に繰り返しました。途中で作ったものをゼロベースでリビルドするような局面もあり、なかなかハードなプロセスでした」と話します。

こうしたプロセスで行われたフェーズ1の特徴のひとつと言えるのが、ソフトウエア開発者やプロダクトマネジャーのネットワークであるGigster Inc.から3名のUXデザイナーを選定し、アイディエーションの段階から参加してもらったこと。テック系大企業でプロダクトデザインをリードし続けてきた米国人デザイナーや、アメリカでFinTechアプリの開発に携わった経験を有する日本人デザイナーなど、異なるバックグラウンドを持つプロフェッショナルを集め、ユーザーリサーチを基点にした、ビジネスチャンスの拡大に貢献する、ハイレベルなデザインプロトタイプを作ってもらいました。

紙中氏は「実際にデザイナーから上がってきたプロトタイプを見てUXを重視するプロセスとはこういうことか!と衝撃を受けました」と振り返ります。
「ユーザーリサーチの結果から、ミレニアル世代をターゲットにした手軽な投資アプリを開発しようということになったのですが、提案いただいたのは、金融の世界全体を表現したような幅広いものだったり、コンビニ店舗の利便性とアプリを組み合わせたようなものだったりと、『こんな視点があるのか!』『こんな可能性があるのか!』と驚くようなものばかりでした。どれも、私たちが要件を固めて、それからデザイナーに表層的なビジュアルデザインだけを依頼する、という日本型・従来型のプロセスでは、絶対に生まれ得なかったもの。この取り組みを通して、イノベーションの生み出し方や、デザイン思考の神髄、なにをすべきかが明確でない局面でとるべき手法や考え方などが理解できたように思います」(紙中氏)

実働中のプロジェクトにメソドロジーを適用しつつ、プロダクトロードマップの見直しまで実行

続くフェーズ2で実施したのが、フェーズ1で獲得したUXデザインプロセスを、日本のセブン銀行で行われている実プロジェクトに採り入れることでした。ちょうど日本で、「Myセブン銀行」アプリに買い物のお釣りを投資に回すことができる「トラノコ」アプリとの連携機能を強化するプロジェクトが進んでおり、そこに紙中氏を中心としたUX Design ProjectのチームメンバーがUXデザインのメソドロジーを持ち込む形で、ユーザー視点ありきのプロセスを実行したと言います。
既に進行中のプロジェクトであったものの「UXデザインとはどういうものなのか、どんなプロセスで実現するものなのかは伝わったと思う」と紙中氏。プロセスを体験した日本の開発メンバーからも「未来につながる大切な視点を得ることができた」「もっと早く採り入れるべきだった」という声が聞かれ、サービス開発プロセス改革の第一歩を踏み出すことができました。

こうした取り組みと並行して行われたのが、「『Myセブン銀行』アプリのプロダクトロードマップの作成」です。既に策定されていた機能追加のための計画を、ユーザーインタビューやアンケートをベースに精査し、「どの機能を優先的に開発すべきか」「どのような順番、タイミングで実装すべきか」など細かく再定義していきました。

本プロジェクトのPMを担当するISIDアメリカのマエダサララは、「アプリやサービスは、『作って終わり』ではなく、『ローンチこそがスタートポイント』だと考えて向き合わなければいけないものです。ですから、ロードマップのなかに、ユーザーの声をフィードバックし、採り入れながら、常にアジャストし進化させるようなプロセスも徹底して網羅するようにしました。これらのリファインによって、『お客様の身近に』というコンセプトをより尖らせていったような、明確で、意志のある、集大成的なロードマップが出来上がったと感じています」とその手応えについて語ります。

今後は「私たちの部署がセブン銀行全体のデジタル施策の中核、いわばCoE(Center of Excellence)の役割を担いたい」と意気込みを話す紙中氏。既にDISらと共にGoogleが開発したオープンソースのアプリケーションフレームワーク「Flutter」の技術検証も進めています。
プロジェクト全体をサポートするISIDの近藤は「ISIDは、UXデザインのノウハウを集結させた『UXデザインセンター』という組織も持っています。国内の専門組織の力や海外とのネットワークも生かして、今後もSIerとしてだけでなくビジネスパートナーとしての価値を提供していく構えです」と話します。

まずは本物のUXデザインを体得し、社内に文化として根付かせ、さらにその先の未来へ——。これからも、セブン銀行とISIDは、互いに力を尽くしながら、ともに銀行の概念を打ち破る革新的な挑戦へと歩みを進め続けていく計画です。

「Myセブン銀行」アプリの画面

2021年11月更新

株式会社セブン銀行 会社概要

  • 社名株式会社セブン銀行
  • 本社東京都千代田区丸の内1-6-1
  • 設立2001年
  • 資本金307億2千4百万円
  • 経常収益1116億円(2021年3月期)
  • 従業員数470人(2021年3月31日現在)
  • 事業内容銀行業
  • 記載情報は取材時(2021年7月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。