ブラザー工業株式会社 原理を見据える“機能エンジニアリング”で設計力を強化

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ブラザー工業 本社外観(提供:ブラザー工業株式会社)

1908年にミシン修理会社として産声をあげたブラザー。長年培われたものづくりの技術とノウハウを武器に、現在ではデジタル印刷機や工作機械、通信カラオケシステムなど多彩な製品を世に送り出しています。なかでも一番の稼ぎ頭がプリンターや複合機。このマーケットは国内外の強豪メーカーが凌ぎを削る激戦市場です。2015年、同社はISIDエンジニアリングの提唱する「機能エンジニアリング~製品機能を原理に立ち返って紐解き、そこから新機軸を生み出すこと」に共感し、設計改革とエンジニアの意識改革に着手しました。以降、ISIDエンジニアリングのコンサルティングを通して、機能エンジニアリングの発想を根付かせます。「耐久性や印刷スピードといった製品スペックを試作機で評価し、そこで見つかった問題を一つひとつ潰していくのが従来の主な開発プロセス。しかし、そのやり方では今の製品の枠組みから抜け出せず、機能の追加や新たな技術の採用によって圧倒的な製品を生み出す事が難しくなっていました。機能の原理原則に立ち返り、論理的に設計していくことで、形状という制約が取り払われ、新たな発想で製品の設計・開発ができる。その設計思想の転換にISIDエンジニアリングのコンサルティングが大変役立ちました」とレーザープリンター開発部隊であるLE開発部 坂口雅敏氏は話しています。

右肩上がりのなかの危機感

「2012年当時、事業は順調に伸びていたのですが、開発現場には危機感が広がっていました」と話すのは当時プリンシパルとしてブラザー工業のレーザープリンター開発を指揮していた坂口雅敏氏。国内外の競合に一足遅れて市場参入した同社でしたが、鍛え抜かれた機動力で続々と新製品を世に送り出し、売上は右肩上がりに伸びていました。

傍から見れば順風満帆。しかし、内情はそうでもなかったと坂口氏は振り返ります。「開発プロジェクトの遅れが少しずつ発生するようになっていました。新しい技術を採用する際に、これまで培ったものづくりの知見やノウハウだけでは乗り切れなくなっていたのです。メカニズムを解明し、根本の部分から論理的に開発する力をつけなければと感じていました」。

耐久性や印刷スピードといった製品スペックを試作機で評価し、そこで見つかった問題を一つひとつ潰していくのが従来の主な開発プロセス。「それではどうしても“もぐら叩き”になってしまう」と坂口氏は指摘します。「試作で見つかった問題しか対策が立てられず、その問題が解決できてもまた次の問題が出る。その結果、開発期間が伸びてしまうのです」。

原理原則を見据えカラクリを解く

現状をなんとか変えたい。そう思っていた坂口氏が出逢ったのが書籍「つくりたいんは世界一のエンジンじゃろぅが!?機能エンジニアリングのすすめ」(著者羽山信宏、現ISIDエンジニアリング特別顧問)。まさに思い描いていたことが書かれていたと坂口氏は振り返ります。

性能を目標にしている限り、それは本質でないものを追求することを意味し、ひいては開発の方向性をも不安定にする。性能ではなく、機能に着目して開発すべきだ(中略)本来的な“機能”とは何だろうか。具体的に言えば、エンジンの大きさや使用する燃料、形式が違っても、エンジンすべてに共通した本質的な仕事とは何か、ということだ。
~つくりたいんは世界一のエンジンじゃろぅが!?機能エンジニアリングのすすめ、より抜粋~

この本の核となっている中心思想が“機能エンジニアリング”。著者である羽山は、マツダ株式会社での開発経験をもとに、製品を成り立たせている本質的機能を見極め、そのメカニズムを徹底的に解き明かすことが製品開発には重要だと説いています。

坂口氏はさっそく、“機能エンジニアリング”の発想をLE開発部の設計部隊に移植させたいと、羽山が特別顧問を務めるISIDエンジニアリングに声をかけます。

精鋭部隊を鍛えるワークショップ

ワークショップで学んだ精鋭部隊はいま、若い人たちを引っ張っていく中心的存在になっています

ブラザー工業株式会社 LE開発部 坂口雅敏氏

「業界や事業環境、社内の状況も異なります。自動車業界と同じやり方をそのまま根付かせることができないことは明白でした」ISIDエンジニアリングのコンサルタント嶌津、靭は、坂口氏と出会った当時をそう振り返ります。

たとえばレーザープリンターの場合、トナー粒子を帯電させ、紙の上に乗せて熱で溶かして印刷しますが、7、8ミクロンほどの粒子の帯電メカニズムをすべて理解し、コントロールするのは至難の技です。このような製品開発において、機能エンジニアリングをどう注入していくか。

坂口氏とISIDエンジニアリングは、開発現場の現状把握からスタートし、エンジニアの意識改革、製品機能のメカニズム解明、新技術開発のためのロードマップ策定を二人三脚で実施。実際の開発課題をテーマに議論し、機能エンジニアリングへの理解を深めると同時に、エンジニアの具体的な設計検討を推進しました。

「ここで学んだ精鋭部隊はいま、若い人たちを引っ張っていく中心的存在になっています」と坂口氏は話します。 しかし、「その後、受講したメンバーと新たに参画したメンバーに少しずつ差が生まれてきました」と続けます。

そこで、この活動に参加していなかったエンジニアにも幅広く考え方を広めるため、ブラザー工業内だけで実施できる自律型教育プログラムも策定。そうやって時間をかけて、LE開発部全体に機能エンジニアリングの考え方を根付かせていきました。

競争市場で勝ち残るための開発力を

期限に追われる開発担当者は、発想の転換が難しい。しかし、それをしなければ先に進めない。その転換のためにISIDエンジニアリングのコンサルティングは大きな意味がありました

ブラザー工業株式会社 LE開発部 坂口雅敏氏

製品開発の考え方を変える“機能エンジニアリング”は、その性質上すぐに効果がでるようなものではありません。それでも“機能エンジニアリング”が開発力強化に必須であることは明らかだと坂口氏は語ります。ISIDエンジニアリングの嶌津、靭はその理由を次のように話します。
「性能を追い求め少しずつ改善していくやり方では製品の劇的な改善は見込めません。機能のメカニズムを解明し、様々な先入観を取り除くことで、よりよい製品を生み出す新たな発想が生まれます。機能をベースにした開発が根付けば、手戻りが少なくなり、開発スピードが高まります。そして何より、このアプローチはエンジニアたちに、ものづくりの本来の楽しさを取り戻してくれます」

「開発担当者は決められた期限のなかで仕事をこなしているので、どうしてもこれまでの資産の流用に走りがちです。エンジニアに発想の転換を促すのはなかなか時間がかかりますが、それを乗り越えなければ先に進めません。その意味でISIDエンジニアリングのコンサルティングは大きな意味がありました」。機能エンジニアリングの効果が、次期機種の開発で出てくれば良いと、坂口氏は期待しています。

2020年12月更新

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社名
ブラザー工業株式会社
本社所在地
名古屋市瑞穂区苗代町15番1号
創業
1908年
設立
1934年1月15日
資本金
19,209百万円 (2020年3月31日現在)
売上収益
連結 637,259百万円 (2019年度)
従業員数
連結 37,697名 / 単独 3,800名 (2020年3月31日現在)
事業内容
プリンティング・アンド・ソリューションズ事業、パーソナル・アンド・ホーム事業、マシナリー事業、ネットワーク・アンド・コンテンツ事業、ドミノ事業
  • 記載情報は取材時(2020年10月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。

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