改正労働基準法のポイント:第5回

押さえておきたい改正労働基準法のポイント! 実務運用編

05 年次有給休暇日を時間単位で付与!〜社員から求められたとき、会社はどうする?〜

著者:奥村 禮司氏

2009年11月27日掲載

1.年次有給休暇を時間単位で必ず付与しなければならないのか?

労働基準法が改正されたことにより、平成22年4月1日から年次有給休暇を時間単位で付与することができるようになりました。時間単位です。

保育園の送迎のため、朝と夕方1時間ずつ取得。ちょっと市役所に寄るので、朝1時間ほど取得。これなら分かります。でも、時間単位で取得できるということは、お昼休みの時間をはさんで前後1時間ずつ、午後の眠たい時間に1時間、おやつタイムで1時間、なんてもことも可能だということになります。これってどう思いますか?

年次有給休暇を時間単位で付与する場合、保育園の送迎、市役所等での所用は可、お昼寝タイム、おやつタイムは不可、なんてことはできません。求められれば、どんな目的でも拒むことはできないのです。
「平成22年4月1日から年次有給休暇を時間単位で付与!」、こう考えると導入することをためらっちゃいますね。

さて、この年次有給休暇を時間単位で付与ですが、平成22年4月1日から必ず付与しろということではありません。労使で話し合い、労使による協定書を結ぶことができれば、付与することが可能となります。つまり、年次有給休暇を時間単位で付与するためには、労使による協定書が必要だということです。この協定書がなければ、時間単位での付与はできません。

このため、労働者から年次有給休暇を時間単位で求められても、労使による話し合いがうまくいかず、協定を結ぶことができなければ、付与する必要は全くありません。

また、時間単位での付与は、管理が大変ですから、会社側が協定することを拒否するということも考えられます。拒否しても別に違法ではありません(まあ、もめるとは思いますが・・・)。

労働基準法の改正条文

第39条第4項

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第1号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前3項の規定による有給休暇の日数のうち第2号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより時間を単位として有給休暇を与えることができる。

  1. 時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲
  2. 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(5日以内に限る。)
  3. その他厚生労働省令で定める事項

2.年次有給休暇を時間単位で付与する場合の注意点

では、ここから先は、実際に年次有給休暇を時間単位で付与する場合の注意点をお話ししていきましょう。

年次有給休暇を時間単位で付与する場合は、労使による協定書を結ばなければならないとお話しました。

この労使による協定書は、労働者が時間単位による取得を請求した場合において、与えることができるとしているものですから、労働者に対して時間単位による取得を義務付けることはできません。労働者が時間単位で取得するか、1日単位で取得するかは、労働者の意思によります。

また、あらかじめ時間単位で取得することができない時間帯を定めたり、所定労働時間の途中に時間単位での取得を制限したり、1日において取得することができる時間数を制限することも認められていません。
当然、利用目的によって時間単位での付与を制限することもできません。

この労使による協定書では、時間単位で付与する対象労働者を限定することもできます。時間単位による取得は、例えば一斉に作業を行うことが必要とされる工場などにはなじみませんよね。

時間単位での付与は、5日以内とされています。労使による協定書で、何日付与するか決めて下さい。因みに、今年度に取得されなかった年次有給休暇の残日数・時間数は、来年度に繰り越されることになりますが、来年度の付与日数は、今年度からの繰越分も含めて5日以内です。繰越分があるからといっても、 7日や8日とはならず、最大5日以内しか取得できません。
因みに、時間単位での付与ですから、2時間や3時間といったように、1時間以外の時間を単位として付与することもできます。

また、この労使による協定書では、1日分の年次有給休暇が、何時間分の時間単位の年次有給休暇になるのかを決める必要があります。このとき、時間単位の年次有給休暇が、1日の所定労働時間数を下回ることはできません。つまり、1時間に満たない時間数については、1時間に切り上げることとなります。

例えば、1日の所定労働時間が7時間40分の場合、7時間と40分とすることはできず、8時間分の時間単位での年次有給休暇を付与しなければならないということです。
20分は、会社から持ち出しです。

「んっ?」

とすればですよ、1日の所定労働時間が7時間40分の場合、「1日の年次有給休暇を取得するよりも、8時間分の時間単位での年次有給休暇を取得した方が得?」ということになりそうですね。
これってどう思います?

一応通達でも、「原則として1日の年次有給休暇を取得したものとして取り扱う」としています。

でも、「8時間分の時間単位での年次有給休暇を取得したものとしても違法ではない」ともいっていますけどね。
ここは、きっぱり、「1日の年次有給休暇を取得したものとする!」としましょう。協定書で決めればOKです。

時間単位で与えた年次有給休暇の時間については、

  • (1) 平均賃金をその日の所定労働時間数で割って算出した額の賃金
  • (2) 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の額をその日の所定労働時間数で割って算出した額の賃金
  • (3) 標準報酬日額をその日の所定労働時間数で割って算出した金額

のどれかを、その時間に応じて支払わなければなりません。ややこしい言い方ですが、まあ、単純にいえば、年次有給休暇が時間単位となっても、支払う賃金の計算方法は同じですよということです。

「その日の所定労働時間数」とは、時間単位で取得した日の所定労働時間数をいいます。「平均賃金」「通常の賃金」「標準報酬日額」のいずれを基準とするかについては、日単位による取得の場合と同様です。

年次有給休暇を付与する際の注意点については、次回以降もまだまだ続きます。次回も是非参考にして下さいね。

執筆者略歴

奥村 禮司氏

新事業創造育成実務集団代表、社会保険労務士、CSR労務管理コンサルタント、労働法コンプライアンスコンサルタント。上場企業や外資系企業など多数の企業の顧問として、雇用管理・労務管理などの指導、相談に携わる。また、労働法の講演会や執筆などのほか、産業能率大学総合研究所兼任講師、株式会社きんざいの講師としても活躍中。

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