改正労働基準法のポイント:第4回

押さえておきたい改正労働基準法のポイント! 実務運用編

04 50%以上の割増賃金に代わり有給休暇でもOK!?

著者:奥村 禮司氏

2009年11月13日掲載

「時間外労働が1ヵ月60時間を超えたとき、割増賃金が50%以上になる!」と、これまでお伝えしてきました。しかし、もう1つ、50%以上の割増賃金の支払に代わる方法もあります。それは50%以上の割増賃金に代わり、有給休暇を付与するというものです。今回は、割増賃金に代わり付与する代替休暇についてお話しましょう。

代替休暇を付与する場合は、労使で話し合い協定書を作成します。そしてこの協定書に50%以上の割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(年次有給休暇とは別)を付与することを定めることが必要です。

但し、この場合協定書において、労働者に代替休暇の取得を義務付けることはできません。労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは、あくまでも労働者の自由な意思によります。

また、協定書で代替休暇を付与することを定める以上、労働者がきちんとその代替休暇を取得することが必要です。この代替休暇をきちんと取得したとき、始めてその分の割増賃金を支払う必要がなくなるのです。
労働者が代替休暇を取得するつもりでいても、忙しくて結局取得できなかったときは、結局割増賃金を支払うことになります。

では、会社が代替休暇を付与するつもりがないのに、労働者から代替休暇を求められた場合は、どうしたらよいでしょうか?
労使で話し合ったが協定できなかった場合には、代替休暇を付与する必要はありません。

労働基準法の改正

第37条第3項 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第39条の規定による年次有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

代替休暇を付与する場合の協定書には、代替休暇を算定する方法を具体的に定め就業規則に記載する必要があります。

この代替休暇は、60時間を超え割増賃金が50%以上となる分を、全て休暇に代えるというものではありません。今まで通り、時間外労働に対する25%以上の割増賃金は支払いつつ、25%から50%以上のアップした分を休暇に代えるというものです。このため、代替休暇を付与しても、いままで通り25%以上の割増賃金は支払う必要があります。

割増率

就業規則に記載する算定方法は、次の通りです。

代替休暇として与えることができる時間の時間数=(1箇月の時間外労働時間数−60時間)×換算率 換算率=労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率(50%以上)−労働者が代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率(25%以上)

算定例1

A社:賃金規程には、時間外労働の割増賃金率が25%、60時間超で50%と記載
もしも、時間外労働が1ヵ月80時間であった場合

換算率=50%−25%=25% 代替休暇として与えることができる時間の時間数=(80時間−60時間)×25%=5時間分の有給休暇を付与

算定例2

S社:賃金規程には、時間外労働の割増賃金率が30%、60時間超で65%と記載
もしも、時間外労働が1ヵ月85時間であった場合

換算率=65%−30%=35% 代替休暇として与えることができる時間の時間数=(85時間−60時間)×35%=8.75時間分の有給休暇を付与(切捨てはできません)

となります。但し、代替休暇の単位は・・・

代替休暇の単位は、1日または半日単位となっています。協定書には、その一つまたは両方を代替休暇の単位として定める必要があります。

「1日」とは所定労働時間をいい、「半日」とはその2分の1をいいますが、「半日」については、必ずしも厳密に1日の所定労働時間の2分の1する必要はありません。午前の就業時間と午後の就業時間にわけ、それが2分の1となってなくても構いません。但し、この場合には協定者で「半日」の定義を定めておいて下さい。

ここで問題発生です。では、代替休暇として与えることができる時間の時間数が、協定書で定めた代替休暇の単位(1日または半日)に足りない場合は、どうしたらよいでしょうか?

この場合、いくつか方法が考えられます。

  • 【1】 1日または半日に足りない時間数分を会社が別途付与する方法。
  • 【2】 他の休暇と代替休暇とを合わせて1日または半日の休暇を付与する方法。
    方法は2つ考えられます。
    1つは、次回お話しますが、労働基準法の改正で、年次有給休暇を時間単位で付与することもできるようになりましたので、1日または半日に足りない時間数分を、この時間単位の年次有給休暇と合わせて付与する方法です。
    もう1つは、前月の代替休暇と合わせて付与する方法です。
    どちらにしてもこの場合は、他の有給休暇と代替休暇とを合わせて1日または半日の休暇を与えることができる旨を協定書に定めることが必要です。
  • 【3】 1日または半日の代替休暇を与えることができない分は、原則通り50%以上の割増賃金を支払う方法。
    代替休暇として代替休暇として与えることができる時間数のうち、1日または半日分として付与できるものは代替休暇とし、残りの時間数分は、もともとの時間外労働として50%以上の割増賃金を支払う方法です。

現実的な対応を考えれば、【3】の方法を取る会社が多くなるものと考えられます。

因みに、代替休暇を与えることができる期間は、時間外労働が60時間を超えた月の翌月から2ヵ月以内です。

このため、時間外労働が1ヵ月60時間を超えたときの割増賃金の支払については、次のようになります。

  • (1)

    労働者に代替休暇取得の意向がある場合
    今まで通り、賃金規程による割増賃金についてのみ賃金支払日に支払います。
    先のA社の例であれば25%、S社の例であれば30%を割増した賃金。

    しかし、代替休暇取得の意向があっても実際に代替休暇を取得できなかったときは、労働者が代替休暇を取得できないことが確定した賃金計算期間の賃金支払日に、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金について支払うことが必要となります。先のA社の例であれば25%。S社の例であれば35%。

  • (2) 労働者に代替休暇取得の意向がない場合、労働者の意向が確認できない場合など
    法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金について、割増賃金が発生した賃金計算期間の賃金支払日に支払います。
    先のA社の例であれば50%、S社の例であれば65%を割増した賃金。

さて、皆さんの会社では、50%以上の割増賃金を支払うのと、代替休暇を付与するのとどちらがよさそうですか?
でもね、もっともっといい方法があるんですよ。それは・・・時間外労働を無くすことです。ふふふ。

執筆者略歴

奥村 禮司氏

新事業創造育成実務集団代表、社会保険労務士、CSR労務管理コンサルタント、労働法コンプライアンスコンサルタント。上場企業や外資系企業など多数の企業の顧問として、雇用管理・労務管理などの指導、相談に携わる。また、労働法の講演会や執筆などのほか、産業能率大学総合研究所兼任講師、株式会社きんざいの講師としても活躍中。

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