改正労働基準法のポイント:第3回

押さえておきたい改正労働基準法のポイント! 実務運用編

03 時間外労働が60時間を超えたとき割増賃金が50%に!〜課長や店長にも割増賃金!?〜

著者:奥村 禮司氏

2009年10月27日掲載

課長に昇進したお陰で『年収が減ってしまいました(苦笑)』という話を聞きます。課長に昇進すると、管理監督者として残業手当が支給されなくなるからだそうです。でも本当なのでしょうか?課長になると残業代、割増賃金を支払う必要はないのでしょうか?今回の改正により、時間外労働が60時間を超えたとしても50%以上の割増賃金を支払う必要はないのでしょうか?

1.時間外労働等の適用除外

課長は管理監督者であり、割増賃金を支払う必要はないと勘違いされている企業も多いですが、課長にも通常は割増賃金の支払が必要です。
『えっ?管理監督者には割増賃金を支払う必要がないのでは?』と思われる方がいるかもしれません。確かに管理監督者であれば、労働基準法の労働時間、休憩、休日についての規定については適用されません。つまり、管理監督者であれば、時間外労働や休日労働に関する割増賃金を支払う必要はありません。(但し、深夜労働に関する割増賃金は必要ですので、お間違いのないように!)

では、課長は監督管理になるのでしょうか?そもそも管理監督者とは、どのような立場の方をいうのでしょうか?

労働基準法

第41条

この法律で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

  1. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

2.監督若しくは管理の地位にある者

「監督もしくは管理の地位にある者」、いわゆる管理監督者とは、いったいどこからの役職者をいうのでしょうか?課長は管理監督者なのでしょうか?店長は管理監督者ではないのでしょうか?通達では管理監督者について以下のようにいっています。

  • (1) 管理監督者とは、一般的には、部長、工場長などの労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある社員のことをいい、役職などの名称にとらわれず、実態に即して判断しなければならないこと。
  • (2) 職制上の役職者のうち、労働時間や休憩、休日などに関する規制の枠を超えて活動することを要請せざるを得ない、重要な職務と責任があり、現実の勤務態様も、労働時間などの規制になじまないような立場にある社員に限ること。
  • (3) 一般的に、企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下「職位」)と経験、能力等に基づく格付(以下「資格」)とによって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるにあたっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。
  • (4) 定期給与である基本給、役付手当などにおいて、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナスなどの一時金の支給率、その算定基礎賃金などについても役職者以外の一般社員に比し優遇措置が講じられているか否かなどについて留意する必要があること。

以上から考えると、(1)において、課長は、一般的には管理監督者ではないといえます。このため、課長には時間外労働や休日労働に関する割増賃金を支払う必要がありますし、時間外労働が60時間を超えたときには当然50%以上の割増賃金を支払う必要がでてきます。今回の改正の対象者ということです。

管理監督者として時間外労働や休日労働に関する割増賃金を支払う必要がないのは、通常、部長以上であると考えた方がよいでしょう。しかしながら、部長であれば絶対に割増賃金を支払う必要がないのかというとそういうわけではありません。部長であっても、「労働時間が規制」され、「責任と権限」もなく、「役職手当など」が小額であれば、やはり時間外労働や休日労働に関する割増賃金を支払う必要があります。名称ではありませんので注意して下さい。

3.某ファーストフード店の店長

では、某ファーストフード店の店長はどうだったのでしょうか?
ご存知のことと思いますが、「多店舗展開する飲食業の店長が管理監督者に当たるかどうかの裁判」で、この某ファーストフード店の店長、多店舗展開する飲食業の店長は、管理監督者ではないとして企業が敗訴した事例がありました。

この裁判事例では、先の説明にもにあったように「2.(2) ・・・勤務態様の実態・・・」についての判断要素において、店長の勤務態様が、「管理監督者としての職務も行うが、企業から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている」とされました。つまり、マニュアルに従った業務では、管理監督者として裁量がほとんどないと判断されてしまったのです。

また、先の説明にもあったように「2.(4)・・・ 基本給、役職手当・・・」についての判断要素においても、「一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性が否定される」としています。つまり、店長として働いているのに、部下より賃金の総額が低いのはおかしいという判断です。

なんとも、耳の痛い裁判事例ではあります。
厚生労働省も、この事例を受け、管理監督者についてあわてて通達を出しました。ただし、この通達は、以前出している通達の確認のような通達であり、内容的には目新しいものではありません。
企 業としては、ここらでもう一度管理監督者について、考え直したほうが良いのかもしれませんね。

通達

多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について
  1. 「職務内容、責任と権限」についての判断要素
    店舗に所属する労働者に係る採用、解雇、人事考課及び労働時間の管理は、店舗における労務管理に関する重要な職務であることから、これらの「職務内容、責任と権限」については、次のように判断されるものであること。
    • (1) 採用
      店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
    • (2) 解雇
      店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
    • (3) 人事考課
      人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
    • (4) 労働時間の管理
      店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
  2. 「勤務態様」についての判断要素
    管理監督者は「現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから、「勤務態様」については、遅刻、早退等に関する取扱い、労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により、次のように判断されるものであること。
    • (1) 遅刻、早退等に関する取扱い
      遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
      ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。
    • (2) 労働時間に関する裁量
      営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
    • (3) 部下の勤務態様との相違
      管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
  3. 「賃金等の待遇」についての判断要素
    管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが、「賃金等の待遇」については、基本給、役職手当等の優遇措置、支払われた賃金の総額及び時間単価により、次のように判断されるものであること。
    • (1) 基本給、役職手当等の優遇措置
      基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。
    • (2) 支払われた賃金の総額
      一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
    • (3) 時間単価
      実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
      特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。
(平成20年9月9日 基発第0909001号

執筆者略歴

奥村 禮司氏

新事業創造育成実務集団代表、社会保険労務士、CSR労務管理コンサルタント、労働法コンプライアンスコンサルタント。上場企業や外資系企業など多数の企業の顧問として、雇用管理・労務管理などの指導、相談に携わる。また、労働法の講演会や執筆などのほか、産業能率大学総合研究所兼任講師、株式会社きんざいの講師としても活躍中。

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