改正労働基準法のポイント:第1回

押さえておきたい改正労働基準法のポイント! 実務運用編

01 時間外労働が60時間を超えたとき割増賃金が50%に!〜割増賃金の端数処理に注意!〜

著者:奥村 禮司氏

2009年9月17日掲載

あなたの会社は、時間外労働がどれくらいありますか?他社と比べて多いと思いますか?それとも少ないと思いますか?
厚生労働省が発表している「毎月勤労統計調査」によると、平成20年の月間総実労働時間は149.3時間、年間総実労働時間は1,792時間。なんと調査を始めた平成2年以来初めて1,800時間を割り込んだんです。その内訳をみると、所定内労働時間は138.6時間、所定外労働時間は10.7時間となっています。
時間外労働は1月平均で10.7時間。あなたの会社は時間外労働が多すぎてはいませんか?

総実労働時間 一般労働者 パートタイム
労働者
所定内
労働時間
所定外
労働時間
平成19年 150.7 170.6 94.0 139.7 11.0
平成20年 149.3 169.3 92.6 138.6 10.7
前年比 -1.2 -0.9 -1.7 -1.1 -1.5
厚生労働省発表「毎月勤労統計調査

1.時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金率を改定

労働基準法が改正されたことにより、平成22年4月1日から割増賃金の計算をする際、時間外労働が60時間を超えた場合は、50%以上の率を加算した割増賃金を支払うことになりました。50%以上です!高い!
但し、この改定は、当分の間300人以下の中小企業は適用されません。「当分の間」とは、おおよそ3年くらいだと思って下さい。

労働基準法の改正条文

第37条第1項

使用者が、労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

第138条

中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5,000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第37条第1項ただし書の規定は、適用しない。

当分の間、適用されない中小企業の範囲は、次の通りです。

(1) 資本金の額または出資の総額が

小売業 5,000万円以下
サービス業 5,000万円以下
卸売業 1億円以下
上記以外 3億円以下

または

(2) 常時使用する労働者数が

小売業 50人以下
サービス業 100人以下
卸売業 100人以下
上記以外 300人以下
  • (2) の労働者数は、各事業所単位ではなく、会社単位で判断されます。

このため、時間外労働や深夜労働、または休日労働があった場合の割増賃金の計算は、次のようになります。

時間 割増率
時間外労働 25%以上
時間外労働が60時間超 50%以上若しくは有給休暇
深夜労働 25%以上
休日労働 35%以上
時間外労働+深夜労働 50%以上(25%+25%以上)
時間外労働が60時間超後の深夜労働 75%以上(50%以上+25%以上 )
若しくは有給休暇
休日労働+深夜労働 60%以上(35%以上+25%以上)
休日労働+時間外労働 35%以上(休日労働がそもそも時間外であるため、25%以上をプラスする訳ではない)
労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)

ここで、質問です。

時間外労働の中には、休日労働した時間は含めるのでしょうか?含めないのでしょうか?答えは、「含めない」です。

では、もう1つ質問です。

この休日出勤ですが、週休2日制の会社において、1日休みながら1日出勤した場合でも、休日出勤となるのでしょうか?答えは、「週休2日制の会社の場合、2日のうち1日出勤しても法律上は休日労働とはならない。」です。

とすると、問題発生です!

「週休2日制の会社の場合、2日のうち1日出勤しても法律上は休日労働とはならない。」であっても、あなたの会社では、休日労働として扱っていませんか?
平成22年4月1日以降、時間外労働が60時間を超える場合の割増率と休日労働の場合の割増率が逆転します。今後は法定内休日と法定外休日の時間管理を厳密に行わなければならないということです。

就業規則や賃金規程の改定が必要かもしれません。また、いまの給与計算ソフトなどが対応できるか確認しておいて下さいね。

さて、ここから先は、割増賃金を計算する際、誤解している方が非常に多い内容について解説していきましょう。あなたの会社は、誤解していませんか?コンプライアンス、法令遵守していますか?是非確認してみて下さい。

2.労働時間や割増賃金を計算する際の端数処理

あなたの会社では、労働時間を計算するとき、毎日1分1秒単位で労働時間を計算していますか?1日ごと5分、10分と切捨てて処理している、なんてことありませんか?

労働時間を計算するときは、毎日1分1秒単位で労働時間を計算することになっています。労働基準法の第24条に労働した時間の賃金は「全部支払え!」としてあるからです。
もしも、1日ごと5分、10分と切捨てて処理していたとすれば、これは労働基準法違反です。1日ごとに5分、10分と切捨てて処理することは認められていません!
また、割増賃金を計算する際の端数処理に当っては、「1箇月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切捨て、それ以上を1時間に切上げること」の取り扱いは認められていますが、この端数処理も、1箇月における合計時間について許されるもので、1日ごとに5分、10分と切捨てて処理することは認められていません。

思い当たるところがあれば、早急に改善して下さいね。法令遵守!コンプライアンス!

通達

賃金の端数処理の取り扱いは以下の通り。

  1. 割増賃金の計算における1時間当たり賃金額及び1時間当たりの割増賃金に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げて処理すること。
  2. 1箇月間における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計につき30分未満の端数を切捨て、それ以上を1時間に切上げを行い1時間単位とし、これによって計算した当月分の割増賃金の合計金額を50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げて処理すること。
  3. 1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数は切り捨て、50円以上100円未満の端数は100円に切り上げて処理すること。
  4. 1箇月の賃金支払額に1,000円未満の端数がある場合、その端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。
(昭和63年3月14日 基発第150号

割増賃金を計算する際の注意点については、次回以降もまだまだ続きます。次回も是非参考にして下さいね。

執筆者略歴

奥村 禮司氏

新事業創造育成実務集団代表、社会保険労務士、CSR労務管理コンサルタント、労働法コンプライアンスコンサルタント。上場企業や外資系企業など多数の企業の顧問として、雇用管理・労務管理などの指導、相談に携わる。また、労働法の講演会や執筆などのほか、産業能率大学総合研究所兼任講師、株式会社きんざいの講師としても活躍中。

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