ダイバシティマネジメントの方向性:第2回

これからのダイバシティマネジメントの方向性〜人事戦略・ワークライフバランスの取り組み課題と事例〜

02 多様な価値観や生き方を受容する職場づくり〜管理者の意識改革が不可欠〜

著者:高田 靖子氏

2010年2月10日掲載

同質性から多様性へ

以前の日本の職場は、男性中心の新規学卒者で同種の価値観・人生観をもったメンバーで構成されることが多かった。とりあえず上司の指示に従えば良かった時代で、職場管理も画一的な職務管理でよかった。この頃の職場での飲み会では、最初に「とりあえずビール」と人数分注文しても異論を唱えるものはいなかった。しかし、最近の若者は違うらしい。「○○サワー」や「甘いカクテル」など最初からほとんど違ったお酒を注文するということがテレビで紹介されていた。これは、昔より個人の主張が言いやすくなったからだと解説されていたが、昔は、上司や先輩が「とりあえずビール」と言ったら、従わざるを得えない上下関係(体育会系のような)が成立していたので、それを乱すものはほとんどいなかった。それは人間が、同質性の中に安定を見いだす存在であることを示している。

しかし、多様性の尊重が叫ばれるようになってからは、個々の人間の意見が受け入れられるようになり、小数派であっても過ごしやすくなったように思われる。反面、職場管理を進めるにあたってそれぞれの変化を認識したマネジメントが必要になってきている。

多様な価値観を受容するとは

「仕事は結果がすべて、プロセスよりも結果をださなければ意味がない」と考える人と「仕事はプロセスが大事、プロセスがしっかりしていれば結果が出なくてもきっと次につながる」と考えている人では、どうしても意見や主張が食い違ってしまい、人間関係も悪化してしまう。「仕事は本来、結果ありき」が前提であるものの、置かれている状況によっては、「プロセスが大事で次につなげれば良い」場合もあると歩み寄れないものであろうか。

仕事をしている時に陥りやすいのは、「正しい」を求めるばかりに「正しくない人」を攻撃してしまうことがある。実は、何が正しいかを求めることができるのは、ある程度の「関係性の質」が深まってからであると思われる。「正しさ」を求める前に、相手の考えを受け入れることから始めることが必要となっている。

お互いに大切だと思う順番(価値観)が違う人と仕事をする時には、まずは「相手の意見を受け入れる」ことをはじめとし、自分と違う価値観を頭ごなしに否定するのを避け、相手の意見に耳を傾け、そう考えた背景・理由に理解を示すことが大切である。もし、相手のことがよくわからない場合は、直接相手に「仕事で何を大切にしているか」「過去にどんなことをやってきたのか」などと質問を投げかけてみて、相手の価値観を知る会話を自らつくることがきっかけとなるかもしれない。

女性活躍推進課題:女性社員の意識向上と男性管理者の意識改革!

最近発表された興味深い調査結果「コア人材としての女性社員育成に関する調査」(2009年8月(財)日本生産性本部)のデータを紹介する。

女性社員の活躍を推進する上での課題として、「女性社員の意識」(76.2%)と「管理者の理解・関心が薄い」(58.7%)が多い。次いで、「育児等家事的負担に配慮が必要」(49.2%)、「男性社員の理解・関心が薄い」(41.3%)となっている。(図表1参照)

(図表1)女性社員の活躍を推進する上での課題(上位3つを選択)

また、女性社員の意識が課題であると回答した中で、男性の上司が女性社員に対してどのような見方をもっていることが多いと感じるかについて、「昇進や昇格することへの意欲が乏しい」(69.8%)「難しい課題を出すと敬遠されやすい」(46.5%)となっている。(図表2参照)

(図表2)男性の上司は女性社員に対してどのような見方を持っていることが多いと感じるか

次に、これら管理者の意識改革に効果的なものとして、「経営者からのメッセージ」(82.4%)と「女性管理職の増加」(72.8%)をあげる企業が大多数で、次いで「管理者への女性社員活躍推進のための研修」(48.8%)が多かったという結果がでている。

(図表3)管理者の意識改革に効果的であると思うもの

3つの図表から読み取ると、女性社員の活躍を推進する上での課題として「女性社員の意識」(76.2%)と高いポイントを占めていたが、これは女性社員の意識の中で現状維持派(変化を好まない傾向)が多いことを示している。ある程度の勤続年数になれば、現状の仕事や役割にも満足しがちになり、昇進や昇格をすることで、敢えて苦労をしたくないと考える女性社員が多いのではないかと予想する。

また、「管理職の理解・関心が薄い」(58.7%)と「男性社員の理解・関心が薄い」(41.3%)のポイントの高さは、非常に注目すべき課題である。例えば女性社員が「意識向上のための研修」を受講して職場に戻ったとしても、「管理職や男性社員の理解・関心が薄い」ことで、研修で高まったモチベーションを下げているという現状がある。男性管理者の意識改革が求められると同時にメンター(支援者)として役割を認識することが重要である。

女性社員活躍推進への取り組みを活発化していくためには、まずは、経営トップからの積極的なメッセージの発信を行うことと、それによっての管理職の意識変革が不可欠であるようだ。

「管理者への女性社員活躍推進のための研修」を実施することが効果的であるとの結果(48.8%)のように、具体的には、メンター(支援者)としての役割や支援の仕方などを知ってもらうメンター研修を管理者に実施していくことが有効となる。同時に女性社員にも意識啓発を目的とした研修を長期的に実施していくことが求められており、これら管理者と女性社員の研修を連動させていくことが相乗効果を生み、女性社員の意欲の向上や職場の活性化などの効果につながる。

参考文献

  • 「コア人材としての女性社員育成に関する調査」(2009年8月(財)日本生産性本部)(図表1〜3)

執筆者略歴

高田 靖子氏

1987年学校法人産業能率大学に入職。企業内研修、コンサルテーション等の企画コーディネートを担当。99年以降、男女雇用機会均等法改訂以来、企業内における女性社員活躍推進の案件に多く携わる。最近では、ダイバシティマネジメントおよびワークライフバランスをテーマとした快適職場づくりのための組織変革などに携わり、女性管理者育成のしくみづくりや女性社員の能力発揮、モチベーションアップ、支援型マネジメント等の能力開発の支援に従事している。

  • このコラムの著作権は、学校法人産業能率大学に帰属します。
    記事内容に関するお問い合わせにつきましては、お受けすることができませんのでご了承ください。
  • このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。