ダイバシティマネジメントの方向性:第5回

これからのダイバシティマネジメントの方向性〜人事戦略・ワークライフバランスの取り組み課題と事例〜

05 組織と個人のパフォーマンスを向上させるワークマネジメント実践(2)〜女性ビジネスリーダー・女性管理職を育成する〜

著者:高田 靖子氏

2010年3月26日掲載

女性ビジネスリーダー・女性管理職の現状

2009年下期に入り、女性ビジネスリーダーおよび女性管理職育成のためのプランについて、産業能率大学への問い合わせが急増している。いずれも女性社員の昇進・昇格を近い将来に見据えた長期的な育成計画にあたるものが多い。

この具体的な内容は、優秀な一般職の社員をリーダーにして職場の問題解決や後輩指導を担ってもらうための育成を目的にしたもの(ゆくゆくは管理者任用も想定して)や、総合職から選抜で次世代リーダーになるための育成を目的にしたもの、全職種(営業・企画・間接部門)からの選抜で課長、部長、役員までを目指してもらうためのものが目立つようになってきた。

3年前と比較して、女性管理職育成を本気で考えだした企業が増えたことを実感していたが、このことは、調査データからも裏づけされている。

(財)日本生産性本部が行った『コア人材としての女性社員育成に関する調査』では、「3年前と比べて課長(ないし課長相当職)以上の女性が増加したか」の問いに対して、“かなり増加した(16%)”、“やや増加した(41.6%)”と回答した企業の合計が全体の5割を超えている(57.6%)。また、「今後3年以内に課長相当職になる可能性のある職位の女性が増えたか」との問いに対して、3年前と比較して、“かなり増加した(13.0%)”と“やや増加した(48.0%)”と回答した企業の合計は全体の6割(61.6%)という結果が出ていた。

企業は、確実に女性管理職を増やす傾向にあり、そのために育成計画を立て推進しているようだ。次に具体的施策の留意点を挙げてみる。

女性ビジネスリーダー・女性管理職育成の留意点

現実によく伺うこととして、ダイバシティ推進の専属の課が新設され、最初の取り組み目標として必ず盛り込まれているのが女性管理職率の増加である。これが挙がっている理由としては、女性管理職を増員したという事実が数値的に分かりやすいこと、管理職になる可能性のある人材(女性)が既に数名いるならば、短期間で育成できるなど成果が見せやすいことからである。

ここでの留意点は、「どんな管理職として育成したいのか」という育成目標を明確にすることである。自社のダイバシティ推進にあたり、自社の事業や戦略に即して、ダイバシティの目的・目標を具体的に言語化しておかなければならない。特に「女性管理職率の増加」ということが、どのような意味をもつのかを明確しておくことによって、当事者も目標に向かって進むことができる。

重要なのは、「ダイバシティ推進が、適切な戦略に位置づけられて業績につながる」ことである。この活動に取り組むにあたり、自社の意思として、どのような価値を創出し、競争力を高める担い手として女性管理職を位置づけていくのか、そのための増員であって欲しい。

そこで、計画の段階で以下のような問いに答えられるようにすることが重要だ。

  • ダイバシティの視点を自社の事業にどんな目的で、どのように取り入れるのか
  • 自社の求める人材はどのような人材で、どのようなマネジメントができる管理者を育成するのか(性差を関係なく)

目指すべき姿を明確にしたうえで、計画的育成ではどんなことが必要であるかを事例から考えていきたい。

女性ビジネスリーダー・女性管理職育成の事例から

事例1

全職種選抜で女性ビジネスリーダーの育成を行い、自社事業の好転をねらう!
業種:化粧品製造販売

自社製品が女性の嗜好品でもあるにも関わらず、新製品の開発〜決定に到るプロセスに女性の意見が反映されてこなかった。この状況に対する反省と今後の危機感より、あらゆる場面で女性社員の意見が反映できる仕掛けとして、全職種選抜で女性ビジネスリーダー育成を実施することにした。

通常男性社員のビジネスリーダー育成ステップは準備されているが、その人数枠に女性が入っていなかったことが女性の幹部不在の状況を生んでいた。そこで、候補となる女性社員の勤続年数や経歴などを配慮して別枠で女性ビジネスリーダー育成コース設定を進めた。

事例2

3年間で女性管理者を20名にするための育成プラン
業種:機械製造業

数年前にホールディングスの傘下に入り、そのグループ企業は既にダイバシティが進んでいる状態であった。社長からの号令もあり、特に海外ビジネス展開を進めるうえでダイバシティの重要性が発せられていた。自社としては、今年度中にダイバシティに関しての目標を掲げ、成果を出さなければいけないという焦りがあった。現職2名の女性管理職はいるが、健康管理室と組合所属であり、現場の管理者ではなかった。

とにかく優秀な女性社員を急いで管理職にしてしまえばよいという意見がある一方で、海外赴任を経験させたうえでじっくりと活躍できる人材を育成したいと、かなり難しい要望があった。結局、女性企画職を対象に管理者育成のための段階的な育成計画をしっかり立てて進むことになった。

対象となったのは、女性企画職Ⅰ〜Ⅲの135名であった。
企画職Ⅰ:25名
(経営管理基礎講座受講と、それら知識を活かした成果論文発表後に共通課長昇進試験に挑戦)。
企画職Ⅱ:60名
(過去2年間の評価が標準以上で、上司推薦と論文試験合格後、企画職I昇格試験に挑戦)。
企画職Ⅲ:50名
(最低3年間はⅢ級で在籍、2年目からⅡ級に挑戦可)。

企画職Ⅰ〜Ⅲから常に候補者を生む仕組みにした。

計画的・意図的・体系的な育成システムの設計が必須

ダイバシティの視点で、女性ビジネスリーダー・女性管理職育成を考えるときは、単に女性管理職率の向上を高めるのでなく、組織として成果創出を伴う仕掛けづくりが重要となる。社員個人の資質や努力だけに頼らず、企業側が意図をもって戦略的に人材育成システムを設計していくことが求められる。

《事例1》では、市場の成熟化による消費の変化をいち早く掴み、ダイバシティの重要性を高めようとしている事例と言える。ものやサービスが溢れた現在、消費者は簡単に買ってくれなくなっている。似通った商品が次から次へと投入されている飽和市場において、多様化している個人の嗜好を的確にとらえて消費行動につなげるためには、女性社員の視点や創造力が必要と考えており、その力を決定権のある意見としてより活かせるためのビジネスリーダー育成となっている。

《事例2》では、人事担当者としての成果を出していかなければならない使命は理解できるが、グローバル化に向けての人材育成が求められていることが明確であるならば、世界中の多様なパートナーやサプライヤーと協働でき、多様なお客様に向けて商品やサービスを開発・提供していけることが必要である。そのために能力と知見を活かすこと、共通の目的に向けて協働を促し、成果を生み出すマネジメントが不可欠となる。これは性差にかかわらず、すべての管理職に求められることである。それを今までほとんど教育の機会を与えられなかった女性社員に対して、管理職になるべく短期間で育成して配属させることは、少々無茶な気がする。やはり長期的な視点で段階的に意図をもった体系的育成プランの策定が必要と言える。

以下に女性管理者の育成ステップの流れを紹介する

女性ビジネスリーダー・女性管理者育成の実施ステップ

能力開発対象メンバーの選抜〜任用までを以下のステップで進める。
育成期間、対象層、人数によってカスタマイズ可能だが、対象層をどこまで拡げるかによって長期的計画設計が必要となる(3年間程度)。

(図1)女性管理職の育成ステップ

全体プログラムは、意思(資質と意欲)・知識、スキル(マネジメント知識・スキル)、役割行動(管理者としての役割行動)の3つの項目で構成されている。

(図1)に示すSTEP3の学習セッションでの3つのソリューションは、集合研修、通信研修、公開講座の組み合わせとなり、(図3)のような育成カリキュラムのプログラムが準備されている。

女性管理者育成モデルの図を拡大して見る
(図2)女性管理者育成モデル

通信研修では、マネジメントの基礎知識習得と、受講者知識水準の平準化をねらっており、集合研修では、それら知識の復習・応用を行い、わかるレベルからできるレベルへの引き上げに重点を置いている。

また、これらではカバーできない個々の能力開発課題への対応や、異業種交流への対応を目的として公開講座も選択形式で受講できるようになっている。以下が育成カリキュラムの一例である。

育成カリキュラムサンプルを拡大して見る
(図3)育成カリキュラムサンプル

また、ビジネスリーダーや管理職になるにあたり、不安や心配で心が折れてしまうことがよくある。企業側としては、これまで費用と時間をかけてきた人材を活かさなければ無駄になってしまうことはいうまでもない。そこで、フォローとしてキャリアカウンセリングの実施をお薦めする。不安や心配を解消し、長期の研修期間を終える頃には前向きな自信を引き出す助けとなる。このようなサポート機能を持たせることは、特に今回のような今までとは違った役割を担うことになる育成ステップには必要となる。

執筆者略歴

高田 靖子氏

1987年学校法人産業能率大学に入職。企業内研修、コンサルテーション等の企画コーディネートを担当。99年以降、男女雇用機会均等法改訂以来、企業内における女性社員活躍推進の案件に多く携わる。最近では、ダイバシティマネジメントおよびワークライフバランスをテーマとした快適職場づくりのための組織変革などに携わり、女性管理者育成のしくみづくりや女性社員の能力発揮、モチベーションアップ、支援型マネジメント等の能力開発の支援に従事している。

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