ダイバシティマネジメントの方向性:第3回

これからのダイバシティマネジメントの方向性〜人事戦略・ワークライフバランスの取り組み課題と事例〜

03 職場のソフト面改善で快適な職場づくりを!〜多様な社員がイキイキと働ける環境づくりと人材活用〜

著者:高田 靖子氏

2010年2月24日掲載

働きやすい会社は「働く側に配慮した職場づくり」の強化を!

日本経済新聞社が実施した調査「働きやすい会社2009」の記事が掲載されていた。「ビジネスパーソン調査では、働きやすい会社の条件で『非常に重視する』のは昨年に続き年次有給休暇の取りやすさが首位になった」(日経産業新聞2009/9/7)。記事中には「年次有給休暇の取りやすさ」をはじめとした上位20位のランキングがあがっていた。この中で私が、特に注目したい項目が2つある。

1つ目は、昨年まではランキング外であったキャリア開発支援に関する項目が入っていたことである。従来キャリア開発は個人のものと捕らえてきたが、組織に求める項目に変化していることは興味深い。

2つ目として、このランキング項目の中に、男性社員の育児・介護制度の取得に関する項目が、まだ挙がっていないことに注目したい。最近では「イクメン」と称して、「育児する男性は格好良い」などのイメージがメディアの話題になっていることが目立つ。男性が育児休暇を取得しやすい仕掛けを厚生労働省が薦めていることもあり、来年あたりランキングに入ってくるのではないかという希望的観測を持っている。

制度や環境を整え、仕事と家庭のバランスに配慮した柔軟な働き方ができる勤務が求められる。いかに「働く側に配慮した組織風土の醸成」を仕掛けていくかが、企業の重要な課題となっている。

育児中社員を支える「働きやすい条件」

次に「働く側に配慮した組織風土の醸成」としてどんなことが求められるかを育児中社員の事例をもとに考えていく。
最近筆者がインタビューした、2人のワーキングマザーのケースを紹介する。

産休明け4ヶ月目のAさんと、4年前に出産し、現在は課長として活躍中であるBさんに「働きやすい職場」「働きやすい条件」を伺ってみた。

Aさんは、最初から短時間勤務制度は利用せず、一般社員と同じフレックスタイム制度で時間を調整しながら働いている。Aさんの勤務時間は、上司や家族と相談して、8:00に出勤し16:30まで働く。子供を保育園に預けるのは夫、お迎えはAさんと夫婦の助け合いで仕事を続けている。

Bさんは、産休明け直後に新規プロジェクト立ち上げの責任者になった。その後2年で新設課の課長に昇進し、子育てを続けながら、激務を担っていた。初めの数ヶ月は短時間勤務制度を利用していたが、決めた時間以外にも働くことが多くなったために働く時間を調整できるフレックスタイム制度に戻した。

育児中社員という「時間制限のある社員」が働くには、「時間」そのものが非常に貴重となる。使い勝手がよく、効率的に働けるような制度や仕組みのハード面を整備している会社(職場)であることが仕事を継続する上でカギとなるようだ。

また「働きやすい職場」の条件として、(図表2)に挙げているように上司やメンバーの理解や人間関係の良さなど、ソフト面がハード面(制度や仕組み)より重要だということを体験談は物語っていた。

Aさんの上司(男性)は、2人の子供がおり、奥さんも働いていることから、状況を良く理解し、仕事の役割分担やメンバーへの働きかけなどに配慮してくれている。また、Aさんが8:00に出勤して、他のメンバーが9時から気持ちよく仕事にとりかかれる準備をしておいてくれることを、高く評価してくれているそうだ。担当する業務面においては、Aさんの復帰が期(年度)の途中であり、年初に計画した課の仕事の分担に組み込まれていない状況だったため、Aさんはメンバーのサポート役に徹することになった。復帰前と同じ仕事を担当することにこだわらず、「限られた時間」という制約の中で、ベストではなくベターな道を選ぶことはAさんにとって「メンバーのサポートをする」という当たり前の役割であったが、メンバーから大いに感謝されことになったという。「お互い様」という気持ちが良い意味でからみあい、職場での「感謝の循環サイクル」がうまく回った事例である。

こうした事例とは異なり一方で上司やメンバーの理解が得られずに退職せざるを得ない状況を招いている例を過去に多く見てきている筆者は、非常に良い関係ができていると感心した。

Bさんの場合は、自分が管理者なので少し状況が違う。自分がメンバーの時は、自分のペースで成果を出すために行動すればよかったが、管理者昇進後は、メンバーにも配慮しながら、組織として成果をあげていくことを考えなければならない。上司からのプレッシャーもあり、自分が育児中社員であるということを言っている場合ではなかったが、それは子供には関係ないことだった。そのような中、夫の助けやメンバーの支援もあり、どこまで自分が仕事と子育てと向きあえるかと悩んだ時期もあったが、ある程度の開き直りや割り切りが生まれたことで楽になった。

特にメンバー間では、当たり前のことではあるが、仕事の中で共通の目標を持って進むことでお互いにカバーしあい、助け合い、一緒に試行錯誤を重ねたことでメンバーそれぞれの理解につながっていった。メンバーの人柄が良かったこともあり、プライベートも含め、いつの間にか課のメンバーに理解してもらえるようになっていた。

以前、何度か子供が熱を出して休まざるをえなかったときがあった。夫が海外出張で自分が直ぐに保育園へお迎えに行かなければならなかった。お客様とのアポイントと重ってしまっていたが、メンバーに助けてもらったという。
この時のことをメンバーに聞くと、自分にも子供がいるので困っているときは「お互い様」と思ってサポートしているという。特に課長は、働き方にメリハリがあり、できるときはどっぷり仕事をやり感心するぐらいにうまく調整しているという。

この二つの事例は、子育てしながら仕事と両立していくには、どんな良い制度があったとしても、職場の人間関係の良さが欠かせないという実例である。

育児中社員の「働きやすさ」の条件| 職場:上司、メンバーの理解・日々の人間関係・支援者となる人の存在 個人:家族の理解・自分の仕事への割り切り・子供の健康・支援者となる人の存在
(図表2)育児中社員の「働きやすさ」の条件(インタビューより)

支援型マネジメントが「働きやすい」職場をつくる

1回目のコラムで紹介しているように労働人口の減少による女性の労働力率の増加、雇用形態の多様化、グローバル化、IT化などにより、あらゆる面での「多様性」が高まってきている。このダイバシティ時代の環境の変化は、労働者にとって非常にストレスフルな状態となっている。このような状況下で、企業は、労働者にとって生活時間の多く費やす「職場」の快適性を高めなければならない。特にソフト面である職場の人間関係(仕事上の支援、協調、職場の雰囲気)を良好にする働きかけが求められている。

育児中社員の体験談が物語るように、上司が部下とどのように関わり、どのようにマネジメントしていていくかが重要となる。組織において、タテ・ヨコの職場の人間関係は、「働きやすさ」を左右する重要な要素である。

「職場」では、自由闊達なコミュニケーションに基づく良好な関係があり、互いに支援協力する関係が築け、部下理解の視点を重視した支援型マネジメントの実践がこの時代に求められている。

支援型マネジメントとは、メンバーが主体的に考え、動きやすい状況をつくり、上司・メンバー間で様々な情報共有が行える良好なコミュニケーション推進や風通しの良い組織を目指し、常にメンバーの状況や立場を理解することに努める支援的対応を行うことである。また、メンバー間にも協働の意識を根付かせために管理者として、日常的にメッセージの発信を行っていくことが求められる。

時代の変化にともない、働く人の質や価値観が多様化しているこの時代には、マネジメント手法も多様性が必要となってきているようだ。多様性を受容し、社員がイキイキ働けるように支援するマネジメントができる管理者の育成が急務であり、より「働きやすい快適な職場づくり」が求められている。
そのことが、組織の競争力を高め、強化することに繋がるのであろう。

執筆者略歴

高田 靖子氏

1987年学校法人産業能率大学に入職。企業内研修、コンサルテーション等の企画コーディネートを担当。99年以降、男女雇用機会均等法改訂以来、企業内における女性社員活躍推進の案件に多く携わる。最近では、ダイバシティマネジメントおよびワークライフバランスをテーマとした快適職場づくりのための組織変革などに携わり、女性管理者育成のしくみづくりや女性社員の能力発揮、モチベーションアップ、支援型マネジメント等の能力開発の支援に従事している。

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