人材育成テーマの変遷、人材の見える化の指針:第1回

製造業より学ぶ人材育成のポイント

01 人材育成テーマの変遷、人材の見える化の指針

著者:山田 竜也

2011年12月13日掲載

今回より全6回に亘り、組織における人材育成のポイントというテーマでお伝えする。第1回は議論の前提を作るために、人材育成へのアプローチがどう変わってきたか、なぜ今人材の見える化というキーワードが注目を集めているかを共有する。

以下の図は、ビジネス環境の変化と人材育成のテーマの関係を表したものである。議論のきっかけとするために、誇張した表現となっている部分はご容赦頂きたい。

ビジネス環境 70年代〜 80年代〜 成長時代 ・右肩上がり ・作れば売れた時代 ・新しい事に取組み続けた 90年代〜 00年代〜停滞時代 ・作っても売れない、価格勝負 ・パラダイムシフト、業界再編 ・変化、生き残り 10年代〜 将来 混迷時代 ・欧米、中国、韓国の台頭 ・機能、性能、コストでの敗北 ・新しいことへのチャレンジ 人材育成のテーマ OJT 70年代〜 80年代〜 ・仕事を通じて勝手に育つ ・失敗を通じて学ばせる ・先輩が良い手本となる 90年代〜 00年代〜 ・短期間で即戦力化する ・失敗する前にフォローする ・メンター制度でケアする Off-JT 90年代〜 00年代〜 ・職能要件を整理する ・教育体系を構築する 自己啓発 90年代〜 00年代〜 ・企業が学習の機会を与える ・個人が社外に場を求める 10年代〜 将来 ?

成長時代

人材育成の基本はOJTだった。OJTというより仕事を通じて勝手に人が育っていたという方がニュアンスとしては近いかも知れない。悪く言えば現場に丸投げ、良く言えば個々の組織、現場レベルで人を育てるという意識が高く、先輩と後輩という関係が築けるだけの人員の構成になっていたと言える。

ある企業で先輩印という話を聞いた事がある。社内文書の承認欄には部長、課長、係長、担当と続くのがよくあるフォーマットだが、係長と担当の間に先輩という欄を追加し、承認というよりも担当と一緒になって文書を充実させることを目的として役割を明確にさせ、業務の中で実践的OJTを回すというのが先輩印を置くことの狙いである。

若手の育成だけでなく先輩の育成も狙える仕組みであるが、これを実施するにはいわゆる良い意味での先輩、後輩関係が社内に根付いている必要がある。メンター制度を思い浮かべる方も多いと思うが、若手の担当業務外のケアや育成というニュアンスの強いメンター制度では補えない実業務でのOJTの強化策として、別物と考えている。いずれにせよ、良い先輩の復活から始めなければならない企業が多いのが現実ではないだろうか。

停滞時代

失われた10年、20年とも言われるが、人材育成という観点では急がせ過ぎた10年、行き先を見失った10年と言える。

開発の効率化 例)自動車の開発期間 バブル崩壊をきっかけに製造業全体は一気に効率化に走った 考えることのできる技術者がへった いわれることしかできない 言われたことすらできない 〜'90=48ヶ月 '90初=36ヶ月 '90中=24ヶ月 '90後=12ヶ月 '01=9ヶ月 現在=6ヶ月〜7ヶ月

急がせ過ぎたという意味で例を挙げよう。自動車の開発期間は90年代以前48ヵ月だったものが、2000年代初頭では9ヵ月になっている。これ自身は技術革新の賜物であり凄いことではあるが、人材育成という観点では大きな副作用を生んでしまったのではないだろうか。

当時、技術の高度化が進む中、開発期間の短縮、品質不具合の撲滅等をテーマに若手の即戦力化が図られた。筆者が依頼されたコンサルティングのテーマとしても、若手のための設計支援の仕組みづくりはポピュラーなものであった。当時の企業がコスト削減のために行っていた大量生産方式が、そのまま人材育成にも適用されたというと言い過ぎだろうか。しかし、効率を求め過ぎた結果として、仕事をこなすことは出来ても、新しいことを考えだせない人が増えた、誰もが与えられたルールの中での戦いに縛られてしまっているという声を多くの企業から聞くことも事実である。

OJT/Off-JT/自己啓発と人材育成の3点セットは整備されたが、肝心のOJTが形骸化してしまった。“人を育てる”から“職能を詰め込む”に育成の視点が変化して、人材育成と言いながら、実は職業訓練に留まってしまっているというケースは多い。

またこれだけの効率化を達成しても、依然ビジネスは伸び悩み、激しい競争からは逃れられない。誰もが頑張っているが成果が見えない。新たなビジョンをつくり方向を指し示すことが出来ないまま、停滞感が蔓延する。行き先を見失ったまま目の前の仕事に励んでいる間に、いつの間にか10年経ってしまったというのが多くの人が感じている本音ではないだろうか。

混迷時代

ビジネス環境の変化は更に速くなり複雑さを増している。新しいことに取り組まなければならないが、停滞時代に癖となった効率重視の枠から抜け出せないでいる。こうした中、最初にやらなければならない事は、皆が動けるように方向を指し示すことである。場合によっては、企業としてのビジョンから再確認する必要があるかもしれない。

人材育成という観点では、企業のビジョンと呼応した形で個人のビジョンを持って進めていく必要がある。また、行き先を定めるのと同時に必要なのが、現在位置を把握することである。結論として、人材の見える化の必要性は高まっている。一つ付け加えるならば、企業側の視点だけでなく、働く個人にとっても同様ではないかと考えている。

自分探しという言葉を最近また聞く事が増えた気がする。前回の流行りでは、自己啓発に道を求め、組織との乖離が大きくなる結果に陥り、企業の競争力向上にはつながらなかった。

今、必要なのは個人も組織も共に強くなる事。そのために、企業自身がどう在りたいか、個人に何を期待するかを明確にする。そして、個人も先ず自身の在りたい姿を考え、企業側の期待を受け止めながら自身の道を進む。
企業側の人材検索ツールではなく、企業と個人がともに成長するための仕組みとして、人材の見える化を位置付けることが、仕組みを機能させるための鍵となる。

  • 本稿では、持ち味・素材を活かすことを育成ととらえ、敢えて人材という表記とした。

執筆者略歴

山田 竜也

電通国際情報サービスを経て、iTiDコンサルティング創業メンバーとして参画。幅広い業界の業務プロセス・意識改革を含めた組織変革コンサルティングを手掛ける。事業ビジョン構築、チーム運営力強化等のコンサルティングのほか、イノベーション人材の育成プログラムを中心とした各種セミナーの講師を務めている。

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