人材育成テーマの変遷、人材の見える化の指針:第6回

製造業より学ぶ人材育成のポイント

06 互学互習の環境造り

著者:山田 竜也

2012年3月19日掲載

互学互習という言葉は聞きなれないかもしれない。学習モデルとしては比較的新しいモデルであるが、より実践的な能力を身に着けるために、その必要性は高まってきている。

言葉の意味としては、「学習の場に参加する人すべてが、相互に学び合い、教え合う」というものである。学習の場における参加者の役割で考えると分かり易い。

以下の図を見て欲しい。左のような講師から受講者への一方向の学習の場に対して、右のような、“固定化した”講師という存在が無く、参加者同士が教え合い学び合うというのが互学互習のスタイルである。

一方向の学習(講師⇒受講者)|互学互習の学び合い(全員⇔全員)

学習のテーマや参加者のテーマに対する知見の深さの違い等により、どのスタイルが適しているかは変わるが、ビジネスの世界で最先端の実践知を扱う場合には互学互習の全員参加のスタイルは有効である。

結局、自分から学び、気づかないと変われない

私自身、法人研修等で外部講師を務めているが、外部講師の立場でも、互学互習の環境造りを強く意識している。講師として伝えるべきことを伝えるのは大前提だが、そこに参加する全員の知識や経験を最大限発揮してもらって、集合知を活かしきるという事が狙いである。講師から受講者への1:Nではなく、参加者全員のN:Nで学びを深めることを大切にしている。

結局、自分から学び、気づかないと変われない。参加者本人の内発的な学ぶ姿勢とそれに見合った気づきを得られる場が、学習効果を上げる最も重要な要素だと考えている。そのためには、講師と言うよりはファシリテーター、“ファシリタティブな互学互習の場の世話人”という存在が必要になってくる。

以下は学習したことを習慣化し、日々の業務で活かせるようになるまでのステップを表している。

先ずは自分の中での理解から始まる。理解したことを自分の言葉で腑に落とし、実践し効果を体感する。ここまでが、集合研修等で狙う最初のステップである。しかし、ここで止まっていては自分の血肉として自信につなげることはできない。更なる現場での実践と振り返りを繰り返して、自分のものとしていく。このステップは野中郁次郎氏のSECIモデルのInternalization(内面化)に相当するものと考えている。

理解→体感→自信|互学互習の環境を維持し、習慣化する iTiDコンサルティング 星野雄一等と考案

この自信につなげるまでの振り返りの場として互学互習の環境を造ることは、非常に有効である。最近、製造業の開発部門が主管する集合研修の後に、フォローアップの場を組合せて依頼されることが増えている。

集合研修で理解・体感して頂いたことを日々の業務で実践し、そこで得た気づき・課題・悩み等を数名のグループで共有しながら真の課題、新たな課題を定義し、次の実践につなげるというスタイルである。

最初のフォローアップのタイミングとしては、研修後1ヶ月ぐらいが効果絶大である。この時期ではまだ習得した知識や手法に振り回され、適切に活用できていない場合が多い。また、いくつかの成功・失敗体験を経ているので、共有に意義あるネタも揃っている。ここで正しい実践が出来るように軌道修正をし、更に数回のフォローアップを実践していく。

参加者の時間等、コストはかかるが、トータルでの投資対効果を考えるならば有効な策である。研修で理解・体感したことを自身の実務で再度、理解・体感することで理解度が格段に上がり、実践知として自らの武器に変えていく事ができる。また、同じ内容を受講し、かつ仕事を一緒にする仲間からの指摘は、親身で的を射た内容となり想像以上に効果的である。
また、テーマとしては日々の実践を踏み易い、汎用的なビジネススキルが適している。

互学互習の環境造り

最後に、集合研修+フォローアップという外部の力を活用するのではなく、自力で互学互習の環境を造るためのポイントをお伝えする。

外部の力は、正に強制力である。自力で進めるためには、この強制力をどう発生させるかがポイントになる。ここには魔法の杖はなく、内発的な動機づけを出来るかどうかにかかっている。始めたいと思っているあなたには、その動機があるのだから、後は仲間を探せるかどうかである。

つまり、最初にして最も大事なことは目的を明確にし、共感するメンバーを集めることに尽きる。

その後のステップのポイントは以下の図のようになる。

目的を明確にし、共感できるメンバーを集める→活動を継続し、クリティカルマスを超える実績をつくる→メンバーの成長に合わせて、マンネリ化を防ぐ策を講じる→主催者を代える→主催者をなくし、場だけを残す

共感できるメンバーを中心に活動を継続する。クリティカルマス(多くの場合は全員が何らかの形で参加者になること)を超える実績ができたら、先を行くメンバー、新しいメンバーの双方に適切な刺激を与えるべく、テーマ選定や負荷調整を行いながら継続する。

そして、次が大事な所だが、最初の主催者から次の担い手に主催者を代える。これによって、人に付いた活動を徐々に環境へと移していく。最後には主催者がいなくなり、場にいるメンバーが適宜必要に応じて場を造る。ここまでいけば、学習する場が醸成されたと言える。

学習のテーマについて一つ言い添えておく。多くの勉強会が、ベテランや専門家の武勇伝を聞くだけの場になってしまっている。武勇伝は聞いていて面白いし、知識として得るものも多いが、一方で、あの人だからできる、自分には出来ないという諦めの感情が生まれ、動機付けにつながらない事も多い。

成功事例、失敗事例の武勇伝だけでなく、なぜ成功したか失敗したか、どうやって学んだのか、何を大切にしていたのかといった、学習できた要因に踏み込んで伝えて欲しい。その方が聞く側に自身を変えるきっかけを得られる場合が多い。


最後に全6回お読みいただいた方、1回だけでもお読みいただいた方、ありがとうございました。

執筆者略歴

山田 竜也

電通国際情報サービスを経て、iTiDコンサルティング創業メンバーとして参画。幅広い業界の業務プロセス・意識改革を含めた組織変革コンサルティングを手掛ける。事業ビジョン構築、チーム運営力強化等のコンサルティングのほか、イノベーション人材の育成プログラムを中心とした各種セミナーの講師を務めている。

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