第2回 個人住民税特別徴収税額通知の電子化の背景

02 個人住民税特別徴収税額通知の電子化の背景

著者:青木 拓磨

2024年5月2日掲載

本コラムでは、”個人住民税特別徴収税額通知の電子化”について、3回のコラムを通じてお伝えします。第1回では、特別徴収税額通知の電子化に関する概要やフローの変更点についてお話をしました。第2回は、個人住民税の特別徴収税額通知が電子化された背景について、ご説明していきます。

はじめに

特別徴収税額通知書とは、「特別徴収義務者(以下、事業主)が、納税義務者(以下、従業員)が在住している市区町村に提出した給与支払報告書に基づいて算出した 、住民税額の通知書」です。事業主はこの通知書に基づき、従業員から徴収した 住民税を地方公共団体へ納入します。特別徴収税額通知書には、特別徴収義務者用と納税義務者用の2種類があります。 令和6年度から、特別徴収義務者用に続き、納税義務者用の通知も電子化されました。

一般的に「電子化」と聞くと、事業主や従業員が便利になるのだろうとイメージされると思います。しかし実際は、従業員が住民税を確認するためには、事業主から取得したファイルを 地方税ポータルシステム「eLTAX」から取得したパスワードで解凍する必要があり 、煩雑です。従業員にとって、紙で送付されるより閲覧に手間のかかる作業であることは明らかでしょう。では、なぜ特別徴収税額通知の電子化に至ったのでしょうか。

特別徴収税額通知の電子化の背景

実は、特別徴収税額通知の電子化についての議論は、平成23年から 始まっていました。当時の特別徴収税額の通知は、書面 のみで行われていました。そのため市区町村は、大量の通知書の印刷や郵送事務を行わなければなりませんでした。 事業主には、各市町村から送付された通知書を整理して、給与システムに入力するとともに、従業員に対して紙で交付するという事務が生じていました。

市区町村や事業主が膨大な事務作業を強いられる中、民間出身の委員を中心に、マイナンバーを活用した特別徴収税額通知の関連事務の負担軽減を求める意見が出されたことをきっかけとして、電子化が議論されるようになりました。

平成27年にeLTAXに電子署名を付す機能の改修が完了し ました。また、平成28年の税制改正で、「eLTAXにより行う給与所得に係る特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)について、特別徴収義務者の同意がある場合には、当該の通知内容がeLTAXに記録され、市区町村が、その旨を事前に登録された当該特別徴収義務者の電子メールアドレスに送信したときに、到達したものとみなすものとする。」と決定しました。
(参照元:https://www.soumu.go.jp/main_content/000392156.pdf)

これらにより、平成28年度分の通知から、電子データに電子署名を付すことで、まずは「特別徴収義務者用」の特別徴収税額通知 の電子化が実現しました。

そして規制改革実施計画(平成29年6月閣議決定)により、特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)の電子化を広げると同時に、特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子化を促進するため、 下記2点が決定されました 。

 住民税特別徴収税額通知(特別徴収者義務者用)については、eLTAXを利用した電子的通知が可能であり、電子署名を行った電子的通知に対応していない市区町村に対しては、これに対応するように、対応時期にかかる進捗目標を定めて、政府が助言する 。

 住民税特別徴収税額通知(納税義務者用)については、引き続き、全ての市区町村におけるeLTAXを利用した電子的通知の実現に向けて検討し、結論を得る。検討に当たっては、市区町村間での取扱いに差異が生じないよう留意する。
(参照元:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/publication/170609/item1.pdf)

また、特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子化においては、当初、 3つの手法が検討されていました。 詳しく知りたい方は、以下のサイトを参照してください。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000531368.pdf

最終的に、令和3年度税制改正の大綱で、第1回で紹介したeLTAXの手法が採択され、令和6年度より、施行されることが決定されました。
(参照元:https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2021/20201221taikou.pdf)

特別徴収税額通知の電子化のメリット

このように、特別徴収税額通知の電子化は、十数年前から議論されており、行政の効率化や事業主の事務負担の軽減のために実現されました。市区町村、事業主視点での電子化(特別徴収義務者用・納税義務者用)のメリットとして、それぞれ下記の点が挙げられます。

市区町村
 紙の通知書の印刷や郵送する手間とコストを削減できる
 電子データの提供により、事業主に対する迅速な情報提供が可能になる
 紙の書類よりも簡単に 管理することができる

事業主
 電子データの受領により、従業員の住民税額を給与システムへ手入力する手間が省け、ミスのリスクが減少する
 紙の通知書の印刷 、配布のコストが削減できる
 電子データの提供により、従業員に対して迅速に通知書を配布することができる
また、最終的には従業員にとって利便性向上にも寄与しています。従業員のメリットとして、以下の2点 が挙げられます。

従業員
 専用のパスワード使用して自身の情報にアクセスすることで、紛失や第三者による閲覧のリスクを低減できる
 電子化により、従業員が通知書を受け取るまでのプロセスが効率的になり、自身の税金に関する情報をより迅速に取得できる

まとめ

いかがでしょうか。本稿では、特別徴収税額通知の電子化の背景についてお話説明しました。
筆者 は、電子化には手間がかかるのではないかという疑問もありましたが、市区町村や事業主の業務の効率化従業員にとって通知書の管理がしやすくなること、紛失リスクの低減などメリットは十分に大きいため、推進すべきだと考えています。また、広い目で見ると、市区町村、事業主、従業員の全員が電子化の恩恵を受けられることは明らかです。
通知書の確認方法の詳細は、下記のサイト内の動画で説明されています。手順ごとにわかりやすい説明動画が用意されているため、電子化の手順が煩雑なのではと懸念されている方は、ぜひ一度ご覧になってください。
https://www.eltax.lta.go.jp/support/movie/

第3回では、住民税特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子データの受け取りを実現する上で、給与事務担当者が準備すべきことについて お伝えしていきます。

執筆者略歴

青木 拓磨

株式会社電通総研
HCM事業部製品企画開発部
新卒で入社以来、大手企業向け統合HCMソリューション「POSITIVE」の法制度改正対応や新機能開発に従事。「お客様と共通のビジョンを持ち、POSITIVEを利用するユーザーに、新たな価値を体験していただきたい」という思いで日々業務に取り組んでいる。

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