学生のアイデアとイノラボの先進技術で社会・地域課題の解決を目指す

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ISIDのオープンイノベーションラボ(以下イノラボ)が新たに始めた「社会実験構想学」の研究。東京大学大学院新領域創成科学研究科と共同で進めるこの研究は、社会・地域の課題解決に向けた学生のアイデアに、イノラボの先進技術を活用したサービス開発のノウハウや知識を掛け合わせ、社会実装を目指す取り組みです。
今回は、どのようなきっかけで共同研究を開始するに至り、今どのような活動を進めているのか。東京大学との共同研究に取り組むイノラボの藤木隆司、岡田敦、渋谷謙吾に話を聞きました。

社会実験構想学とは

—— 東京大学大学院新領域創成科学研究科との共同研究はどのようなきっかけからはじまったのでしょうか。

藤木:イノラボでは、「まちづくり・地方創生」を研究開発のテーマの一つに掲げています。そのような活動の中で、「都市工学」の研究をしている東京大学の寺田徹先生に出会ったことがきっかけでした。
寺田先生は、「環境デザイン統合教育プログラム(IEDP)」という、“フィールド(現場)で考え、自然環境から構築環境、社会システムまで、人の暮らす環境を統合的に捉えて、地域や都市をデザインする”実践型の教育をされています。先生の都市工学に関する知見とイノラボが持つ先進技術を活用し、中長期的な社会課題を解決する社会実験が出来ないかという話になりました。

—— 今回取り組む「社会実験構想学」とはどのようなものなのでしょうか。

藤木:イノラボでは普段から、業界・企業・地域などの枠組みを超えた調査・研究や実証実験を行っており、そのノウハウを学生たちに活用してもらうことで、新たな取り組みができるかもしれないと考えました。そこで寺田先生と共に生み出したのが「社会実験構想学」です。学生たちが考えたアイデアを、イノラボが行う“シーズの育成、構想・企画、体制構築、実施、評価”のフレームワークに沿って社会実装までつなげていく。最終的にはそのプロセスを「社会実験の作り方」として提示したいと思っています。

起点は技術ではなく、街に暮らす人たちの住みやすさや豊かさ

—— イノラボがIEDPと共同で研究することの意義はどういったことにあるのでしょうか。

岡田:技術の進展が著しい中で、街づくりもどこか技術主導で進行しているように感じます。私たちは、その街で暮らす人の豊かさや住みやすさを起点に街づくりを考えていきたいなと。街それぞれに固有の課題があり、解も一つではない。だからこそそこに暮らす方々と交流し、話を聞きながら、何ができるのか考えていきたいのです。とはいえ、イノラボは技術セントリックな集団。別の角度から街づくりを考えているIEDPの皆さんと一緒に取り組むことで、これまでにない発想で課題解決に挑むことができる期待感があります。

渋谷:“環境”と一言で言っても、IEDPは都市デザインやコミュニケーション、建築など研究の範囲が多岐にわたっています。“まちづくり”をITとは違う角度から考えている皆さんと研究を進めることで、イノラボの強みであるVRやロボット等、先進技術の新たな活用方法が見いだせると考えたのです。

—— イノラボはどのような役割を担いますか?

藤木:急速に進化するテクノロジーも、私達の生活を幸せにしてこそ意味があります。イノラボは、先進技術がどういう形であれば人々に受け入れられるかを考え、企画〜プロトタイピングを経て、検証するというプロセスを回しています。そのノウハウを学生に伝えることが一つです。もう一つは、こういった実証実験をビジネスに昇華させていくこと。いいアイデアが浮かんでもビジネスにつながらなければ継続していくことができません。そのためにはどのようにしたら人々に賛同され、必要としてもらえるかを、学生と一緒に考えていきます。

岡田:イノラボはこれまでにも、地域貢献活動をスコア化するスマートフォンアプリ『AYA SCORE』や、家具や植栽等の静物とサービスロボットの融合など、街や空間に関する研究開発に取り組んできました。そこで培った技術も、学生のアイデア次第では活用してもらえると考えています。

早く学生に会いたいと話すイノラボ岡田

イノラボのフレームワークで「学生との協創型イノベーション」に挑む

—— 授業の様子はどうでしたか?

藤木:私たちが2020年前期に関わっているのは“都市スタジオ”と “情報スタジオ”というクラスになります。
情報スタジオでは、「福島第一原発の帰還困難区域の住民が感じている疎外感」を題材に、震災の記憶が薄らぐ中で、どのようにして自宅に戻れない住民の方々の思いや帰還困難区域に取り残された動物たちの現状をわかってもらうかを考えていきます。イノラボから、課題へ取り組む際の企画、研究・開発、実証実験の実施、評価といった進め方に加え、各プロセスにおける考え方のフレームワークをお伝えしました。学生はその進め方に沿って、対応策の検討に取り組んでいます。

岡田:新型コロナウイルス感染拡大の影響で、学生と実際に会って話をすることはできませんが、アイデアへのフィードバックや技術的な質問に関する個別フォローなどをリモートで行い、着々と実証実験実施に向けた取り組みが進んでいます。学生には私たちの講義に対する感想も書いてもらい、我々自身の伝え方や提供できるノウハウのブラッシュアップも行っています。私たちが研究開発を進める上ではどうしてもすぐにマネタイズを意識してしまいますが、学生はそこで暮らす人々がどのように感じるかを中心に深く考えている。こちらとしても大変刺激的です。例えば、街の中に住んでいる人の思いを反映する電灯を作る、遠隔地の人が繋がる窓を設けるなど、自由な発想からでてきたアイデアは新鮮に感じました。

渋谷:学生から生まれたアイデアの中には、イノラボで研究開発している技術を活用できそうなものもありました。そのようなアイデアには実際に運用するにあたっての課題も伝えられるので、具体的な実装イメージを持ってもらえるのではないかと思います。
今後、学生たちの開発が進む中で、さらにイノラボの技術やノウハウがどのように応用できるか、どのような形であればサポートができるかを検討していきたいですね。

学生のアイデアを社会へ

—— 学生たちから生まれたアイデアを今後どのように育てていきたいと思いますか。

藤木:企画の中間発表まで終わり、ここからは実装のフェーズに入ります。実装しながら企画も改めてブラッシュアップしていきます。このフェーズは学生主体で進めてもらいますが、実装する中で発生した課題等はあらためて私たちにぶつけてほしいと思いますね。イノラボの目標は社会課題を先進技術で解決することであり、まさに私たちが貢献したいところ。そのアイデアにはこの技術が使える、こういう技術を使うとよりいいものになるとアドバイスできることも多くなるでしょう。

岡田:中間発表の内容を聴きましたが、すぐにでも実現できそうなアイデアがありました。イノラボとしてはそのようなアイデアをベースに学生たちと議論を進めて、実証実験、社会実装へと成長させられるものを生み出したいと思います。 今回のテーマはそこに住む人々の心に寄り添う必要があるものです。だからこそ外出自粛が解除されたら、学生だけでなく、立ち入り禁止区域から避難された方々ともぜひ直接対話したいですね。

渋谷:人々の抱える課題の解決を願って純粋な気持ちで発想すると、どうしても価値とコストや収益のバランスが崩れがちです。企業として学生のアイデアの実現を支えるために、採算性を高める工夫をひねり出したり、協力してくれる仲間を見つけたり、イノラボらしい貢献をしていければと思います。

学生のアイデアについて真剣に話す講師陣

2020年9月更新

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株式会社電通総研
Xイノベーション本部 イノベーションデザイン室 オープンイノベーションラボ 藤木、岡田、渋谷
E-mail:g-info-innolab@group.dentsusoken.com

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