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のれんの償却をめぐる動向

コンサルタントの眼

経理財務を取り巻くキーワード

最近は
「働き方改革」「デジタルトランスフォーメーション」
「FP&A」「RPA」「AI」
等のキーワードをよく目にします。

世の中の情勢や技術の変化、法制度の変更等により次々と新たなキーワードが生まれます。そして生まれたキーワードは私達の今や未来を変えていきます。

今回は、比較的昔からある経理財務部門に関連するいくつかのキーワードについて、過去・現在・今後について考えてみたいと思います。

■「決算早期化」
<過去>
1990年代前半に連結財務諸表の有価証券報告書本体への組み込み・連結上の開示内容の拡大という法制度変更を受けて連結財務諸表の重要性が高まり、その頃から決算早期化というキーワードが脚光を浴び始めたように思います。これ以前、決算発表にかかる平均所要日数は、単体で約50日、連結で約70日程度でした。連単同時の決算発表に向けて連結処理にかかる期間の短縮に取り組むことで2000年代前半には多くの企業が連単同時の決算発表を達成しました。その後も連結処理の短縮化と連結パッケージ用のグループ子会社の単体決算の早期化を軸として決算早期化のプロジェクトが各企業において進められたと思います。この間に連結決算パッケージも広く普及していきました。

<現在>
決算早期化への取り組みは一時ほどの熱はないものの継続しており、連結決算パッケージも引き続き機能強化版の提供を続けています。これらによりここ数年は、決算発表にかかる平均所要日数は40日を切るところまで来ました。あれだけの上場企業の平均ですから、すごい進化だと思います。

<今後>
最も望ましいとされる早期開示会社(30日以内の開示)まではまだ乖離があること、連結経営における意思決定の迅速化の観点からも決算早期化のニーズはまだ高いと思われます。様々な技術を利用してどのように決算処理の効率化を図っていくか、単体会計システムと連結会計システムのよりシームレスな関係を構築できるかが今後解決していくべき課題と認識しています。

■「J-SOX」
<過去>
2006年から2008年の間でJ-SOX対応プロジェクトに関わられた方は懐かしい単語かもしれません。全ての上場企業に対して、財務報告にかかる内部統制についての評価手続きや報告などを実施することが求められました。内部統制とは規定やプロセスの整備・運用など組織における業務活動を適正に行うための体制構築システム全般を指します。
内部統制報告書の作成・提出が義務付けられ、内部統制のコントロールのためにいわゆる3点セット(業務記述書・フローチャート・リスクコントロールマトリックス)の整備を進めた企業が多かったと思います。システムについても不正の抑止・追跡可能とするための要件がより厳格に求められるようになりました。

<現在>
制度適用時の対応が完了し現在は継続運用中の状況であることもあり、J-SOXというキーワードはあまり聞かなくなりました。一方で不祥事は現在でもなくなっている訳ではありませんし、内部統制は連結ベースで適用されることもあり、海外子会社も含めたグループ全体の統制に対する課題意識をお伺いすることがよくあります。

<今後>
グループ全体の統一インフラとしての会計システムの構築や、ルールベース、学習ベースのAIを活用した不正検知ソリューションによりプロセスだけでなく、データから不正を検知できる仕組みを有効な精度で実現できるかを追求していく必要があると認識しています。

■BCP
<過去>
BCPとは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃、感染症の流行などの緊急事態に遭遇した場合に、損害を最小限に抑え、事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことを指します。古くからある考え方ですが、2000年問題、アメリカ同時多発テロ事件、東日本大震災といった緊急事態が起きたタイミングで都度クローズアップされてきました。各企業はレベルは異なるもののそれぞれBCPを作成して有事に備えてこられたことと思います。

<現在>
最近では新型コロナウィルスによる肺炎の流行による緊急事態が発生しています。新型コロナウィルスによる肺炎の流行についてはいくつかの企業がテレワークによる在宅勤務の方針を出しました。テレワークについては、働き方改革の観点でもBCPの観点でも東京オリンピックの開催の観点でも重要な取り組みの1つになると考えられます。

<今後>
様々なBCPのうち、今回の新型コロナウィルスの流行を契機として感染症による出社停止時の対応等が優先度高く改善されていくことが考えられます。いつでもどこでも誰でもOfficeにいる時と同じように、経理財務業務を行うことが可能となるような業務インフラとなりうる(広義の)会計システムを構築することが必要と認識しています。

それぞれのキーワードは、長い時を経て以前にあった課題を解消する方向に進んでいますが、まだ残っている課題もあります。新たなキーワードに関連する新たな課題も発生しています。ISIDでは、これらの課題解決に向けて新たな技術も取り入れながら、クロージングチェーンの最適化、業務・データの可視化と有効活用、様々な環境や状況に適応可能なソリューションの提供に取り組んでまいりたいと考えております。それにより多くの経理財務部門の皆様の未来に貢献できることが私達の喜びです。

担当:土手 健二(ISID/コンサルタント)

中田雑感

のれんの償却をめぐる動向

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

今回も新聞記事を読んで感じたことを書きます。
今回は国際会計基準(IFRS)での「のれんの償却」の議論です。

『国際会計基準審議会(IASB)のハンス・フーガーホースト議長は日本経済新聞の取材に応じ、M&A(合併・買収)で生じる「のれん」の国際会計基準(IFRS)での扱いについて、IASB内の議論は「定期償却を導入する意見に勢いがある」とした。(2020年2月27日付 日本経済新聞 電子版)』

日本基準と違い、IFRSではのれんを償却しないで減損テストを行うことは、多くの方がご存じのことと思います。しかし、減損損失を計上することとなるまでは、全く費用計上されず、多額の資産として計上され続けるので、健全性に問題があるという意見も相当程度あるようです。
日本の立場も、のれんは償却すべきという立場です。

のれんは償却するべきか、償却しないで減損テストにするべきか。
なかなか簡単には決まる問題ではありません。みなさんはどのように考えられていますか?

私はこの問題の本質は、「測定技術」にあると考えています。
もし、「のれんから得られる将来の収入を適切に測定する技術」があれば、毎期減損テストを行って将来の収入が簿価を下回れば、下回る金額だけ費用計上すればよいでしょう。しかし、今現在、「のれんから得られる将来の収入を適切に測定する技術」が確立していないのだと思います。「のれんから得られる将来の収入を適切に測定」できないのであれば、定期的に償却して、資産の計上額を少しずつ減らす方が、価値があるかどうかわからない資産を計上し続けることを避けることができるのです。

IFRSの概念フレームワークでも、「信頼性をもって測定できる」ことが、資産や負債を認識する上で、必須要件になっています。のれんはまず、企業を買収した際の支出に含まれていて、「取得原価」で測定できるので、資産として認識できるのです。
しかし、取得後の簿価が取得原価のままで良いかどうかを「信頼性をもって測定」できないのであれば、資産として計上し続けることは、IFRSの概念フレームワークでも許されないことになるでしょう。

さきほどの記事では、以下のように、のれんを償却する方向で、3月にリベンジすることが図られているようです。

『IASBは導入に向けた議論のたたき台となる「ディスカッションペーパー」を3月に公表する見通し。半年にわたり規制当局など関係者から意見を募り、再度導入の採決をする方針だ。米国会計基準をつくる米財務会計基準審議会(FASB)でも、のれんの定期償却に関する検討が始まっている。IASB議長は米国の議論の行方が「IASBの意思決定に大きな影響を与える」と強調。
「万が一、最終的に米国基準とIFRSが違う方向になれば悲劇的だ」とした。
IFRS、米国基準ともに定期償却を導入するか判断する時期は流動的だ。そのため「混乱を避けるため、米国と同じタイミングで意思決定ができればと思う」とした。(2020年2月27日付 日本経済新聞 電子版)』

アメリカも同じタイミングでのれんを償却する方向で動いているようです。
ここしばらくは、注目したいと思います。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

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