改正労働基準法のポイント:第6回

押さえておきたい改正労働基準法のポイント! 実務運用編

06 年次有給休暇日の時季変更権
〜忙しい時季に社員から求められたとき、会社はどうする?〜

著者:奥村 禮司氏

2009年12月10日掲載

1.年次有給休暇の時季変更権

年次有給休暇は、労働者の権利です。労働者から請求されれば、請求された時季に与えることになっています。しかしながら、「事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」としています。

労働基準法

第39条第5項

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

さて、この「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、なんなのでしょうか?

ここで皆さんに質問です。
皆さんは、いま部下を持つ上司という立場にあると仮定して下さい。
ある日部下から、「明日、年次有給休暇を取得したいのですが」との申し出がありました。業務が忙しい時期なので「忙しいから、他の日にしろ!」と皆さんは拒否しました。当たり前ですよね。
ところが、皆さんが拒否したにもかかわらずその部下は勝手に休んでしまいました。上司である皆さんが、年次有給休暇を承諾・許可しなかったにもかかわらずです。そこで、皆さんはこの休んだ日を当然、欠勤扱いにしようと考えています。
さて、欠勤扱いとすることは法的に問題になるでしょうか?

ここで、問題となるのは、次の点です。

  • (1) 年次有給休暇を請求したときに、「業務が忙しい」という理由が、請求された時季を変更できる理由となるのか
  • (2) 上司は、年次有給休暇を許可していないにもかかわらず、勝手に休んだものも年次有給休暇とする必要があるのか

では、(1)の「業務が忙しい」という理由ですが、実は、「忙しい」ことを理由とした時季変更権を認めていません。知っていましたか?

どんなに仕事が忙しいときであっても、年次有給休暇を請求してきた労働者の代替要員を探し、その労働者の代わりに仕事をさせることが可能であれば、会社は、代替要員を確保しなければならないとしています。
代替要員は、他の社員でもいいでしょうし、派遣社員・アルバイトでも構いません。「他の社員は、皆忙しくて、代わりなどできない!」であれば、派遣社員やアルバイトを1日頼むことになります。「派遣社員やアルバイトの人件費はどうするんだ!」「さあ、そこまでは法律の知らぬところです。」という答えが返ってきます。ふざけた話ですよね。でも、これが現実です。

「代替要員がいないほど、重要な職務と権限があり、その労働者がこなければ、会社は損害を被ってしまう。」というほどの労働者であれば年次有給休暇を拒むことができますが、まあ、そんな方はそうそういないでしょう。「俺がいなければ、会社は動かない!」なんて思っているのは、自分だけで・・・、実際には会社は動いていきます。部長しかり、役員しかり、社長だって、代替できるかもしれません。

最高裁の判決文の中でも、『代替要員を確保して勤務を変更することが客観的にみて可能であれば、使用者は通常の配慮をすべきであり、通常の配慮をせずに代替要員を確保しなかったら、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しない。』としています。

判例

<勤務割における勤務予定日につき年次有給休暇の時季指定がされた場合に、休暇の利用目的を考慮して勤務割変更の配慮をせずに時季変更権を行使しようとした事件>

労基法39条3項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たって、代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。したがつて、そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。そして、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであるから、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない。

弘前電報電話局事件 昭和62年7月10日 最高裁)

このため、「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、始業間際の請求や時季が集中したことにより、代替要員が確保できないような場合に限られています。

では、(2)はどうでしょうか?許可していないという話でした。年次有給休暇に上司の許可が必要でしょうか?

「年次有給休暇には、使用者の承認や許可等を要する」なんてことは、条文の中のどこを探してもありません。つまり、年次有給休暇は、労働者の一方的な権利であり、「明日、年次有給休暇を取ります!以上終わり」です。上司の承認や許可は一切必要ありません。
休暇の理由も問われないのです。

裁判例

<年次有給休暇を請求し勤務につかなかったところこの請求が不承認とされ欠勤扱いにされたため、欠勤分として差引かれた賃金の支払を求めた事例>

労基法第39条第1、2項の要件が充たされた場合には、法の定める労働条件の一として、使用者は一定日数の労働義務を免除し労働者を就労から開放することを国家から一方的に義務づけられるのであり、反面、労働者はそれによって当然一定日数の労働義務を免除され、その日数の就労から開放されるという一種の種類債権を取得することになるのであるから、この権利義務発生のために更に労働義務免除という使用者の意思表示を必要とする余地はない訳である。
既に述べたように有給休暇請求権の行使というのは休暇となるべき日の指定を意味するのであり、労基法第39条第3項但書の事由が客観的に存在しない限り、当該指定日の労働義務はこの指定だけによって消滅することになる(即ち休暇日となる。)のであって、本件においては後記のとおり、右但書の事由が認められない場合であるから、もともと使用者が行使すべき時季変更権なるものは存在しないものというべく、従って被控訴人がそのように有給休暇の請求後直ちに退庁してしまったからといって、それが控訴人の言うように時季変更権の行使を妨害するものであるとか、権利の濫用であると言うのは当らない。
そして、就労から開放される有給休暇日において、労働者がこれを如何なる用途に利用するかは、一般の休日と同様に、もとより労働者の自由であると言うべく、労働者としては有給休暇の請求に際しては単に休暇となるべき日を指定しさえすればそれで十分であって、休暇利用の方法用途まで一々申出る必要はないと解せられるのであるから、このよう休暇の利用目的如何によって、有給休暇の請求自体が本来認められている範囲を逸脱しているとか、逸脱していないとか言うのは当らないのである。

白石営林署事件 昭和41年5月18日 仙台高裁)

長くなりましたが問題の回答は、「欠勤にすることはできず、当然に有給休暇となる」ということです。

『誰だあ!こんなふざけた年次有給休暇を作った奴は!』なんて、言葉が聞こえそうですが、年次有給休暇は、「業務が忙しい」という理由で請求された時季を変更することはできませんし、上司の許可も必要がないということですので、これが回答となります。
是非覚えておいて下さいね。

但し、これはあくまでも法的な年次有給休暇でのことであり、会社が任意に与えている特別休暇等は業務が多忙等による時季変更権は認められますので、念のため。

このコラムも、次回が最後です。いま、人気No1の企業は、「年次有給休暇を取得しやすい会社」です。皆さんの会社は、年次有給休暇の取得しやすい会社となっていますか?取得しやすくするためにはどうしたらよいでしょうか?そんなコラムです。
次回最終回、是非お楽しみに。

執筆者略歴

奥村 禮司氏

新事業創造育成実務集団代表、社会保険労務士、CSR労務管理コンサルタント、労働法コンプライアンスコンサルタント。上場企業や外資系企業など多数の企業の顧問として、雇用管理・労務管理などの指導、相談に携わる。また、労働法の講演会や執筆などのほか、産業能率大学総合研究所兼任講師、株式会社きんざいの講師としても活躍中。

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