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新事業のモニタリングからM&Aの巧拙を考える

SKJ総合税理士事務所 所長・税理士 袖山喜久造

第3回 社内規程・業務フローの作成

袖山喜久造   

電子帳簿保存法のスキャナ保存を行う場合の検討手順については、前回のメルマガで説明しました。第3回では、経費精算業務においての領収書のスキャナ保存を行う場合の社内規程の作成と業務フローの作成について説明します。

1. 経費精算に係る領収書のスキャナ保存の社内規程
電子帳簿保存法施行規則第3条第5項第7号では、スキャナ保存を行う際の関係書類の備付けの要件が規定されています。国税関係書類のスキャナ保存においては、法的要件を満たした入出力機器、保存システムを使用することが必要ですが、この要件以外に運用要件として経費精算の事務処理手順を明らかにした書類の備付けと運用が要件となっています。

特に領収書は重要な書類に分類され、適正事務処理要件に従った社内の入力体制においてスキャナ保存を行うことが必要となります。
適正事務処理要件は、企業規模に応じ、従業員数やスキャナ保存する領収書の枚数なども勘案し入力体制を検討します。規程等の作成に当たっては、国税庁のホームページに掲載される電子帳簿保存法一問一答のスキャナ保存関係の問46において、ひな型が提供されているので、参考にしながら作成の検討を行うといいでしょう。(以下URL参照)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07scan/02.htm#a046

(1)適正事務処理規程経費精算において処理される領収書のデータ化に当たり、不正が起こりえないよう入力に当たっての相互けん制が図られた入力体制、入力後に適正入力の確認を行う定期検査の体制、定期検査において不備があった場合の、原因究明や再発防止等の改善体制を検討します。

a. 相互けん制体制
重要な書類のスキャナ保存に当たっては、申請書類の作成又は受領からタイムスタンプを付与して保存するまでの一連の事務を、二人以上の体制で行わなければなりません。規程作成では、別途定める事務分掌細則において、領収書の受領者(通常は経費精算者)、入力者(スキャニング担当者)、入力確認者などの担当を決めます。

b. 定期検査体制
規程においては、事業年度中に行われる定期検査の回数、定期検査担当部署について定めます。また、定期検査の検査項目等についてもあらかじめ定めておき、定期検査で使用する報告様式も規程に添付しておきましょう。実際に定期検査を実施する場合には、規程で定められた回数以上実施しても問題はありません。実施の時期については運用において経費精算の件数等を勘案し、弾力的に実施が可能です。領収書原本の廃棄は定期検査終了後でないと廃棄できません。

c. 改善体制 規程においては、通常の経費精算業務や定期検査において不備が発覚した場合、不備の内容に応じて原因究明や再発防止策などの改善を行うことを規程に盛り込みます。不備があった場合の報告者や報告先、報告書の作成基準などを検討します。

(2)国税関係書類のスキャナ入力に関する事務処理規程
適正事務処理規程以外に、申請対象の国税関係書類について、法令に基づき
象書類の作成又は受領から入力・保存までの事務処理手順を定めます。国税庁提供の「スキャナによる電子化保存規程」のひな型を使用することをお勧めします。ひな形の中で定められる各条項の内容については、導入企業により社内規程の体系やほかの規定もあり、それぞれの企業において規程の位置づけやほかの規定との整合性等について検討します。

2. 経費精算の領収書のスキャナ保存の業務フロー
国税庁提供の「スキャナによる電子化保存規程」のひな型を使用する場合、同規程には、スキャナ保存の手順についての条項がありますが、導入する企業においての入力手順は複数あることが多いと思います。入力手順については、別途業務フローにより行うことでも問題ありません。業務フローは、規程に定められた事項に基づき、実際に国税関係書類のスキャナ保存に係る入力手順をフロー化したものです。規程で定められた事項に従って、各申請書類の発生する場所や業務ごとに業務フローを作成します。

経費精算に係るスキャナ保存の業務フローは、領収書の受領(経費の支払い)から、領収書のスキャニング(撮影を含む)、システムへの登録、タイムスタンプ付与、経費申請、経費承認までのすべてのプロセスがわかるように記載します。
特に、領収書のスキャナ保存においては、相互けん制体制において入力することが必要となりますので、どのように相互けん制が図られているかがわかるように業務フローを作成することがポイントとなります。

【領収書のスキャナ保存の業務フロー作成にあたってのチェックポイント】
・領収書の受領からデータ保存までの各手順が細かく網羅されているか
・申請書類ごと、入力者ごとで手順が違う場合には、すべての手順の業務フローが作成されているか
・相互けん制体制が満たされる2名以上が入力に携わる入力手順となっているか
・経費申請者のみが原本とデータの確認を行う場合、特に速やかにタイムス タンプ付与ができる体制となっているか
・特に速やかに入力できなかった場合において、原本確認をほかの者が行う手順となっているか
・会計システムへの仕訳データの連携時期について記載があるか
・どの時点で誰が原本を廃棄するか

次回は、スキャナ保存の運用に関する問題点の解決について解説します。

SKJ総合税理士事務所

中田雑感

新事業のモニタリングからM&Aの巧拙を考える

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

最近、新事業開発に関するアドバイスのご依頼をいただくようになりました。
ご依頼は経営部門ではなく、新事業をモニタリングする部門からです。

このモニタリング部門は、新事業がスタートした後で、今後も事業を継続させても良いかどうかの判断規準(事業性の判断規準)を設けて、各新事業がその規準をクリアしているかどうかを明確にして、経営層に報告することがミッションです。

私へのご相談は、事業性の判断規準をどのように設定すればよいのか、知恵を貸してほしいというものです。

事業性の判断規準は、何もないところから創り出すものではないと考えています。まずは、その新事業を始めることを承認した際に作成された「事業計画」があるはずです。
その事業計画の内容について、「計画を達成できる蓋然性」、言いかえれば、「計画を達成できる可能性の高さ」が把握された上で承認されたはずです。したがって、モニタリングにあたっては、そもそもの「事業計画」の内容との乖離を把握することが重要だと思います。
しかし、その前に、「事業計画」がどれだけきちんと立てられたかが問題であり、その内容をどれだけ吟味して承認されたかが、最初に問題になるはずです。事業計画の策定とモニタリングは密接不可分だと思うのです。
しかし、ご相談をいただいた企業では、事業計画策定時の前提・仮定とモニタリング項目は関連付けられていませんでした。
これでは、ただ手続き的にモニタリングをするだけになってしまって、事業の継続性を適切に判断できなくなってしまいます。

この構図は、のれんと減損処理の構図に似ているな、と感じました。
企業を買収する際の買収価格を決定する際に、経理部門が関与することはあまりないようです。被買収企業が策定した事業計画が、どのような前提・仮定で策定されたのかを吟味して、その蓋然性をどのように評価したのかということについて、経理部門が一緒に行うことはあまりないようです。
買収後に、被買収企業が策定した事業計画通りには売上・利益が達成できず、2期連続赤字になると、のれんは減損対象になっていきます。
減損処理は、将来の回収可能性の把握をしていくことになりますが、買収時の事業計画の前提・仮定を顧みることはしません。
つまり、買収時の事業計画の前提・仮定とのれんの評価に関連性がないのです。
本来であれば、買収時の被買収企業が策定した事業計画の前提・仮定を、経理部門が把握して、買収後にその前提・仮定の変化をつかんで、前提・仮定が変わった瞬間に減損対象にすべきかどうかを検討し始めるべきだと思います。そうすることで、被買収企業が策定した事業計画の蓋然性を判断する能力がついていくのではないでしょうか。

買収時の事業計画の前提・仮定とのれんの評価に関連性を持たせない状況が続いていくと、日本企業はいつまで経っても、適切な買収価格を決める能力が向上しないと思います。

日本企業のM&Aが上手くないことと、日本企業からはなかなか有望な新規事業が創出されないことと、根が同じような気がしています。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

メルマガ事務局より

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