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新型コロナウイルスとアップルの経営予測

コンサルタントの眼

収益認識会計基準でなにが変わる?

収益認識に関する会計基準の適用開始まで、残すところ約1年となりました。
皆様、準備は進んでいますでしょうか。今回は、これまでは各企業に委ねられてきた収益認識のタイミングに基準が設けられるという点について、今一度おさらいをしてみたいと思います。

これまでは、企業会計原則で規定されている「実現主義」に則って収益は認識されてきました。製造業で言えば、財またはサービスを工場・拠点から出荷(A)し、顧客が受領(B)し、検収(C)する、という流れの中で、企業がどのタイミングで収益が実現したと認識するのかで、収益認識のタイミングが変わっていました。
日本では、(A)の工場・拠点から出荷した時点(=出荷基準)で認識することが多いように思います。しかし、どの企業がどの基準を採用するのが適切か、という明確な規定はなく、(A)~(C)のタイミングにおいて、各企業が実態に即して「出荷基準」、「着荷基準」、「検収基準」から採用しているように思います。これが、当該基準が設けられることによって「資産に対する支配が(相手に)移転した時点で収益を認識する」、という視点に統一されます。

それにより、これまでは出荷した時点で収益を認識していた企業が、出荷しただけでは「資産に対する支配が(相手に)移転した時点」と言う条件を充足していないということが判明した場合に、出荷時点では収益として認められなくなる可能性があります。ただし、国内販売において、当該財またはサービスの出荷から「資産に対する支配が(相手に)移転した時点」までの期間が数日(=通常の期間)である場合においては、着荷基準が認められる場合があります。

そのため、収益認識に対する社内プロセスを再整理し、このままの基準で問題がないのかを再検討する必要があるのです。収益認識の基準が変更されれば、管理指標上での売上の計上タイミングや売上金額も変わり、営業部門の業績評価に影響が出るかもしれません。また、収益認識に関する社内プロセスを整理した結果、社内システムの再構築が必要となることも考えられます。では、実際に、収益認識会計基準の見直しを実施するにあたり、どのような対応(手順)を取ればよいのでしょうか。最後に、一般的なプロジェクトの進め方をご紹介しておきます。

1.差異分析
・収益認識会計基準と現行の基準を比較し、どのような差異があるのかを確認する。
2.影響分析
・判明した差異を是正するにあたり、業務、あるいはシステムの修正範囲を把握する。 3.方針・体制策定
・差異と影響範囲から修正に向けた行動指針、及び推進体制を策定する。
4.詳細分析・対応案検討
・定められた方針に則り、修正範囲内の詳細な修正内容を検討する。
5.検証
・修正内容を反映し、テスト運用を実施し、問題ないことを確認する。
6.導入
・関係部署への展開、修正反映、運用開始
7.フォローアップ
・導入後の課題を整理し、今後の対策を検討する。

残り時間が決して多くはない中で、自社内のメンバーだけで上記のステップを進めていくのは、なかなか骨が折れると思いますが、 会計士の先生方のお知恵や我々ITコンサルタントをフルにご活用いただき、収益認識会計基準の適用に備えていただければと思います。
また、社内プロセスを見直す、またとない機会ですので、昨今話題に上がることの多いRPAのような業務の自動化、効率化などについても、この際に合わせて検討を進めてみるのもありかもしれません。

担当:熊谷 知郁(ISID/コンサルタント)

中田雑感

新型コロナウイルスとアップルの経営予測

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

現在、中国武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大の影響が心配されています。日本経済新聞でも連日取り上げられています。
2020年1月の記事でも、アップルでの影響について、以下のような内容の記事が掲載されました。
『販売面では、一部の店舗を閉鎖したほか「(中国の)多くの店舗で営業時間を短縮している」と話す。武漢地域の売り上げ規模は大きくはないが、中国全域で販売への影響が表れている。アップルは28日、20年1~3月期の売上高が630億~670億ドルになるとの予想を公表。新型肺炎の影響を考慮して「より広い売り上げの幅で予想を出した」(クック氏)。(2020年1月29日付 日本経済新聞電子版)』
この記事で私が注目したのは、「より広い売り上げの幅で予想を出した」という、アップルCEOのクック氏の発言です。この記事では、クック氏の発言の少し前で、「20年1~3月期の売上高が630億~670億ドルになるとの予想を公表」と記載されています。このアップルのように、売上や利益の将来予想には、「幅」を持たせるべきなのです。なぜなら将来は不確実で予測が難しいからです。難しいからと言って全く予測しないということは、将来のリスクやチャンスを把握しないで経営を行うということです。将来のリスクやチャンスを把握せずして、適切な経営ができるはずがありません。そして、「幅」はヤマカンではなく、統計の手法を使って、合理的に作成されているのです。

売上や利益に合理的に策定された「幅」を持たせないで経営を行っているのは、先進国では日本くらいです。欧米の企業や、アジアでも成長企業は、将来予想に「幅」を持たせるのが当たり前です。

この記事は、アップルもやはり将来予想に「幅」を持たせて経営をしていることがわかります。「幅」が狭いほど予想に自信があり、「幅」が広いほど自信がないということです。この記事のクック氏の発言は、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大の影響で、通常よりも予測の難易度が上がっていることを意味します。

ちなみに、時間をさかのぼって、2019年7月の記事では、以下のようになっていました。
『アップルは19年7~9月期の業績予想で売上高が610億~640億ドルになる見通しを示した。前年同期に比べ3%減から2%増の範囲になるとしている。(2019年7月31日付 日本経済新聞電子版)』
昨年7月末に予想した時の売上高の「幅」は、610億~640億ドルですから30億ドルでした。今年1月末に予想した売上高の「幅」は、630億~670億ドルですから40憶ドルです。今回の予想が、通常よりも10億円広い「幅」で策定されたことがわかります。

さらにちなみに、2019年10月の記事では、『2019年7~9月期決算は売上高が前年同期比2%増の640億4000万ドル(約6兆9000億円)だった。(2019年10月31日付 日本経済新聞電子版)』 とありますから、7月末に予想した時の「610億~640億ドル」の「幅」に入っていますね。予想は当たったわけです。

経理関係者の多くは、予想を嫌う人が多いように思います。予想が外れることが心配なのです。予想が外れたら、評価が下がったり、責任を取らされたりするなど、デメリットが多いのです。しかし、先にも述べましたが、合理的に将来予想をしない経営は、適切な資源配分ができず、変化にも対応できなくなるでしょう。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

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