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【収益認識基準】子会社から親会社への苦情

コンサルタントの眼

スマホ決済普及の背景と会計処理について

1.スマホ決済の普及の背景
経済産業省が2017年5月に発表した「FinTechビジョン」のなかで、諸外国と比較し日本のキャッシュレス決済比率の低さ(2015年時点で日本は15%に対し、中国・韓国50%強、米40%強)が課題とされ、キャッシュレス決済比率向上を政策指標とすることが明記されました。

その一環として「キャッシュレス・消費者還元事業(平成31年度 経済産業省)」という施策があるのをご存知でしょうか。これは、消費税増税に合わせ2019年10月に施行され、2020年6月まで実施されるものです。予算規模は2,798億であり、大きな施策と言えます。

消費者に対してはポイント(2%~5%)が優遇され、加盟店に対しては中小・小規模の事業者に対し導入機器が実質無料となる補助金(キャッシュレス運営会社が1/3を負担、国が2/3を負担)が支払われる制度となっております。

この施策を背景に、PayPay・LinePayに代表されるスマートフォンによるキャッシュレス決済(以降、スマホ決済)が普及したと言えます。

では、スマホ決済という比較的新しい決済の流れと会計処理とはどのようなものでしょうか?

2.スマホ決済の会計処理
スマホ決済とはスマートフォンのQRコードやバーコードを利用して現金を使わず決済する仕組みを指します。実際に店舗で利用者がスマホ決済を行う流れは以下の通りとなります。

(1)利用者がチャージする
利用者は事前にスマホ決済用の残高をチャージします。
チャージは、銀行口座やクレジットカード等から実施することが可能です。

(2)利用者が購入する
実際の店舗でのスマホ決済の方法として以下の二つがあります。

・QRコードを使用
利用者が店舗のレジ前に掲示してあるQRコードをスマホアプリで読取ります。その後、利用者が金額を入力後、店員に確認してもらい決済を行います。

・バーコードを使用
利用者がアプリでバーコードを提示します。店員がバーコードを読取り、決済が完了します。

では、上記の流れの中でキャッシュがどう動き、どのような会計処理を行えばよいのか、スマホ決済の会計処理について、加盟店側と利用者側にわけてそれぞれ解説していきます。

<利用者側の会計処理>
まず、利用者側の会計処理について取引例と仕訳例を記載しながら解説していきます。

 (1)チャージ時

 (取引例)
 スマホアプリにより残高を10,000円チャージした

 (仕訳例)
 借方 貸方
 仮払金 10,000 / 預金 10,000

チャージした際の勘定ですが、前払い方式の性質であれば「仮払金」や「貯蔵品」、後払い方式の性質であれば「未払金」等を使用します。
仮払金の相手として「スマホ決済運営会社」として残高を管理します。

 (2)購入時

 (取引例)
 スマホアプリにより5,000の商品を購入

 (仕訳例)
 借方 貸方
 消耗品費 5,000 / 仮払金 5,000

チャージした10,000円のうち、5,000を消費し商品を購入しました。
仮払金として残高管理しているチャージの残高は5,000円となります。

<加盟店側の会計処理>
次に、加盟店側の会計処理について取引例と仕訳例を記載しながら解説していきます。取引には利用者、加盟店、スマホ決済運営会社の三者が関わりますが、加盟店にとってのキャッシュの流れはスマホ決済運営会社とのやりとりのみ意識することとなります。

 (1)販売時

 (取引例)
 スマホ決済により商品を5,000円で販売

 (仕訳例)
 借方 貸方
 売掛金 5,000 / 売上 5,000

販売時には入金されないため、売掛金勘定を使用します。
売掛金の相手を「スマホ決済運営会社」として残高を管理します。

 (2)入金時

 (取引例)
 スマホ決済運営会社より手数料1%分を差引かれ入金

 借方 貸方
 預金 4,950 / 売掛金 5,000
 支払手数料 50

3.まとめ
利用者側、加盟店側の会計処理をみていくと、スマホ決済の会計処理が従来からあるICカードなどの電子マネーと類似の会計処理であると言えます。

一方で、電子マネー全体に言えることですが、ポイントの扱いやチャージ残高で使用する勘定については、従来の会計基準に照らし合わせて判断し会計処理を行うことが多いように見受けられます。

今後益々キャッシュレス決済が普及していくことと思われますが、電子マネーそのものの性質に合わせた明瞭な会計基準が整備されていくことを期待しております。

担当:新井 則貴(ISID/コンサルタント)

中田雑感

【収益認識基準】子会社から親会社への苦情

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

収益認識の新基準が1年数か月後に迫り、私への問い合わせが日に日に増しています。

その中に、子会社の経理担当の方から、親会社経理部門への苦情が混じり始めました。それは、新基準を適用するために、親会社から依頼された内容に納得ができないというものです。納得できない原因は二つあるようです。

1つは、親会社が依頼してくる項目の目的や意味が理解できないとか、理解するために親会社がわかりやすく説明をしてくれないというものです。

例えば、
「結合後のアウトプットに統合する重要なサービスを提供している場合には、当該財またはサービスを他の財またはサービスと区分して識別できないため、履行義務を別個のものとして識別できない」
などといった表現の資料が親会社から送付され、該当するケースに適切に対応するよう依頼があった。しかし、何度読んでも内容が理解できず、親会社に問い合わせても、まずは該当するケースがあるかどうか調査してほしいなどと言われ、その前に依頼の内容がわからないことが理解してもらえない。対応ができないうちに、親会社の会計監査人から、製品の販売に関して、設置、試運転及び顧客の研修サービスが終わらないと、顧客はその製品を使えないから、製品販売・設置・試運転・研修はすべて1つの履行義務になる。したがって、製品販売時点では売上計上できず、設置・試運転・研修がすべて完了した時点で、売上を計上しろと言われ、全く納得も理解もできず、困っている。などといったものです。

親会社経理部門も、すでに忙しいので丁寧な説明をする時間ができないのかもしれません。あるいは、新基準の内容が複雑かつ難解なため、親会社経理担当自身が、十分に理解できていないのかもしれません。
いずれにしても、子会社経理担当も、きちんと理解して納得しないと、ただ親会社からの「命令」だから対応しなければならない、という状況になるでしょう。目的の理解と納得がない対応は、漏れや間違いを誘発するリスクを高めるので注意が必要です。

納得できない理由の2つ目は、どう考えても重要性がないと思われる取引について、とにかく新基準を厳格に適用しようとして、子会社に対応を依頼するというものです。

例えば、進捗度が合理的に見積もれないので、従来の工事進行基準が採用できないが、原価を回収できる可能性が高いので、原価回収基準で対応するよう指示があった。しかし、原価回収基準で対応するためには、期末時点で完了していないプロジェクトのコストを集計する必要があり、現場で大変な負担をかけることになる。あげくに、その結果集計された金額は、親会社の連結売上高の”0.1%”に過ぎない。
大変な工数をかけて、連結財務諸表への影響がほとんどないことに対して、親会社経理担当者が指示を変えない。監査法人の指摘事項になるので、対応しなければならないという説明しかもらえない。などというものです。

この原因は、親会社経理部門が、連結財務諸表に与えるインパクトを検討しないで、全ての論点について、新基準に対応しようとするところにあると思います。まずは、親会社経理部門が、新基準の各論点の重要性をきちんと認識して、重要性のない論点については、会計監査人に対応が不要であることを協議して、子会社や営業などの現場部門に、無用な工数が発生しないように心がけて、実践することが非常に大切だと思います。
会計監査人との協議が面倒くさいと考える親会社担当者は、親会社の社員である資格がないと思います。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

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