loading

記述情報の開示の好事例集

コンサルタントの眼

資金の効率的な運用について

近年、Cash Management System - 「CMS」という言葉を会計システム導入時に聞く機会が増えました。そのため今回は財務経理であれば一度は聞いたことがあるかもしれないCMSについて取り上げてみたいと思います。本記事がCMS理解の一助になれば幸いです。

まず「CMS」とインターネットの検索エンジンで検索を行うと「Contents Management System」というWebサイトを運用するシステムが検索されます。今回取り扱うCMSとはWebサイトの運用システムではなく、企業の財務担当者が扱うCash Management System - 「CMS」となり、一般的な用語や目的および個人の解釈も含めて取り上げていきたいと思います。

CMSとはCash Managementという言葉通り、お金を管理する仕組みです。グループ全体のお金を包括して管理することによって、コスト削減・不要な借入金の削減・余剰資金の有効活用を行う仕組みのことをいいます。私なりの解釈ですが、このお金を管理する仕組みとは一言で表現すると「お財布の紐を握ること」と解釈しています。

子会社を保有する親会社が子会社の資金の紐を握り、親会社のみが資金の管理を行うCMSという仕組みには細かく以下の要素があります。

1.プーリング : ゼロバランス/ターゲットバランスを行うことによって、日次や定時で資金を親子間で移動させる仕組み。
2.支払代行: 子会社の債務や給与支払いを親会社が代行して支払う仕組み。
3.ネッティング: 親子間/子会社間の支払いは実際の資金を移動させず、帳簿上で管理する仕組み。
4.回収代行: 子会社の債権を親会社が代行して回収する仕組み。

上記は子会社にはCash(資金)を持たせずに、親会社が子会社分の資金を一括で集中管理するための手段となります。一般的に1,2,3の組み合わせでCMSをスタートする企業が多いと、私個人としては認識しております。

1.のプーリングによって毎日のように子会社の債権からの入金を回収します。そして、支払いは基本的に2.の支払代行を実施することによって、子会社の口座からのキャッシュアウトを代行します。
また3.によってグループ企業間のお金のやり取りは実施しません。

上記によって親会社は各子会社にどれだけの入金があって、どれだけの出金があるかを管理することが可能です。子会社目線からすると、入金されたお金はすべて親会社に持っていかれ、支払いはすべて親会社の監視の下、代行されます。

ではなぜ企業は親会社に資金を集約させるのか、その目的は以下であると一般的に言われています。

【目的】

・余剰資金を持つ会社を活用し、資金不足の会社の有利子負債を減らす。
・振込み作業を一括で行うことにより送金手数料と振込事務作業を減らす。
・グループ会社債権・債務を相殺し送金手数料と振込事務作業の削減を図る。
・余剰資金を運用し運用益を上げる。

グループ会社全体の入出金予定をすべて親会社が管理することができれば日次のキャッシュポジションを把握し、オーバーナイト預金などの財務運用の効率化につなげることが可能です。

また上記定量的な効果以外にも、実際にCMSを新たに構築しようとする財務担当者様と雑談ベースでCMSを新たに行う目的を伺う機会があり、こんな定性的なことも仰っておりました。
・牽制のため
その企業はM&A等によって企業を吸収合併している親会社でした。まさに奥さんが旦那さんの「お財布の紐を握る」という目的と合致しております。

またグルーバルキャッシュキャッシュマネジメントという言葉も耳にしますが、こちらは海外子会社に対しても同様に親会社へ資金集約することを指します。海外子会社については為替レートや銀行支店等の都合につき、国内でのCMSと比較し難易度が格段に上がることは想像できるかと思います。

企業の財務担当者はコスト削減や余剰資金をどう運用・活用するのか日々向き合い、大きな会社ほど難易度・効果が高いCMSという仕組みをご検討しているかもしれません。本記事がそんな方の一助になれれば幸いです。

担当:長江 侑(ISID/コンサルタント)

中田雑感

記述情報の開示の好事例集

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

平成31年3月19日に金融庁のサイトで、
「『記述情報の開示に関する原則』及び『記述情報の開示の好事例集』の公表について」が、公表されています。
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20190319.html

2016年4月に答申された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」における提言を踏まえ、ルールへの「形式的な対応にとどまらない開示」の充実に向けた企業の取組みを促し、「開示の充実を図る」ことを目的としているとしています。

「記述情報の開示の好事例集」には、「記述情報の開示に関する原則」に対応する形で、各開示例の良いポイントが示されています。
また、「記述情報の開示の好事例集」には、有価証券報告書における開示例に加え、任意の開示書類における開示例のうち、有価証券報告書における開示の参考となりうるものも含められています。例えば、CSR、アニュアルレポート及び統合報告書などです。

有価証券報告書での良い開示の事例として取り上げられている企業は、以下のような企業です。

1.「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の開示例(5社抜粋)
三井物産
ANAホールディングス
キリンホールディングス
味の素
日本航空

2.「事業等のリスク」の開示例(11社抜粋)
三菱商事
三井化学
ソニー
住友化学
日本郵船
三井物産
ANAホールディングス
日本航空
楽天
キリンホールディングス
日本たばこ産業

3.「MD&Aに共通する事項」の開示例(6社抜粋)
花王
ファーストリテイリング
丸井グループ
リクルートホールディングス
トヨタ自動車
住友金属鉱山

上記の内、1.の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の開示例として挙げられているキリンホールディングスの開示例を以下に抜粋します。

<以下開示例>
国内ビール類市場全体が縮小する中でキリンビール(株)のビール類販売数量が減少するなど、2016年中計の重点課題のうち“ビール事業の収益基盤強化”に課題が残りました。2016年中計の最終年度となる2018年度は、“構造改革によるキリングループの再生”の実現に向けて、キリンビール(株)の収益基盤強化を最優先課題として取り組み、成熟が進む国内酒類市場の活性化を図ります。
<開示例以上>

このキリンホールディングスの開示例の「良いポイン」トとして、金融庁は以下を記載しています。
「 ● 市場の状況等の経営環境に関連付けて対処すべき課題を記載
● 対処すべき課題を解決するための経営方針・経営戦略等を記載」

このコメントを具体的に表現すると以下のようになるかと思います。
中田の勝手な解釈ですが・・・。
「国内ビール類市場全体が縮小する中でキリンビール(株)のビール類販売数量が減少する」といった「市場の状況等の経営環境」に関連付けて、「ビール事業の収益基盤強化」という「対処すべき課題を記載」していて良い。
さらに、「ビール事業の収益基盤強化」という「対処すべき課題を解決するため」に、「“構造改革によるキリングループの再生”の実現に向けて、キリンビール(株)の収益基盤強化を最優先課題として取り組み、成熟が進む国内酒類市場の活性化を図る」という「経営方針・経営戦略等」を記載していて良い。

各開示例に金融庁が付しているコメントはこのキリンホールディングスの開示例に付されているように、「形式的かつ画一的」で具体性がなく、「充実していない」ように感じたのは残念ですが、この好事例集はとても参考になるように思います。

特に、2017年3月期以降、有価証券報告書での記載内容について、どんどん「形式的開示」から「経営実態を表現する開示」への変革が進められています。

特にこの好開示例で取り上げられている、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」及び「MD&Aに共通する事項」の3つの項目については、今2020年3月期からの開示省令で、さらに「経営実態を表現する開示」を求める改正が行われています。

おそらく今後の有価証券報告書の審査対象として、ますます重点項目になると考えられます。

従来のようにFASFや印刷会社のひな形や他社事例を写すだけですむレベルではないようですので、早めに検討を始めた方が良いと思います。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

メルマガ事務局より

このコーナーでは読者のみなさまからのご質問を受け付けています。以下のメールアドレスまでお気軽にお寄せください。いただいたご質問にはすべてお答えする予定ですが、お答えするのにお時間がかかる場合がありますので、予めご了解ください。


g-ifrs@group.isid.co.jp 『ISID 経理財務メールマガジン』 事務局

メールマガジンお申し込み

ISIDではSTRAVISやIFRS、連結会計に関する情報をメールマガジンでお送りしています。
STRAVISをご購入いただいていないお客様も購読可能ですので、お気軽にお申込みください。

メールマガジンお申し込み