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収益認識基準のミニ解説

コンサルタントの眼

RPAと原価管理

Robotic Process Automation - 「RPA」について、ニュースやコラムなど多くの場で取り上げられていますが、今回はERP導入、特に原価管理に関連したトピックとして取り上げてみたいと思います。

現在RPA導入の対象とされているのは、主に経費精算や販売業務などのオフィス業務であり、製品原価管理システムのコンサルタントとして直接関わることはそれほど多くはありません。
とは言え、今後RPAが原価管理システム導入においてどのように関連し、活用できるのかを以下のようなポイントで考えてみることにしました。

1.原価管理業務のRPA化
2.RPA化による経費削減効果の原価への反映
3.原価管理機能へのRPAの活用

1.原価管理業務のRPA化
RPAは、「定型業務をミスなく的確に遂行する」という特徴を生かし人事・経理・総務・情報システムなどのバックオフィスの事務・管理業務、また販売管理や経費処理などに使われています。
原価管理(原価計算)業務においてはどうでしょうか。原価計算を実行するには、大量のトランザクションデータを取り込み必要に応じてマスタを更新する必要があります。上記の特徴を生かし、マスタ投入や入出庫データ集計・投入など、実行前に定期的に発生する作業について適用範囲に含めることができるでしょう。実際、大量のトランザクションデータを集計・処理するためにマニュアル作業を要する例はよく目にします。
また、大量のデータ処理に加え、既存業務の標準化への貢献も可能かもしれません。原価計算、原価管理については一部の担当者によって業務が属人化されている場合が多々見られます。つまり、「担当者がいないと業務が進められない」というパターンです。そこで、RPA化を進める目的で、対象となる「定型業務」を特定するために「非定型業務」と「定型業務」を仕分けします。その過程のなかで、業務の標準化の手順も含めてしまうというものです。これによって業務の整理と標準化が進められれば、結果として月次処理の早期化を実現するなどの効果をもたらすことができるのではないでしょうか。

2.RPA化による経費削減効果の反映
RPA化のメリットは人的ミスの回避や人材不足の解消などいくつか挙げられますが、その中でも大きなものとして「人件費の削減」があります。複数人による単純作業をRPA化することで25%~50%のコスト削減が可能であるという説もあります。
では、製品原価計算の結果、その効果は原価計算結果のどこに現れるのか。
現在RPAが導入されているのは主にバック・フロント問わずオフィス業務であり(製造の現場ではない)、あえて製品へ原価として賦課するとすれば、部門発生の「間接費」として部門間配賦ののち、ある基準に基づいて製品へ配賦されるということになるでしょう。RPA化による経費の削減の結果、この配賦された間接費のうち「間接労務費」だったものが「間接XX費」として現れていることになります。ただしこの「間接XX費」についてはRPAの導入効果を測り確認する目的であれば、部門原価として分析対象とするほうが適切であり、製品(製造)原価分析のなかでは特に重要視する視点ではないかもしれません。

3.原価管理機能へのRPAの取り込み
RPAには3段階あり、RPAのほかに「EPA」および「CA」というさらなる2つのレベルがあります。RPAは、定型化した単純作業を自動化することを実現しますが、「EPA」や「CA」では、よりAIのような学習能力と自律的な判断力を備え、データの分析や決定が可能となります。
現時点では、まだ「EPA」および「CA」は実用化、一般化されていないと言われていますが、近いうちにAIの進化とともに広く普及していくでしょう。
実際、AIを利用した様々なツールの開発はニュース等で目にすることが多くなってきました。
原価管理分野においては、AIを使ったRPAの活用を考えるときに有効な機能のひとつが、各種の「シミュレーション」ではないかと思います。過去の実績データに基づく原価の算出はもちろん必要であり、それは現在の各種のシステムが実現させています。さらに、それらの原価データや販売実績、また市場の過去実績や予測データから、AIの判断と意思決定力を活用し、高速で実態に即した原価シミュレーション機能を実現することができれば、原価低減活動のみならず、経営に関する意思決定につながる情報を容易に得ることが可能になるのではないでしょうか。膨大な情報と、各方面の研究に基づいた計算方法を利用して提示されるAIのシミュレーションは、製造業企業にとっても大きな経営判断材料と成り得るでしょう。

担当:葛野 亮子(ISID/コンサルタント)

中田雑感

収益認識基準のミニ解説

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

収益認識基準への関心が次第に高まってきました。
私が講義している研修会へのお申し込みが日を追うにつれて増えてきています。そして、参加者のほとんどが、監査法人などの他のセミナーや研修会に、すでに参加されている方々です。すでに国際会計基準(IFRS)を適用している大手企業の経理部門の方も少なくありません。

研修会に参加された方々に伺うと、最も関心が高いのが、ステップ5の「履行義務の充足による収益の認識」です。従来の売上計上タイミングとは、大きくずれ込むタイミングで売上計上するよう、会計監査人から指導や指摘を受けているようです。
しかし、お話をよく聞くと、会計監査人の指導内容は、会計基準の内容に反しているケースが少なくありません。そして、会計監査人と企業側とで意見がなかなか合わないケースの共通点は、「販売活動と会計基準とを照らし合わせながら議論をする」ということが、ほとんど行われていないということです。

会計基準との照らし合わせをしないで会計監査人と議論をすることは非常に危険です。会計監査人の主張の根拠を抑えることができないので、会計監査人の言いなりになるしかなくなるからです。会計監査人の主張を覆すのは、会計基準の条文を根拠にするしかないのです。「他社でどうしているか」などは、まったく意味がありません。全ては会計基準の条文に準拠しているかどうかです。

会計監査人と、ステップ5の「履行義務の充足による収益の認識」で意見が合わなくなるケースでは、まず、ステップ2の「履行義務の識別」ですでに理解がずれていることが多いと思います。

ここでカギを握る会計基準の条文は、ステップ2に関する条文第34 項(1)
です。とても重要な条文なので抜粋します。
【会計基準第34 項(1)】
当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、当該財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができること

そして、この条文との関連で、非常に重要な意味を持つのが、同じくステップ2に関する適用指針の第5項です。こちらもとても重要な条文なので抜粋します。

【適用指針第5項】
顧客が次の(1)又は(2)のいずれかを行うことができる場合には、会計基準第34 項(1)に定める財又はサービスが別個のものとなる可能性があることに該当する。
(1) 財又はサービスの使用、消費、
あるいは廃棄における回収額より高い金額による売却
(2) 経済的便益を生じさせる
(1)以外の方法による財又はサービスの保有

適用指針第5項は、会計基準第34項(1)の「顧客が便益を享受することができる」という部分の解釈指針と言えます。

したがって、解説すると以下のようになります。

皆さんの会社が得意先に製品やサービスを提供する場合に、
(1) 得意先が、固定資産のように「使用」することができるか
(2) 得意先が、原材料のように「消費」することができるか
(3) 得意先が、商品仕入のように「高く売却」できるか
(4) 得意先が、貴金属のように「保有するだけで価値が上がる」か
上記いずれかの状況になる場合、その製品やサービスの提供は、別個の義務になるのです。

そしてこの、会計基準第34項(1)と適用指針第5項のステップ2ゴールデンコンビは、ステップ5の「履行義務の充足による収益の認識」にも重要なかかわりを持っているのです。

ステップ5の「履行義務の充足による収益の認識」の条文は、第35項と第37項です。これらもとても重要な条文なので抜粋します。

【会計基準第35項】
企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてである。
【会計基準第37項】
資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力をいう。

出ました!!
「便益の享受」です!!

結局、売上を計上するタイミングは、顧客が「便益を享受」できる状態になったときだということです。「便益の享受」は、適用指針第5項ですね。

得意先が、皆さんの会社から製品やサービスの提供を受けて、その製品やサービスを、「使える」か、「消費できる」か、「高く売れる」か、「価値が上がる」状況になったのならば、それは、得意先が「便益を享受できる」状況になったのであり、皆さんの会社は、「履行義務を充足」させたわけであり、得意先は、その製品やサービスの「支配を獲得」したので、製品やサービスは「移転」したということになるのです。

つまり、売上を計上するタイミングを検討する上で決定的に重要なのは、「適用指針第5項」への理解であるといえるでしょう。

このように、「皆さんの会社の取引の実態」と「会計基準の条文の内容」を照らし合わせながら、「会計監査人の主張」が適切かどうかを判断することが、最も重要であると言えるでしょう。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

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