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毎月勤労統計の不正問題と日本企業の「稼ぐ力」

コンサルタントの眼

再注目されるかもしれない役員退職慰労引当金

役員報酬の開示について話題になることが多かったため、今回は役員退職慰労引当金を取り上げます。
最近では、役員退職慰労引当金制度を廃止する企業が増えてきました。その理由としては、業績との関連性が薄いことや、役員の報酬は在任期間中の報酬で評価する方法が定着したことで、株主から同意を得づらい費用となってきたからと考えられます。制度が全体的に廃止方向ということもあり、会計監査の現場では注目度の低い勘定科目だったと思われますが、これからは、引当金の計上可否や支払実績との乖離を厳しくチェックされるようになるかもしれません。
そもそも、退任後の役員報酬を引き当てる会計処理の根拠はどこにあるのでしょうか。役員退職慰労引当金の会計処理詳細を定めている基準はなく、企業会計原則にまで立ち返って根拠を求める必要があります。

●企業会計原則注解18
「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。」
いわゆる、引当金の計上要件ですね。役員退職慰労引当金の実務では、企業の内規があり、その内規に基づいて引当金を計上する方法が最も一般的と考えられます。しかし、内規が整備されていない状況でも、役員に退職慰労金を支払っていた実績があるケースなど、引当金の計上要件を満たす可能性もあります。この機会に、子会社の退職後の役員に払った金銭等を再確認することが必要かもしれません。
さらに、役員退職慰労引当金と開示の観点から切り離して考えることができないものが、関連当事者注記です。関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針5項には「役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払いは、開示対象外となる。」と記載されているように、財務諸表に計上されていれば、追加的な注記は(現在のところ)必要ないと考えられます。ただ、役員への経済的利益で、その根拠及び支払い時期が不明確なものについては以下のような記載があります。

●関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針24項
「役員報酬は、会社法第361条等にいう報酬等を指す。会社法上、以下について定款に定めがない場合、株主総会の決議により定めるとされている。

(1) 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
(2) 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
(3) 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

したがって、金銭以外の経済的利益の供与であっても、上記に含まれるものは、関連当事者の開示ではなく、別途、役員報酬として開示されるものと考えられる。他方、上記に含まれないものは、役員報酬として開示されないため、関連当事者の開示の対象に含まれることになると考えられる。」
つまり、役員へはさまざまな形で便宜を図るケースがあり、それが役員への経済的な利益の供与と捉えられる場合も少なくなく、網羅的に把握しておかなければ注記漏れとなる可能性があります。また、子会社へのガバナンスの観点からも幅広く情報が収集できるように、親会社は各子会社から収集フォームをあらかじめ整備しておく必要があるでしょう。

STRAVISでは、パッケージに実装されていないファイルでも、添付ファイルとして収集することが可能です。この機能を利用して、子会社側で独自に作成している書面をPDFファイルとして収集したり、内規をワードファイルとして収集したりと、機動的に情報収集できます。もちろん、パッケージの見直しを行い、全会社一律のシートとして収集することも可能です。子会社からの情報収集を充実させたいときは、是非、弊社にご相談ください。

担当:大形 浩祐 (ISID/コンサルタント)

中田雑感

毎月勤労統計の不正問題と日本企業の「稼ぐ力」

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

最近、厚生労働省の毎月勤労統計に不正があった問題が、連日取り上げられています。当然私は「真実」を知る由もありませんが、皆さんはどのように感じておられるでしょうか。

私はこの問題で、他国と比べて日本では「統計」が軽んじられているのではないかという心証を一層深めています。そしてその延長線上に、企業を経営する上で、「統計」が有効に利用されることが非常に少ないということがあるように思います。

日本で「統計」が軽んじられるのは、主に教育に問題があると考えています。高校までの算数や数学を学ぶ現場では、算数や数学が「統計」を理解する上で非常に重要であることを、きちんと教えていません。また、「統計」が社会生活やビジネスをする上で有効であり、あるいは必須と言えるほど重要であることも、触れられることは少ないようです。さらに大学での「統計」の授業では、「統計」を専門とする教授が「統計」の種類やその考え方、算出方法などは教えますが、社会生活やビジネスをする上では、どのくらい専門的な知識や理解が必要なのか、また、どのように利用すれば、社会生活やビジネスに生かせるのかは教えません。つまり、「統計」の「技術的な知識」だけが教えられ、その「活かし方」を教えないのです。

「統計」と言っても、「合計」、「平均値」、「偏差値」など、今回問題となっている毎月勤労統計のような「過去の統計」もあります。しかしこのような「過去の統計」だけではなく、「確率」や「正規分布」などの「将来の統計」もあります。

「統計」と聞いて、このような分類・整理もできない日本人は非常に多いと思います。これも仕方がありません。「統計」が「生きていく上での必修科目」としては教育されていないのですから。

特に、今や日本企業を取り巻く経営環境は、アメリカ大統領の言動、朝鮮半島情勢、中国の動き、イギリスのEU離脱(Brexit)、世界の人口増加と日本の少子高齢化など、「不透明性」や「不確実性」を高める要因は、あげてもあげても足りないくらいです。「不透明性」や「不確実性」が高いということは、濃い霧の真っただ中にいるようなものです。読者のみなさんは、濃い霧が立ち込めて、周囲が全く見えない状況に立たされたらどうしますか?
(パニックにはなっていないという前提です)

(1) 動くのは怖いから霧が晴れるまで動かないことにする
(2) じっとしていられないので何の工夫もなくとりあえず前に進む
(3) 霧がいつ晴れるかわからないので動くことにするが、なるべくリスクを回避するために、情報を集め、集めた情報からもっとも安全と判断される方向に動く
こんなふうに書かれたら普通は(3)を選択するでしょうね。
しかし著しく経営環境が変化している日本企業の多くは、(1)か(2)だと思います。そんなことはないと感じる方も多いでしょう。

しかし、日本企業の役員会資料には、「過去の統計」は表現されていても「将来の統計」が表現されることは少ないと思います。それは、日本企業の中期経営計画と欧米企業の中期経営計画を比較するとよくわかります。日本企業の中期経営計画は、「売上高は●●」、「利益は●●」という感じで、目標とする項目について「ひとつ」の数値で表現されています。しかし、欧米の企業では、「売上高は●●~××」、「利益は●●~××」という感じで「幅」を持たせた数値で表現されています。

例えば、GEの2014年のアニュアルレポートでは、

(1) 産業分野事業の1株当たり営業利益(EPS):1.10~1.20ドル
(2) GEキャピタルのEPS:~0.60ドル
(3) フリーキャッシュフロー+資産売却:120億~150億ドル
(4) 投資家の皆さまへの現金配当:100億~300億ドルという表現です。
日本企業の関係者には、どうして経営目標を「幅」を持たせた表現をしているのか理解ができないでしょう。「統計に弱い」からです。特に「将来の統計」に弱いからです。
不確実な将来の予測をする際に、「ピタッと一つの数値で予測すること」は不可能です。実は日本企業の中期経営計画は将来の予測というよりも、努力目標ですらなく、「夢」に近いものだといわれますから、比較の対象にすらならないのかもしれません。

「統計」について、「きちんと教えてもらっていないから仕方ない」では済まされません。政府や役所がお粗末な統計をしていても、企業としては、不確実な将来をしっかり予測するために、「将来の統計」を理解して、うまく使っていかないと、外国企業に勝てなくなっていくのは、「必然」と言えるのではないでしょうか。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

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