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コンサルタントの眼

AI時代の会計・経営管理業務はどこまで変わっていくのか?

空前のAIブームといっても過言ではない昨今ですが、現在のAIブームは「第3次AIブーム」と呼ばれています。ちなみに筆者が大学でAIを研究していた2000年頃は、2次ブームと3次ブームの間で「AI冬の時代」と呼ばれているそうです。

■現在のAIとは
AIとは、Artificial Intelligenceの略で日本語では人工知能と呼ばれます。人工知能の研究は様々な分野があり、ドラえもんのような人間と同じような思考をもったロボットを開発する研究なども行われていますが、第3次ブームの現時点では「機械学習(Machine learning)」と呼ばれる分野が特に注目されています。よく聞かれる「深層学習(Deep learning)」も機械学習の発展形です。

■予測精度はデータ次第
機械学習は与えられたデータ(例えば過去の仕訳明細など)を学習して、その傾向や相関関係から予測を行います。つまりAIが正しい予測ができるかどうかは、学習させるデータ次第ということになります。例えば、梅雨の時期に酒税が改正されてビールが駆け込み需要で良く売れたとします。機械学習に使用したデータが天気とビールの売上の情報だとすると、AIは「雨の日はビールが売れやすい」という誤った予測をしてしまうかもしれません。機械学習で使用するデータは規則性があり、誤りや外れ値が少ないものである必要がありますが、その点においては会計システムに蓄えられているデータは1円単位で整備されたデータとも言えますので、機械学習との相性は良いと言えます。

■1つ1つの予測精度は高くないが…
AIの予測は学習したデータに依存しますので、不確実性が大きいビジネス分野の予測では人間が統計学を使って計算するのと大して差異はありません。実際にAIが出した予測をみても「それはそうだよな」といった単純な結果になることが多いようです。では、AIに予測させるメリットとは何なのでしょうか?例えば、予算の作成を考えてみます。来年の全社の水道光熱費の予測であれば、人間でもすぐに計算できますが、これをすべての勘定科目・部署別に行うとなると一苦労でしょう。もし数百万もある品目別にという話になると人間ではとても無理ということになります。経営の意思を反映した目標的な予算の作成となると難しいですが、過去実績に伴う予測的な予算であれば、AIの得意分野といえるでしょう。

■会計・経営管理業務への影響
経理業務分野においても、AI搭載のシステムが実用化されてきています。AIは大きな変化を予測するのは苦手(それを予見するための学習データが用意できないため)とされますが、その弱点を活かしたチェック作業(パターンに当てはまらない外れ値を探す)は得意分野といえます。すでに一部の監査法人でシステム化されており、監査業務での効率化が期待されていますが、昨今問題となっている企業の不祥事問題にも一役買って欲しいところです。経理業務ではチェックだけではなく、入力支援や自動入力といった部分が充実してくるでしょう。経費精算や売掛金の消し込み業務などパターン化しやすい業務からAIに置き換わっていくことが本格化しそうです。

■これからのAI
経営の意思決定支援としてのAIは傾向分析やアラートなどがほとんどで、まだまだこれからといった状況ですが、「自然言語処理」の技術発達により、BIシステムなどの経営管理システムは飛躍的に進歩すると考えています。従来のように自分でデータを検索・加工して分析を行うのではなく、自然言語で質問をすればAIが会話の内容を理解して分析結果を表示するといったことが可能になります。某BIシステムベンダーがベータ版(現在は英語のみ)をリリースしたことにより、今後の開発の進展が期待されます。

担当:清家 謙司(ISID/コンサルタント)

中田雑感

死地

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

今年も残すところあとわずかになりました。皆さんの今年は良い年でしたでしょうか。


今年は講演会や研修会などの回数がかなり多かったと感じて、数え直してみると、70回を超える回数でした。これは私としては、過去最高の回数になると思います。今までで一番最も多かったのは、国際会計基準(IFRS)が日本で強制適用になるというロードマップが出た頃で、年間50回くらいの講演回数でした。しかし、2011年の自見金融担当大臣発言によりIFRSの強制適用は先送りとなり、これによって私の講演回数は年間数本と激減し、収入も激減しました。激減というよりもほとんどなくなりました。賃貸マンションも半分以下の40平米に引っ越しました。車も売りました。クレジットカードも最低限のものだけを残して解約しました。徹底的な資産圧縮と固定費の削減です。そんな中、なんとか収入を増やそうとして、誰にも負けまいと研究して理解したIFRSの書籍を出版しようとしましたが、世間からそっぽを向かれたIFRSの状況では、出版会社では書籍化の企画が承認されませんでした。売れない本は出してくれないのです。IFRS対応プロジェクトも全くなくなり、暇な日々が続きました。そんな大ピンチの時にふと思ったのが、これは孫氏の兵法でいう「死地」ではないかということです。孫氏の兵法では「死地」に陥ったら、死に物狂いで戦って、その場から脱出することが最善の策であり、それ以外の策はないとされています。そこで私は、なぜ「死地」に陥ったのか、まず反省をしました。政治的な関わりもあるので、私だけの責任ではありませんが、まず私の収入源(講演ネタ)がIFRSに偏っていたということです。そして最も得意であるがゆえに、IFRSに固執して、それ以外からの収入を得る努力をしていなかったということです。したがって死に物狂いでこの「死地」から脱するために、暇になった時間をフルに使って、私は研究対象を広げることにしました。 電子帳簿保存法の改正、BEPS、Evidenceの電子化、RPA(ロボティクス)、海外子会社の会計不正、固定資産税の過誤納問題、会計基準(収益認識)、経営に活かせない予実管理から脱するための管理会計、などなどです。そして、活動範囲を広げるために、財務経理関係者の他に、経営者や起業活動関連の方々との交流を深め、人脈ができるようにしました。すぐには収入は上向きませんでしたが、徐々にセミナー講演依頼が増えてきました。依頼される講演内容はバラバラでしたが、研修対象を広げ、人脈を広げた効果が出てきました。今年講演回数が70回を超えるという状況まで来てやっと一息ついた感じです。皆さんも、あるいは皆さんの会社も「死地」に陥らないようにする最大のポイントは、「最も得意なものに固執しない」ということです。つまり「最も得意なものを捨てる勇気と実行力を持つ」ということです。これはとても難しいものだということを私は身をもって経験したように思います。

「孫子曰く、地形とは兵の助けなり。故に用兵の法には、(中略) 死地有り。疾く戦えば則ち存し、疾く戦わざれば則ち亡ぶ者を、死地と為す。(中略)死地には則ち戦う。」

「地形(自国と敵国との位置関係)は用兵判断において参考とすべきものである。地形には(中略)死地がある。一気に素早く攻めれば生き延びることができるが、迅速に動けなければ全滅する場合が「死地」である。したがって、死地では死中に活を求めるべくひたすら突撃あるのみである。」

どんなに優秀でも、変化に対応できなければ滅びます。これはダーウィンの進化論にも通じる話です。ただ、変化に対応するためには、「変化が起きている」ということを察知する力を持つことが前提になるでしょう。

理解していても実行することは難しいことです。
新しい年と未来に、皆さんがうまく対応して、持続的に成長されることを祈っています。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

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