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コンサルタントの眼

『IFRS対応最前線 ~IFRS16号「リース」への対応実務~』

この連載では、連結システムベンダーとしての立場から、IFRS新基準への各社の対応実務をレポートしています。IFRSは原則主義であり、日本基準のような細かい金額規程等が少ないこともあり、新基準への対応方法次第で本社経理部や関係会社の方々の作業量に大きな差が生まれます。 他社の対応方針等を自社適用の際の一助にしていただければと思います。尚、現状ではIFRSにのみ適用されるリースの新基準ですが、遠くない未来に日本基準にも適用される可能性が高いと考えられますので(昨今の日本基準の改正がIFRSとの差異を解消する方向でなされていることは明らか)、日本基準の会社の方にも一読いただければと思います。

■IFRS16号「リース」の概要
IFRS16号「リース」は、2019年1月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

1.会計処理
貸手の会計処理に大きな変更がない一方で、借手の会計処理において従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別がなくなり、原則全てのリース取引について「使用権資産」としてオンバランスが必要となる点(オンバランス後は減価償却を通じて規則的に費用化)が大きな変更点となります。よって、従来オフバランスであった、A.オペレーティング・リース B.1契約300万円基準があった少額リースについて、どこまで新たにオンバランスするかが実務上の大きなポイントとなります(IFRSでの免除規程は、短期リース(リース期間が12ヶ月以内)と少額リース(新品5,000ドルという例示あり)のみです)。
※上記のとおり、IFRSでは貸手と借手の会計処理が非対称となっています。
※以後、借手についてのみ記載します。

2.表示
・BSでは、「使用権資産」と「リース負債」は他の資産、負債と区分して表示するか、注記において個別に開示します。
・PLでは、「使用権資産」の減価償却費と「リース負債」から生じる利息費用(金融費用)を区分して表示します。
・CFでは、「リース負債」の返済は財務活動に表示し、利息費用は企業が選択した会計方針に基づいて、「営業活動」又は「財務活動」に表示します。

3.開示
・リースがBS、PL、CFに与える影響を理解するための定量的、定性的情報を開示します。
・定性的情報では必須事項はなく各社の判断で開示、定量的情報はリース資産のクラス別内訳や免除規程を適用したリース資産に係るリース料、リース負債の満期分析などを開示します。

■IFRS16号「リース」の対応実務
IFRS16号「リース」の対応方針によって差はあるものの、どのIFRS適用会社も、かなりの労力を要して実務対応している印象を受けています。上記「1.会計処理」については、IFRSで新たにオンバランスする資産の範囲について以下の対応例が見られます。

(1)国内不動産に限定して、新たにオンバランスする。更に割引計算も行わない。
(2)不動産に限定してオンバランスするが、割引計算は実施する。
(3)不動産、動産ともに新たに免除規程の金額基準を設けた上でオンバランスする
 ※(1)と(2)は従来の日本基準の少額リースの免除規程(1契約300万円未満)を継続することがベースにあります。

(1)→(2)→(3)の順番で対応の労力は増加します。(1)はオペレーティング・リースのうち金額的に重要な取引は不動産取引と限定した上で、現行の国内の低金利であれば割引計算は不要という整理をしています。この会計処理であれば、リース料総額で「使用権資産」と「リース負債」をオンバランスすればよく、日本基準からIFRSへの組替を前提とすると、毎期、「支払リース料」を「減価償却費」へ振り替えた上で、「リース負債」の返済を認識して行けばよいため対応が容易です。更に、金融費用の「利息費用」が認識されないため、日本基準とIFRSで営業利益の差異が生じない点も、IFRS予算編成等を考慮した時に優れていると考えられます。(2)は(1)と異なり割引計算を実施します。割引率の算定方法の確立と毎期の割引計算の実行をどの資産単位で行うか等の整理方法によっては更なる労力がかかる可能性があります。(3)はオンバランスする対象資産が大幅に増加しますので(1)、(2)と比較しても大変な労力がかかります。

上記「2.表示」と「3.開示」については、連結システムの対応という観点で考察してみます(日本基準→IFRSへ連結システムで組替仕訳を入力している前提)。論点は、a.組替仕訳の計上方法とb.PKGでのリース情報の収集という2点に集約されます。ここではb.について、対応事例をご紹介します。基準によって求められる注記は多岐に渡りますが、主要な情報として多くの会社が収集しようとしている情報としては、リース資産と減価償却費のクラス別内訳(土地、建物等の資産別内訳)、リース資産の追加情報(利用制限、変動リース料)、免除規程を適用してオフバランスしている少額リース、短期リースのリース料などが挙げられます。

リース対応など、IFRSや日本基準の連結システムへの対応について疑問点がある場合は、一度弊社のコンサルタントにご相談いただければと思います。

担当:鈴木 友二(ISID/コンサルタント)

中田雑感

IFRSの動向

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

平成30年6月15日に公表された「未来投資戦略2018」の131ページに以下の記載があります。

「関係機関等と連携し、国際会計基準(IFRS)への移行を容易にするための更なる取組を進めることによりIFRS の任意適用企業の拡大を促進する。」

目的は、「IFRS の任意適用企業の拡大を促進すること」のように読み取れます。これは2013年に金融庁企業会計審議会から公表された、いわゆる「当面の方針」に沿ったものですから、何ら違和感はありません。

しかし、前段の「国際会計基準(IFRS)への移行を容易にするため」という表現については、ちょっと注意が必要かな、と感じました。

「国際会計基準(IFRS)への移行」というのは、普通に考えると、IFRSの強制適用をさすように思います。

それでは、IFRSの強制適用を容易にする取組というのは、どのようなものでしょうか。

そこで思いつくのは、今年2018年3月30日に企業会計基準委員会(ASBJ)から公表された、売上高の会計処理を定めた、新しい会計基準である企業会計基準第29 号「収益認識に関する会計基準」(新収益認識基準)です。

新収益認識基準は、その第98項に明記されている通り「IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れる」ことで作成されました。つまり、IFRSの収益認識基準を「丸呑み」して作られたのです。「丸呑み」の効果は何でしょうか?

それは部分的ですが、「売上高」の会計処理に限定すれば、日本基準とIFRSに相違がなくなるということです。これから日本基準の企業がIFRSに「移行」する際のハードルはなくなるので、「移行が容易になる」のです。この収益認識でのハードルは、他の会計基準と比較してとても高いハードルの一つだと受け止めてきた方々は少なくないでしょう。それは企業にとって最も重要な勘定科目とも言える「売上高」に関わる会計基準ですから当然のことです。

では次に、「国際会計基準(IFRS)への移行を容易にするための『更なる取組』」というのは、どのようなものでしょうか。

そこで今私が注目しているのは、「リース」の会計基準です。
日本では、2007年に今のリース会計基準が策定されました。これにより、ファイナンスリースは資産計上が必要になりました。そもそも国際会計基準であるIAS第17号「リース」にコンバージェンスすることが目的の一つとして策定されたのです。
しかし、2016年1月にIAS第17号「リース」は「廃止」され、IFRS第16号「リース」が公表されました。
IFRS第16号「リース」の重要なポイントは、
・オペレーティング・リース概念の廃止
・金額基準(300万円ルール)の厳格化
・すべての不動産賃借物件のオンバランス化
などです。
実務上大変な影響を及ぼす可能性があります。
したがって、今後日本基準の企業が、IFRSに「移行」する際には、かなりハードルの高い項目になったと言えるでしょう。

ただ、この日本のリース会計基準については、2007年以来、10年余り経った今、再改訂をするかどうかの審議が始まっているのです。
「週刊経営財務3363号(2018年6月18日発行)」の記事では、2018年6月8日のASBJ「リース専門委員会」で「国際的な会計基準との整合性を図る必要性を検討し、会計基準開発に向けた検討に着手するか否かの検討を進める」とあります。
そして、収益認識基準と同様のアプローチ、すなわち「丸呑み」アプローチを採用するかどうかも論点としてあげられています。
そうなると、収益認識基準に続いてリース会計基準も、日本基準とIFRSに相違がなくなります。このことがまた、これから日本基準の企業がIFRSに「移行」する際のハードルをなくすことになり、「移行が『さらに』容易になる」のです。

このリース会計基準の「丸呑みアプローチ」こそ、「国際会計基準(IFRS)への移行を容易にするための『更なる取組』」なのではないかと考えています。

そしてその先になにが待っているのか。考えていくことに意義がありそうです。

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

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