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決算日の4~6ヶ月後での株主総会開催の動き

コンサルタントの眼

「SAP S/4HANA」導入におけるUX(利用者体験)向上のポイント

<背景> iphoneのヒット代表されるように、昨今話題のUX(利用者体験)を考えることが、これからのイノベーションには欠かせないという話をよく聞きます。業務用ソフトウェアの業界では、昔から採算性や技術制約に重点を置き、利用者にとっての価値を軽視してきた、あるいは経済的、技術的にそうせざるを得なかったということがあり、必ずしも利用者にとって使いやすいものではありませんでした。システム導入プロジェクトが失敗した原因のうち、20%は利用者のシステム使用方法に起因していたという調査もあります。

UXという言葉を聞いた時、多くの方はアプリケーション、または画面やその使いやすさをイメージされるのではないでしょうか?そして良いUXは、そのITの利用者に対して良い体験を提供することに限定して考えるのではないでしょうか?しかし、UXという概念それ自体は、ITだけではなく、物やサービスを顧客に提供する際にも言えることです。つまり、UXをITだけのものとして考えるのではなく、ITの利用とITを利用することで顧客に提供されるモノやサービスも含めて考えることが、これからのイノベーションの1つの要素になってくると考えられます。別の言い方をすれば、利用者に寄り添ったITを実現することはUXの一部であり、本来はITで実現するビジネスに関連する全てを、顧客の体験を中心に考えることが、イノベーションを起こす上で必要な考え方ではないでしょうか。

<「SAP S/4HANA」導入におけるUX向上のポイント>今回は、ERPのデファクトスタンダードである「SAP S/4HANA」導入によるUX向上のための1つのツールとして「SAP Fiori」を紹介いたします。SAP Fioriの特長は、以下の3点です。

1. 直観的なインターフェース
利用者の役割と業務フローに応じて機能を細かく切り分けることで、シンプル化が図られています。そのように機能を切り分けることで、入力項目数やボタン数は最小化され、システムに初めて触れた方でも、何を行えば何が起きるのかが一目で分かるようになっています。また、データのビジュアル化が図られています。例えば、ある特定の製品の在庫・入庫・出庫予定を把握するための画面では、数値のみにではなく、グラフ表示することで状況を直感的に把握できるようになっています。この画面では在庫の状態が把握できるだけでなく、在庫の不足を察知し、それに必要となるアクションをシステムが提案してくれる機能もあり、アクション実行による結果をシミュレーションとして表示することもできます。

2. 業務分析と業務処理の融合
従来は、業務分析ツール(OLAP)と業務処理アプリケーション(OLTP)は異なるシステム上に存在し、それぞれでUIも異なっていました。しかしSAP Fioriでは、業務処理を実行するためのアプリケーションに加え、業務に関するさまざまなKPIを分析、監視するアプリケーションも用意されています。これにより、変化する業務KPIをリアルタイムで確認し、異常値が見つかった場合にはシステムをまたぐことなく、それに対処するための業務処理を行うことが可能となっています。従来型の分析用アプリでは、条件を指定して実行し、結果を得るタイプが多いですが、指定する条件よっては意味ある答えは得られません。何度か条件を変えて実行を繰り返すことになります。SAP Fioriのアプリの1つの例として、債権管理のレポートである未消込明細の入金期日分析や、入金期日超過明細残高による得意先未消込明細分析などに相当するアプリがあります。このアプリは起動するとまずグラフが表示されます。そこから直感的に気になったところを掘り下げていきます。例えば、得意先別や会社コード別に絞り込んだり、特定の得意先に対する債権明細管理から伝票情報へドリルダウンしたりと、自由度の高い調査・分析が行えます。さらには、必要があれば入金消込処理画面へジャンプし、そのまま業務オペレーションを実施できます。まさに「業務分析と業務処理の融合」を体現したアプリの1つです。

3. モバイルデバイスからのシステム利用
モバイルデバイスの進化、普及の拡大は目を見張るものがあります。これはモ バイルデバイスのUXの優位性を証明していると言えます。モバイルデバイスの普及が加速する一方、PCとマウスという組み合わせが相対的に減ってきています。それに伴い、エンタープライズアプリもコンシューマーアプリに近づきつつあります。従来のエンタープライズアプリは、慣れた方には使いやすいのかもしれませんが、初見の方にはとっつきにくく、一定のスキルを要し、誰もがすぐに使えるものではありませんでした。一方、コンシューマーアプリに近いということは、シンプルで直感的なアプリケーションであり、誰でもすぐに使えることを意味します。SAP Fioriは、まさにこの直感的でシンプルな標準UIとして開発されたものです。SAP Fioriはレスポンシブデザインと呼ばれる技術を採用し、同一のコードでPC、タブレット、モバイルといったあらゆる画面サイズに自動的に対応し動作します。それにより、モバイル利用による業務効率の向上はもちろん、開発時の生産性も大幅に向上します。また、デバイスは異なってもコードは同一であるため、すべてのデバイスで共通のUIを通じてアプリケーションを利用することができるので、迷うことなくすぐに利用することが可能になります。

このように、SAP Fioriは「直観的なインターフェース」、「業務分析と業務処理の融合」、「モバイルデバイスからのシステム利用」を通じて、必要なものが、いつでも、どこでも、共通のUIで提供される、非常にシンプルなシステム利用の形を提供しています。SAP Fioriがもたらす「利用者が業務を遂行しやすい仕組み」により、今までの制約で行っていた付加価値の少ない業務を軽減し、付加価値の高い業務にシフトすることで、結果として顧客が経験する質の向上を促すこと、つまり、本来のUX向上を実現することが可能になると考えています。

<ISIDのSAPビジネスへの取り組み>
新たな次世代デジタル基盤であるS/4HANAの登場により、企業の基幹システムも大きな変革を迎えました。SAP S/4HANAの持つ最大限のパフォーマンスを、お客様のビジネスイノベーションに活かせるよう、弊社でも支援をさせていただきます。

担当:赤尾 光一(ISID/コンサルタント)

中田雑感

決算日の4~6ヶ月後での株主総会開催の動き

公認会計士 中田清穂

こんにちは、公認会計士の中田です。このコーナーでは毎回、経理・財務にかかわる最近のニュースや記事などから特に気になる話題をピックアップしていきます。よくある、無味乾燥なトピックの紹介ではなく、私見も交えて取り上げていきますので、どうぞご期待ください。

決算日が3月末であろうと12月末であろうと、全上場企業のほとんどが、決算日の3ヶ月後に株主総会を開催しています。例えば、3月決算企業の場合は、ほとんどが6月下旬に株主総会を開催しています。

この「3か月後開催」について、もっと後ろ倒しにしようという動きがあります。例えば、3月決算企業であれば、7月下旬などに開催させようということです。定時株主総会は、決算日の3ヶ月後に開催することが「当然」のように受け止めている経理マンは多いと思います。

しかし、今やこの「当然」は崩壊しています。少なくとも法制度的には、3ヶ月よりももっと後に、定時株主総会を開催することができるようになっているのです。

1. 会社法
まず、会社法ですが、3月決算企業であれば3月31日が決算日ですが、日本の上場企業では「決算日」=「議決権基準日」が慣例となっていました。この日に名簿に載っている株主が総会に参加し、議決権行使できるのが「議決権基準日」です。会社法では「議決権基準日」(決算日ではない)から「総会開催日」までの期間を3か月以内と規定されています(会社法第124条)。しかし、「議決権基準日」を「決算日」とする規定は、会社法にはありません。したがって、定款を変更して、「議決権基準日」を4月末や5月末にしてしまえば、定時株主総会を7月や8月に開催しても、会社法上は全く問題ありません。

2. 開示制度
例えば3月決算の会社が7月に株主総会を開催する場合、議決権行使基準日は決算日とは異なる日となります。従来、有価証券報告書及び事業報告では、「決算日」(事業年度末)の「大株主の状況」及び「上位10 名の株主の状況」を記載するように規定されていました。したがって、「決算日」と「議決権基準日」が異なる状況になると、「議決権行使のための株主の確定」とは別に、大株主の状況等の「開示書類に記載するための株主の確定」をしなければなりませんでした。この点で、上場企業の事務負担が増加するおそれが指摘されていました。そこで、2018年の企業内容等開示府令(1月26日)及び会社法施行規則(3月26日)の改正で、有価証券報告書及び事業報告における「大株主の状況」等の記載時点が、「決算日」から、原則として「議決権行使基準日」へ変更されました。これらの改正の適用日(施行期日)は公布日からですので、3月末決算の企業はすでに適用することができる状況になっています。

3. 税制
日本は確定決算主義ですので、株主総会で承認された決算書を、税務申告書に添付する必要があります。税務申告書の提出期限は、決算日の翌日から2か月以内というのが「原則」です。ただし、従来から、事前に税務署長に届けるなどして、申告書の期限を「延長」することができていました。従来の「延長期間」は、1ヶ月しかありませんでした。「原則:2か月」+「延長期間:1か月」で、決算日の3か月後に提出することができていました。このままでは、定時株主総会を決算日の3か月後よりも後に開催すると、税務申告書の提出遅れになってしまいますので、平成29 年度税制改正により、「延長期間」を「1か月」から「4か月」とするように改正されました。これにより、最大で、「原則:2か月」+「延長期間:4か月」で、決算日の6か月後に提出することができるようになりました。例えば、3月決算企業の場合であれば、9月末までに定時株主総会を開催して、税務申告書を提出するような対応ができるようになったわけです。ちなみに、昨年、一般社団法人日本CFO協会が実施したサーベイによると、延長期間が4か月に変更されたことを知っている経理マンは、半数程度しかいらっしゃいませんでした。

4. 四半期決算との関係
例えば、3月決算企業が、決算日の4か月後に定時株主総会を開催するとしたら、7月下旬になります。まさに、第1四半期決算の真っ最中!!です。四半期決算作業の真っ最中に、株主総会の想定問答集に関与したいと考えている経理マンは皆無でしょう。ちなみに、欧米の企業の多くは、定時株主総会を第1四半期の後に開催しているのが実態です。日本企業の定時株主総会の開催時期は、世界的な比較で言えば、「異常なほど」早すぎるのです。まさに、「日本の常識、世界の非常識」ですね。

5. 「総会の開催日を後ろ倒しにしましょう」と、誰が言いだすか?
ここまでの話で、株主総会開催日を後ろ倒しにすることについて、「法制度的には」問題ないということは理解していただけたと思います。しかし、この「後ろ倒し」は「義務」ではありません。「任意」です。したがって、おそらくこのままでは、企業にとってほとんどメリットが感じられない「後ろ倒し」を実行しようという動きを見せる企業は、非常に稀な存在になると推測できます。つまり、「誰も後ろ倒しなんてしない」ということです。

ここで、注意すべき「動き」が出てきました。日本公認会計士協会(JICPA)の動きです。この問題としては「伏兵」ともいうべき存在ですね。

この「動き」を具体的に説明します。2つあります。まず1つ目は、2017年8月25日に、「開示・監査制度一元化検討プロジェクトチームによる報告「開示・監査制度の在り方に関する提言-会社法と金融商品取引法における開示・監査制度の一元化に向けての考察-」」という文書が公表されました。

この提言では、有価証券報告書と事業報告・計算書類の「開示」とともに「監査」も一元化する検討の中で、3つのシナリオを提言しています。そして、3つ目のシナリオこそが、最終目標ともいうべき内容となっています。

この「シナリオ3」は、金融商品取引法と会社法の両法令の開示要請を満たす「一組の」開示書類を、決算日の3か月以内に作成し、招集通知に添付すると同時に金融庁に提出し、その1か月後に定時株主総会を開催するという内容の説明が図示されています。これが1つ目の動きです。

そして、2つ目です。年が明けて今年、2018年2月16日には、「会長声明」ということで、JICPA関根愛子会長の名前で、文書が公表されています。文書の相手先は、「会員」つまり上場企業などの会計監査を実施している監査法人や公認会計士です。以下、関係する部分を抜粋します。

「会員各位におかれましては、(中略)一体的開示への対応は会社の任意となりますが、個々の会社における適切・適時な開示の在り方や株主総会日程・基準日の合理的な設定に向けて、平成 30 年3月期以降の開示書類の記載内容の共通化について、会社とご検討いただくようお願いします。」つまり、株主総会日程は、企業の任意だけれどももっと合理的に設定するよう、上場企業を監査している監査法人が、監査クライアントに働きかけるように依頼しているということです。これもいわゆる「ソフト・ロー」を駆使した動きだと感じています。そもそもJICPAがここまで「しつこく深く」関わる問題なのか、という疑問を持つのは私だけでしょうか?

公認会計士 中田清穂氏のホームページ

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