“心地よい働き方”改革コラム:第2回

〜人の“持ち味”を理解した“働かせ方”〜

02 “持ち味”は本当に考慮されているか? 生かされているか?

著者:中村 俊樹氏

2018年6月28日掲載

「適材適所」と言いつつも

企業・組織における職務、役割、ミッションと従業員一人ひとりのマッチング、つまり人材配置の考え方にも様々な側面と考え方があります。わかりやすい2つの考え方を再確認してみましょう。
一つ目は「適材適所」です。「適材適所」は人の能力や特性を見極めて、ふさわしい役割や職務につけること。「生産性」の観点だけでなく、エンプロイー・エクスペリエンスの観点も重視した、より企業・組織と従業員一人ひとりのWin-Winの実現を期待できる考え方と言えます。そして二つ目は「適所適材」です。「適所適材」は役割や職務に必要な能力や特性を把握して、ふさわしい能力や特性を持った人材を割り当てていくこと。どちらかといえば組織全体の成果の最大化の視点に立った考え方と言えます。
この2つの考え方は、企業・組織のすべての職務、役割が要求する能力や特性(=需要)と、すべての従業員の能力や特性(=供給)が、質・量ともに完全に一致していれば結果は同じとなりますが、実際には必ずギャップがあります。そのため「適材適所」の実現と言いつつも、殆どの企業・組織における現実の人材配置は「適所適材」となっているのが現状です。もちろん、このギャップは常に発生し続けるものなので、企業・組織は重要度に応じた配置の優先順を決める、不足している人材を計画的に確保するなど工夫を凝らしていますが、やはりこれは成果の縮小を出来るだけ抑止するという、企業・組織の「生産性」の視点からのものであり、従業員の「生産性」を高める視点に立ったものではありません。またこれまでの日本企業・組織では、「如何にポジションを埋めるかが最優先」、「前任者イメージでの後任者検討」、「安易なジョブローテーション」、「特定人材の囲い込み」等々、可視化された事実に基づく最適化された人材マネジメントとは程遠い慣習が存在していたことも「生産性向上」を阻害する大きな要因であったと言えるでしょう。現実のビジネスの世界では、完全なマッチングの実現は不可能であるというのが前提とはなりますが、その中でも、従業員一人ひとりの、より高い「生産性」と、「心地よさ」を実現するためには、何処に着目すべきでしょうか。

「素養」と「素質」だけでは測れない生産性

近年、この「適材適所」を実現するため、もしくは、より精度の高い「適所適材」を実現するため、多くの企業が「タレントマネジメント」に取り組んできました。人材の評価指標とそのレベルを定義し、これを用いた独自のジョブマッチングに取り組んでいる企業も少なくありません。そしてこれらの企業で用いられる評価指標の中心がスキルとコンピテンシーです。スキルは「素養」、コンピテンシーは「素質」と言い換えて考えると、活用の現状に近いかもしれません。

  • 「素養」:経験や学習によって身につけた技能や知識
  • 「素質」:生まれつき備わっている性質、特に将来、高度な段階に進むことが期待される性質や能力

上記の通り、「素養」や「素質」に該当するものは顕在化し、独自にその段階を定義しやすいため、積極的な活用が検討されていますが、より高い「生産性」や「心地よさ」というエンプロイー・エクスペリエンスの向上の視点からは、従業員一人ひとりの、極端に言えば一生変わらないと言われる「資質」を把握することも重要な要素となります。

  • 「資質」:生まれつきの性質や才能、特性

海外では職務にフィットしている人材は、そうでない人材と比較して2.5倍の生産性をもたらすという研究結果の報告もあります。この職務へのフィットは潜在的な「資質」も影響しているため、「素養」と「素質」の把握だけでは本当の生産性は測れないと言えます。皆さんの組織の生産性が2.5倍になることを想像してみて下さい。せっせと積み上げてきた、これまでの「働き方改革」とは比べ物にならない本質的な「生産性向上」実現の可能性があるというのは、企業・組織にとっても、従業員一人ひとりにとっても、実に夢のある話です。
この様な報告からも、従業員一人ひとりの“持ち味”を正確に把握し、より適合度の高い職務につけ、“持ち味”を生かすこと、いわば“働かせ方”を改善・改革することは、「生産性向上」はもとより、職務や役割に対する「心地よさ」や「誇らしさ」にも繋がり、過度のストレスからの解放や、組織へのエンゲージメントを高める上でも、重要な近道になると考えられます。

“持ち味”の把握が鍵となる

では「生産性向上」と「心地よさ」を実現するための、従業員一人ひとりの“持ち味”の把握について、我々のコンサルティング現場でも用いるソリューションを、一つの例として紹介しましょう。
近年、我々のコンサルティング現場では、「タレントマネジメント」、「生産性向上」、「エンプロイー・エクスペリエンス」等、複合的な観点から、「ProfileXT®」を利用したアセスメントを提案・実施するケースが増加しています。このアセスメントの特徴・利点を簡単に整理すると、

  • アセスメント自体の学術的根拠が明確で、追跡調査等による効果が実証されている
  • 評価指標毎の特性の測定だけでなく、1400種の職務モデルとの職務適合判定が出来る

となります。
人材アセスメントソリューション、ツールといったものは数多く存在していますが、このアセスメントは“持ち味”を可視化するだけでなく、対象の人材の“持ち味”がどの様な具体職務に最も適合性が高く、高い「生産性」を期待できるか、最も「心地よい」と感じられるかという、いわば人材の特性に応じた職業DNAを見極めることができる点が最も重要で、広く企業・組織の人材マネジメントの様々なカスタマイズに活用が期待できると考えられるポイントです。

ProfileXT®別ウィンドウで開きます(プロファイルズ株式会社のサイトへ)

アセスメントは目的にあらず

当たり前のことですが、このアセスメントが「生産性向上」や「心地よさ」を実現するわけではありません。あくまで人材の特性を可視化し、そしてどのような職務に適しているかを把握する手段であり、「生産性向上」や「心地よさ」を実現するための信頼に足る材料を手に入れただけです。実際にこのアセスメントの結果も、最終的な従業員一人ひとりの職務上の「生産性」への直接的な影響度は1/3程度と言われており、「ProfileXT®」が評価する評価指標に加え、「企業・組織固有のスキル」や「企業・組織文化」との適合度を加えた、総合的な要素によって職務上の「生産性」は決まります。

(図)職務上の「生産性」を決める3つの要素

前回のコラムの最後にも触れましたが、従業員一人ひとりの職務・役割とのフィットは、「生産性向上」を実現する上での重要な鍵ではありますが全てではありません。“働き”構造のその他の要素や、その中に存在する人材マネジメントの具体的なシーンで、より「心地よさ」や「誇らしさ」といった付加価値の充足を高める取り組みが併せて必要です。近年の企業・組織における人材の多様性の拡大や、多様なキャリアパスを持つ組織への変化、そして何より組織と従業員のWin-Winの関係を重視する価値観の変化に対応するためには、これらの取り組みも、最大公約数的なアプローチではなく、従業員一人ひとりの“持ち味”に合わせた、より細やかな個別の対応(=カスタマイゼーション)が鍵を握ると我々は考えています。

執筆者略歴

中村 俊樹氏

株式会社クニエ Human Capital Management チーム シニア マネージャー
出版事業会社の企画及び情報システム部門を経て、外資系総合コンサルティングファームへ転身。人事コンサルタントとして人事部門機能再編、業務改善・プロセス設計、人材要件定義を中心に、システム企画・導入、人材情報活用支援までの幅広い領域にわたる一貫したコンサルティングを展開し、2016年より現職に至る。
近年ではタレントマネジメント、人材アセスメントを中心とした人事領域のサーベイ・分析、働き方改革推進などを中心にサービスを展開。人事領域だけでなく、企業・組織に関わる“人”を対象に、広くICTを活用した課題解決に取り組んでおり、主に自動車、運輸、流通、メディア・情報サービス、その他製造業等を中心に、人事における『幅広い』領域において知見と経験を有する。

  • このコラムは執筆者の個人的見解であり、クニエの公式見解を示すものではありません。
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