FinTechの現在地と未来予想図 〜MITメディアラボ所長 伊藤穰一氏に訊く〜FINOLABスペシャルリポート #2

FinTechにかつてのインターネットの発展を重ねる人もいるだろう。
その両方をよく知る人物の眼に、産声を上げたばかりの日本のFinTechとその未来はどう映っているだろうか。
MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏が、グローバルにおけるFinTechの発展段階と、その中のどこに日本の商機があるかを語ってくれた。

─FinTechにも様々な領域があります。注目している領域や技術を教えてください。

FinTechに関わるテクノロジーの中ではブロックチェーン技術に注目しています。実は、テクノロジーとしてのFinTechの誕生は約20年前で、新しいものではありません。またFinTechの誕生から現在に至るまでそれに関わる技術を進歩させてきたのとほぼ同じメンバーが、今ブロックチェーンを扱っています。私から見ればFinTech領域はいきなり目の前に現れたのではなく、着実に発展してきた印象です。
ブロックチェーンの面白さは、インターネットと同様に分散型の処理構造だという点にあります。お互いを信用しなくてもやり取りが成立し、これまでのシステムのように相手を認証して少しずつ拡張していく構造とは異なるところが特徴的です。

─インターネットの歴史に比べると、ブロックチェーンやそれを活用したビットコインの現在地はどのあたりでしょうか。

現在のブロックチェーンをインターネットでいう1996年頃、つまり普及期と考える人もいるようですが、私から見ればまだ1990年あたりです。パソコン通信サービスでいえばネットワークコミュニティとしてサービスが展開されていたニフティサーブの時代です。しかし、テクノロジー環境は過去のそれとは大きく変わりました。ネットワークインフラが整備されて数ギガのファイルを送れるようになり、ハードウェアの処理速度が向上して、Proof of W ork(プルーフ・オブ・ワーク)の実現、すなわち多大な計算を課すことによる悪意を持った改ざんの防止も可能になりました。こうしたインフラ環境の向上があるからこそ、いまブロックチェーンを活用することができるのです。

─ブロックチェーンはビットコインなどの仮想通貨に活用されていますが、今後ブロックチェーンが活用できそうなアプリケーションや領域を教えて ください。

近い将来なら、契約を自動化する仕組みであるスマートコントラクトです。法的な整備が必要ですが、セキュリタイゼーション(証券化)、保険、トレー ドファイナンス、定款のやり取り、株券の取り扱いなどに活用できれば面白いですね。
長期的には中央銀行がブロックチェーン技術を取り入れ、発行する通貨がスマートになれば金融の構造が変化するかもしれません。 これまでは銀行だからアクセスできる融資先や投資先がありました。
しかし、個人がスマートな通貨を通じて国境等に関係なく自由に投資案件にアクセスできるようになれば、銀行に預金する必要はなくなります。そうなれば銀行はファンドのように投資案件を見出すことに専念しなければならなくなるでしょう。
また、通貨をスマートにすれば徴税の仕方、税金の支払い方、支払う国も変わるでしょう。必要な通貨の組み合わせもそれによって決まる ようになると思います。

─今後FinTechがさらに発展するために何が必要でしょうか。

今は、ブロックチェーンのような技術に加え、暗号、認証、セキュリティ、税制、監査制度などFinTechを取り巻く様々な分野を包括的に理解している人が圧倒的に不足しています。まずはこれらを本当に理解できる人を育てる必要があります。また、FinTechは技術基盤のルールをどのように決めるかということを含め整備されていない点もあります。インターネットのように技術に関するスタンダードをしっかりと確立していくことも必要です。

─伊藤さんは金融庁の「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」委員でもありますが、どのような点を意識してアドバイスをされていますか。

現時点ではFinTechへの期待が高まり過ぎているところがあります。FinTechを取り巻く環境はインターネットでいう1990年あたりだということを認識し、まずはインフラに近いレイヤーの技術を理解できる人材の育成が重要だと言っています。

─日本企業がFinTechにおいてグローバルで存在感を示すには何が必要でしょうか。

グローバルで競争できる領域に、日本の特徴をどう出すかだと思います。日本の競争優位は間違いなくプロダクトデザインにあります。
また、日本の消費者は優れており、人口密度が高い東京でいろいろな実験ができるのも大きなメリットです。グローバルのマーケットからパーツを調達しつつも、日本人なりのプロダクトを作ることで成功の可能性が高まります。たとえばビットコインなどの国際的な技術を使い、日本のロボットやキャラクターデザインなど日本なりのものと融合させる。こうしたサイクルはかつてトヨタやソニーも実行してきたはずです。一方、海外の技術との比較は常に意識すべきです。すぐに海外から技術は入ってきますから。

─グローバルで、どこに展開するかもポイントになりますか。

米国だけではなく、アジアやアフリカなど新興国に進出するのが良いでしょう。普通なら一番初めには持っていかない国に持っていくことです。たとえばアフリカでは今、携帯の決済が伸びています。既存の銀行がない国、伸びている国なら既存の枠組みの中ではできないことができるはずです。そういうチャレンジの仕方はありえると思います。

2017年1月更新

(第3回に続く)

Profile

伊藤 穰一氏(いとう じょういち)

マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長
金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」委員

多数のインターネット企業の創業に携わる他、エンジェル投資家としてTwitterをはじめとする有望ネットベンチャー企業を支援。2008年米国Business Week誌「ネット上で最も影響力のある世界の25人」、2011年米国Foreign Policy誌「世界の思想家100人」、2011年・2012年日経ビジネス誌「次代を創る100人」に選出。1966年京都生まれ。