デジタル・ネイティブが常識を変えていく 15 時で終わらない、金融のはなし。
~“FinTech”が変える、お金と私たちの新しい関係~ #3

皆さんは、お財布もカードも持たなくていい毎日を、想像できますか?
買い物も食事も振り込みも、友人とのお金の貸し借りも、スマホやウエアラブルデバイスがあれば、いえ、もしかしたらそれすら無くても、すべて済んでしまう時代がすぐそこまで来ているとしたら。
いま、注目を浴びているフィンテック(FinTech)という言葉。それは、金融(Finance)の世界だけではなく、暮らしの様々なシーンを、大きく変えていく可能性を秘めています。
この連載では、ISIDの伊藤千恵がファシリテータとなり、銀行、ベンチャーキャピタル、スタートアップなど様々な立場でFinTechに関わる5名の方々を迎えて、お金の未来について語った座談会の様子を3回にわたってお届けします。

デジタル・ネイティブが常識を変えていく

  • 伊藤
    話は変わりますが、私、黒﨑さんのプロフィールをあらためて拝見して、気になっていたんです。1991年生まれ、ですよね?
    私、この年にISIDに入社しまして(笑)。「ああ、世代が違うんだなあ」としみじみ思ったわけですが、ぜひお聞きしたいのは、物心ついた時にはインターネットがあったデジタル・ネイティブ世代にとって、日本の金融ってどう映っているのか、なんです。
  • 黒﨑
    私が生まれて初めて銀行口座を作ったのは16歳の時でした。選んだのはイーバンク銀行(現在の楽天銀行)です。その後も、スルガ銀行のオンライン口座など、ネットバンクばかり利用して今に至っています。一応、ゆうちょにも口座はあるんですが、今までどこの銀行の店頭窓口にも行ったことはありません。
  • 一同
    えーっ!?( 驚嘆)
  • 西井
    うわー、本当に?一度も?ショックだなあ・・・。それはやっぱり、オンラインで何でもできるから、という理由?
  • 黒﨑
    それもあります。なぜわざわざ窓口に行かなければいけないか謎ですし(笑)。利便性ばかりではなく、手数料や利率など色々な要素を考えて、メリットのあるところを選んできました。
  • 猪尾
    「銀行は午後3時には閉店するもの」なんて感覚自体がないんでしょうね?(笑)
  • 黒﨑
    そもそも何で3時に閉まるのか、こっちが聞きたい(笑)。そういう意味では、私にとってセブン-イレブンのATMは「神だな」と。24時間いつでも利用できて、基本的に手数料無料なんて、まさに神ですよ(笑)。
  • 西井
    神・・・ですか(笑)。ありがとうございます。確かに当社のATMで24時間、引出手数料無料で利用できる金融機関は多数あります。ただ、当社口座は19時以降は引出手数料を頂いていますが(苦笑)。
  • 高岡
    なぜか日本では、ワンカスタマー・ワンバンクのようなカルチャーが浸透していましたけれど、たしかに黒﨑さんのような人が増えていますよね。「送金するならココが便利、金利だったらココ」というように使い分ける層が増えているのだから、金融機関は大急ぎで既存の収益モデルを変えていかなければいけません。
  • 柴田
    そうなんですよ。昔は学校を出て就職したのをきっかけに銀行口座を作るのが当たり前でした。そこで獲得したカスタマーをいかに生涯にわたってロックインするのか、というのが当然の戦略でしたから、住宅ローンでも資産運用でもすべて「ウチの銀行を使ってください。それが一番ですよ」とアピールすればよかったのですが、もうそういう時代ではなくなっています。

黒﨑 賢一氏

  • 伊藤
    銀行の窓口をはじめとする「お店」のあり方一つをとっても、多様性への対応が必要になっているんですよね。多様性といえば、セブン銀行の外国人向けサービスの拡充、この姿勢も素晴らしいですよね。ATMの多言語対応はよく知られていますが、それだけではなくて、外国の方にセブン銀行の口座を作ってもらうためのサービスに、本気で取り組んでいますよね。
  • 西井
    ありがとうございます。決してまだ大きなマーケットではないのですが、やはり外国の方が日本で銀行を使う機会は増えています。就労に来られた外国の方々が安心して送金等を行って頂けるよう、ATMの多言語化に加え、様々なサービスを検討し「多文化共生」に対応しようとしています。
  • 猪尾
    観光で日本に来て、すぐに帰るような人は別でしょうけれど、今後は「日本でビジネスをして」という外国人も増えるでしょうし、そうなると必要な機能ですよね。話が変わってしまうかもしれませんが、私などはセブン-イレブンで金融商品をカゴに入れて買えるようになったら面白いのになあ、なんて想像をしたりもするんですが、無理ですかね?
  • 西井
    面白いですね。まあ、セブン-イレブンがやるかどうかはさておき、アメリカなどではネット上のギフトで株をあげたりするそうですから、ありえない話でもない。日常的に利用するコンビニで金融商品が買えたら、世の中の常識が変わりますね。
  • 黒﨑
    コンビニだけじゃなくて、例えば牛丼屋さんにもATMがあったり、逆に銀行なのに牛丼を食べることができたり、なんて未来が来たら嬉しいんですけれど、さすがに言い過ぎですかね?(笑)
  • 柴田
    いいと思いますよ。実現するかどうかは別として(笑)

“FinTech”が未来を創り出す条件とは?

  • 伊藤
    話はつきませんが、最後に聞かせてください。今後日本のFinTechが実を結び、今までにない未来を創っていくためには何が必要でしょうか?
  • 黒﨑
    もっともっと規制が緩和されて、既存の金融バックグラウンドを持たないベンチャーでも自由に参入できる環境ができてくれると嬉しいです。例えば顧客獲得にかかるコストが金融機関では1人当たり1万円くらいかかると聞いたのですが、私が慣れ親しんでいるITの世界では1ユーザーを獲得するのにかかるコストは100円とか10円です。様々な規制による障壁が取り払われれば、劇的な変化が起きる。そう信じています。
  • 柴田
    顧客保護の必要もあることから、規制のすべてを取り払うというよりは、今何ができて、何ができないのかを、もう少し明らかにしていく必要があるでしょう。黒﨑さんや猪尾さんのような存在がもっと参入してくれば、未来の金融は大きく変わり、前進していくでしょう。そしてもちろん、私たち銀行も自分たちに何ができるのか、何をすべきなのかをもう一度考える局面に突き当たっていると思います。
  • 高岡
    金融というのは、日常の生活で当たり前に接しているものなのに、なぜか日本では特別なものですよね。例えば1つの金融サービスを受けるために、わざわざ店頭窓口に行かなければいけなかったりする。なぜ、そうしなければいけないのかが非常にわかりづらかったりもする。まずは、金融が特別なものじゃなくなること。そのための変化をFinTechが引き起こしていければいいなあ、と思います。
  • 西井
    私たちは全国の店舗にATMを設置してきましたが、その業務だけを続けていたら、「まだ会えていないお客さま」と巡り合うこともできない。だからこそ、新たな事業を模索していきます。どうすれば会えるのか。会えたなら、どうマッチングして価値をお届けするのか。そこを真剣に考えていかなければなりません。そのためにも今日のような場は非常に勉強になったし、すごく刺激を受けました。
  • 猪尾
    金融というと、効率よく資産が増えたり、一儲けできたり、という印象が強いですが、先ほども話した通り、それだけでは終わらない価値を提供できる可能性もある。それは、日本が成熟した国だからだと思うし、成熟国型のFinTechというのを日本が独自に創っていけるような下地が整ってくればと思います。
  • 伊藤
    高岡さんのお話にもありましたが、金融は特別なものではなく日常的な存在。ある種のインフラですよね。そういう意味ではITもインフラです。金融とIT、2つのインフラをもっと融合させるお手伝いをして、未来の世の中を変えていく役に立てればと思います。今日は皆さん、ありがとうございました。

2015年10月更新

(終わり)

Profile

柴田 誠氏(しばた まこと)

株式会社三菱東京UFJ銀行 デジタルイノベーション推進部プリンシパルアナリスト

東京大学経済学部卒業後、東京銀行(当時)入行。支店業務、英オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部門、東京三菱銀行(当時)企画部等を経て、1998年より現職。以来、一貫して金融IT関連の新技術・新ビジネスに関わる調査・研究・開発に携わっている。EFMA-AccentureのInnovation Awardsでは創設以来の審査委員。

高岡 美緒氏(たかおか みお)

マネックスグループ株式会社 執行役員新事業企画室長、マネックスベンチャーズ株式会社取締役

英ケンブリッジ大学自然科学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社、モルガン・スタンレー証券(当時)等を経て、2009年にマネックスグループ入社。M&A、戦略投資案件等を担う一方、マネックスベンチャーズにてコーポレートベンチャーキャピタルを運営。また、マネックスグループの新規事業立ち上げも担当している。

西井 健二朗氏( にしい けんじろう)

株式会社セブン銀行 事業開発部次長

同志社大学商学部卒業後、三和銀行(当時)入行。主にリテール部門での商品開発やローン証券化ビジネスに従事した後、モルガン・スタンレー証券(当時。サブプライムローン証券化事業担当)、大和証券グループ(銀行子会社設立プロジェクト担当)を経て、2012年にセブン銀行入社。バンキング事業全般を統括すると同時に、新規ビジネスの開発を担っている。

猪尾 愛隆氏(いのお よしたか)

ミュージックセキュリティーズ株式会社 証券化事業 執行役員

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、博報堂入社。2005年、ミュージックセキュリティーズに入社すると音楽ファンドから他分野への展開を開始。2009年には「セキュリテ」事業を立ち上げ、東日本大震災の被災地応援への活用にも携わった。現在は45地域金融機関、7地方公共団体と連携。約260事業者と個人7万人が利用する資金供給プラットフォームに。

黒﨑 賢一氏(くろさき けんいち)

株式会社BearTail代表取締役 兼 CEO

15歳よりテクニカルライターとしてPC活用やツール開発等に関する執筆活動を展開。2009年にはライフサイエンスやスマホアプリ紹介メディアをエンジニア兼ライターとして立ち上げ、6カ月で150万PV(月間)にまで成長させた。筑波大在学中の2012年、21歳でBearTail設立。2013年リリースの「Dr.Wallet」は1,300の金融機関口座と連携。全自動お金管理サービスとして大ヒット中。

伊藤 千恵(いとう ちえ)

株式会社電通国際情報サービス 金融ソリューション事業部グループマネージャー

1991年電通国際情報サービス入社。主に金融機関向けシステムの構築を担い、ドイツ駐在等を経た後、米国留学。2007年の復職後は、海外ベンダーとのアライアンスや新規事業開拓を担い、2014年からは、国内最大のFinTechピッチコンテスト「FIBC」の運営等、FinTech領域を中心に活動。2020テクノロジー&ビジネス開発室兼務。