そもそもFinTechとは何? 15 時で終わらない、金融のはなし。
~“FinTech”が変える、お金と私たちの新しい関係~ #1

皆さんは、お財布もカードも持たなくていい毎日を、想像できますか?
買い物も食事も振り込みも、友人とのお金の貸し借りも、スマホやウエアラブルデバイスがあれば、いえ、もしかしたらそれすら無くても、すべて済んでしまう時代がすぐそこまで来ているとしたら。
いま、注目を浴びているフィンテック(FinTech)という言葉。それは、金融(Finance)の世界だけではなく、暮らしの様々なシーンを、大きく変えていく可能性を秘めています。
この連載では、ISIDの伊藤千恵がファシリテータとなり、銀行、ベンチャーキャピタル、スタートアップなど様々な立場でFinTechに関わる5名の方々を迎えて、お金の未来について語った座談会の様子を3回にわたってお届けします。

  • 伊藤
    本日はありがとうございます。この座談会のテーマは「FinTech」。今年に入ってから、NHKで特集されたり全国紙で記事になったりと、急に注目が集まっています。ここにいる皆さんはまさにこの流れの中にいるわけですが、まずは自己紹介をお願いします。
  • 柴田
    私は三菱東京UFJ銀行で、金融ビジネスと技術領域との間をとりもつような役割を担っています。新しい技術を調査し、有効なものは銀行業務の中に取り込んでいくのがミッションです。先日は「FinTech Challenge 2015」というコンテストを開催して、べンチャー企業や個人から金融に関わる技術やサービスのアイデアを募り、受賞者を決定しました。ここから先、斬新なサービスや技術を我々がどう実現していくのかが課題で、頭を悩ませています。
  • 高岡
    私はもともと外資系金融機関にいましたが、リーマン・ショックを機に、マネックスグループの一員になりました。現在はマネックスベンチャーズの役員も兼務していて、金融業界に新風を巻き起こしている多数のベンチャー企業へ投資をしています。
  • 猪尾
    ミュージックセキュリティーズの猪尾です。社名の通り、ミュージシャンを応援するファンドからスタートした会社です。2009年からは音楽だけに絞らず、幅広い分野のマイクロ(少額)投資プラットフォーム「セキュリテ」を立上げ、これがおかげさまで成長しています。実は、「え? ウチもFinTechなの?」という感じで、あまり自覚がなくて(笑)。もちろん、新しい技術や発想で可能性を広げてきた自負はありますけど。
  • 黒﨑
    私の会社は、Dr.Walletという個人向けのお金の管理サービスを提供しています。おかげさまで、ファイナンス部門のアプリランキング1位と、高い支持を獲得しています。ジャンルでいうと、PFM(Personal Financial Management)と呼ばれていて、国内でもすでに幾つもサービスがありますが、私としてはもっとたくさん便利なサービスが出てきて、広く浸透していけばいいな、と考えています。
  • 西井
    私は複数の金融機関で働いた後、セブン銀行に入りました。この会社の収益の実に94%はATM事業で成り立っています。つまり、全国のセブン-イレブンに設置したATMの手数料収入が大部分。でもそれだけではいけない、という危機感もあって、私自身は新たな事業開拓を担う立場にいます。
  • 伊藤
    皆さんありがとうございます。私はISIDで5年前から金融関連の新規事業開拓に携わってきました。グローバルな金融の動向を見据えて、新しいビジネスモデルの確立に取り組んでいます。ISIDが2012年から開催しているFinTechのピッチコンテスト「FIBC(Financial Innovation Business Conference)」の運営にも、2年ほど前から本格的に携わっています。

ISIDが2012年から開催している国内最大規模のFinTechピッチコンテスト「FIBC(Financial Innovation Business Conference)」の会場風景。4回目となる2015年は、300席のチケットが早々に完売となり、満席の会場は熱気で埋めつくされた。

業種やバックグラウンドを問わず、チャンスが拡大する金融領域

  • 伊藤
    私は、例えば黒﨑さんのように、世代的にもバックグラウンド的にも、既存の金融業界にはなかった存在の活躍にすごく期待しているんです。こういう流れもまたFinTechならではですよね。
  • 黒﨑
    要するにITオタクです(笑)。そういう人間が金融サービスを提供していいのかなあ、などと思いつつ(笑)、これからはそれが当たり前になるだろう、と。柴田さんや高岡さん、西井さんのように、金融のバックグラウンドを備えている方々の間でも、新しい可能性を追求する動きが加速している。そういう流れがあるから、私のようなITオタクの力も、今まで以上に役立つことになるはずで、これからますます面白い時代が来る、と思ってます。
  • 伊藤
    西井さんのセブン銀行のように、金融とは無縁だった異業種企業が積極的に金融サービスを起こしていく動きもまた新しいですよね。
  • 西井
    私たち流通企業は生活者の皆さんの身近なところにいます。そんな私たちが金融サービスに積極的になっていけば、日々の生活を変えることだってできる、と信じていますね。先ほども言いましたが、これまでのセブン銀行はATM事業が主流でした。もちろん、今後も重要なコア事業なのですが、「それだけではいけない。もっとやれることがあるはず」という発想で、新規事業についてのコンテストを社内で行ったりしているんです。
  • 伊藤
    西井さんと一緒に、ヨーロッパの流通業界の新しい動きを視察したりもしましたね。
  • 西井
    英国の大手スーパーであるテスコや衣料販売のマークス&スペンサー、フランスの大手スーパーであるカルフールなど、並みいる大企業が、M&Aなども行いながら大胆な金融サービス参入を実現し、成功させている。こういう欧米の動きは、日本にいたらあまり実感がわきませんが、確実に世界レベルで広がっています。
  • 伊藤
    「金融」という言葉を聞くと、日本では相変わらずお堅いイメージが先行します。例えば、先ほど黒﨑さんの口からも出た「PFM」という言葉もなんだか物々しい(笑)。もっと身近で便利な機能なのに。
  • 黒﨑
    そうなんですよ。実は私たちのDr.Walletでは、昨年からアカウントアグリゲーション・サービスというのをスタートしました。この長たらしい言葉もどうかと思いますが(笑)、要するに「今、僕はいくら持っていて、いつどういう出費をする予定で、だから今日使っていいお金はいくらで」みたいなことが簡単にわかるサービスです。今は誰でも銀行口座を複数持っているし、クレジットカードも電子マネーも当たり前に使っている。そうなると、「いったい今日、いくら使ってもいいのか」さえ見えにくくなる。「自分のお金の管理」だって立派な「金融サービス」の1つです。
  • 伊藤
    それにDr.Walletでは、お金の管理だけではなく、ビッグデータ分析をして、ユーザーに合ったお得なクーポンを発行していますよね。クーポンの提供企業から広告料をもらうというビジネスモデルは、先ほど西井さんが触れたテスコなども取り入れている手法です。テスコの場合は、広告料の代わりに仕入原価を下げている。金融と流通の新しい融合のスタイルだと思います。

西井 健二朗氏

そもそも“FinTech”とは何?

  • 伊藤
    さて、ここで皆さんにあらためてFinTechとは何なのか、聞いてみたいと思います。FinTechという言葉が日本でも突然注目され始めて、正直、戸惑っている方も多いと思いますし・・・。
  • 柴田
    そうですね。これほどまでに世の中に注目されるようになったのは、2015年に入ってからです。あまりにも突然に脚光を浴びた印象がありますから、ともすると、なんでもかんでも「FinTech」と呼んでいるのではないか、という懸念すら感じますね。
  • 伊藤
    ちなみに私は、以前、柴田さんが『週刊 金融財政事情』のフィンテック特集(2015年2月2日号)に寄稿された記事をコピーして常に隠し持っています(笑)。パートナー企業さんやメディアなどからFinTechの定義について聞かれた時は、これを渡しているんです。
  • 柴田
    活用していただき、ありがとうございます(笑)。じゃあ、あらためておさらいをしてみましょう。今のムーブメントが起きる以前からFinTechという言葉は一部で用いられていました。主にIT業界においてですが、IBMやOracleのような総合的ITサービス企業ではなく、金融領域に特化してソリューションやシステムを提供しているようなIT企業がFinTechと呼ばれていました。ところが5~6年前くらいから変化が訪れました。多くのベンチャー企業が現れ、金融領域に照準を定めて新しいサービスを次々に提供するようになり、最近ではそうしたベンチャーがFinTechと言われています。
  • 伊藤
    そうした世界の動きが、ここへきて日本の金融機関やテクノロジー系の企業にも刺激を与え、FinTechムーブメントの出発点になったというわけですよね。
  • 柴田
    そうですね。私たちのようなメガバンクも、それまで以上に新しい技術や発想に対して積極的に取り組むようになりました。そればかりでなく、地方の金融機関などの方々からも「何か新しい動きがあるようですね。私たちはどうすればいいんでしょう?」などと尋ねられる機会がどんどん増えていきました。伊藤さんのところもそうでしょうけれど、弊行にもメディアからの取材依頼が突然増えたわけです。
  • 伊藤
    「新技術×金融=FinTech」と定義づけるならば、高岡さんのマネックスグループはFinTechのファースト・ジェネレーション。FinTechのスタートアップの人たちが、よく社長の松本さんのところに相談に来られるそうですね。
  • 高岡
    ええ、そうみたいです(笑)。かつて、インターネットを金融のチャネルとして活用していく、という動きがありました。オンライン証券やオンライン・バンキングがその主役だったわけですから、そういう視点で見れば、たしかに私たちはファースト・ジェネレーション。ただ、今注目されているFinTechは、セカンド・ジェネレーションで、確実に中身が違います。すでにチャネルとしてのネット活用は当たり前。スマホもタブレットも当たり前に身近にある世代が、生活者視点でどんどん便利なサービスを発想している。だから、マネックスグループも自分たち自身が変わらなければいけない、と強く感じて、セカンド・ジェネレーションをリードするようなベンチャーに投資をしながら、仲間になってもらい、ともに新しい変革を起こそうとしているところなんです。
  • 伊藤
    つまり、ITの革新と金融の世界が結びつくことだけがFinTechではなくて、新しい技術と発想で、人々の生活の仕方やお金との関わり方まで変えようとしている、これこそが今のFinTechの大きな特徴だと言えそうですね。

高岡 美緒氏

2015年10月更新

(第2回に続く)

Profile

柴田 誠氏(しばた まこと)

株式会社三菱東京UFJ銀行 デジタルイノベーション推進部プリンシパルアナリスト

東京大学経済学部卒業後、東京銀行(当時)入行。支店業務、英オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部門、東京三菱銀行(当時)企画部等を経て、1998年より現職。以来、一貫して金融IT関連の新技術・新ビジネスに関わる調査・研究・開発に携わっている。EFMA-AccentureのInnovation Awardsでは創設以来の審査委員。

高岡 美緒氏(たかおか みお)

マネックスグループ株式会社 執行役員新事業企画室長、マネックスベンチャーズ株式会社取締役

英ケンブリッジ大学自然科学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社、モルガン・スタンレー証券(当時)等を経て、2009年にマネックスグループ入社。M&A、戦略投資案件等を担う一方、マネックスベンチャーズにてコーポレートベンチャーキャピタルを運営。また、マネックスグループの新規事業立ち上げも担当している。

西井 健二朗氏( にしい けんじろう)

株式会社セブン銀行 事業開発部次長

同志社大学商学部卒業後、三和銀行(当時)入行。主にリテール部門での商品開発やローン証券化ビジネスに従事した後、モルガン・スタンレー証券(当時。サブプライムローン証券化事業担当)、大和証券グループ(銀行子会社設立プロジェクト担当)を経て、2012年にセブン銀行入社。バンキング事業全般を統括すると同時に、新規ビジネスの開発を担っている。

猪尾 愛隆氏(いのお よしたか)

ミュージックセキュリティーズ株式会社 証券化事業 執行役員

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、博報堂入社。2005年、ミュージックセキュリティーズに入社すると音楽ファンドから他分野への展開を開始。2009年には「セキュリテ」事業を立ち上げ、東日本大震災の被災地応援への活用にも携わった。現在は45地域金融機関、7地方公共団体と連携。約260事業者と個人7万人が利用する資金供給プラットフォームに。

黒﨑 賢一氏(くろさき けんいち)

株式会社BearTail代表取締役 兼 CEO

15歳よりテクニカルライターとしてPC活用やツール開発等に関する執筆活動を展開。2009年にはライフサイエンスやスマホアプリ紹介メディアをエンジニア兼ライターとして立ち上げ、6カ月で150万PV(月間)にまで成長させた。筑波大在学中の2012年、21歳でBearTail設立。2013年リリースの「Dr.Wallet」は1,300の金融機関口座と連携。全自動お金管理サービスとして大ヒット中。

伊藤 千恵(いとう ちえ)

株式会社電通国際情報サービス 金融ソリューション事業部グループマネージャー

1991年電通国際情報サービス入社。主に金融機関向けシステムの構築を担い、ドイツ駐在等を経た後、米国留学。2007年の復職後は、海外ベンダーとのアライアンスや新規事業開拓を担い、2014年からは、国内最大のFinTechピッチコンテスト「FIBC」の運営等、FinTech領域を中心に活動。2020テクノロジー&ビジネス開発室兼務。