地震予測とテクノロジーのいま 創立40周年特別対談 「その時」とテクノロジー #2

東日本大震災から5年。
世界でもっとも進んでいると言われている日本の地震研究は、さまざまな教訓を礎に、震災後、ますます大きく進展してきました。
最先端の地震研究を支えているのが、急速に発展するテクノロジーの力。
地震データの解析やシミュレーションだけでなく、専門的な研究内容を一般の人々に分かりやすく伝える“サイエンス・コミニュケーション”にも貢献しています。
この連載では、サイエンス・コミュニケーションと地震予測テクノロジーをテーマに、東北大学で長年地震研究に取り組んできた長谷川昭名誉教授とISID社長の釡井節生との対談の模様を2回にわたりお届けします。

地震予測の精度を高める高度なサイエンス・テクノロジー

  • 釡井
    IoT(Internet of Things)やビッグデータがサイエンスに与える影響も、どんどん大きくなっています。地震予測研究とテクノロジーは、今、どのような関係で結びついているのでしょうか?
  • 長谷川
    ここ10年で、地震予測に関する研究は飛躍的に前進しました。その背景にあるのが、ICTの進化です。地震計やGPS、宇宙観測技術などが発達し、そのおかげで膨大なデータが集められるようになりました。現在、日本全国に、1200点の地震観測点と、1200点のGPS観測点が配置されています。
  • 釡井
    S-netと呼ばれるケーブル式海底地震津波観測網も、急ピッチで設置が進められていると聞いています。
  • 長谷川
    はい。現在、150点の観測点のうち、その大半の設置工事が完了しているようですね。地震予測というのは、とにかく多くのデータを収集し、それを計算機に取り込み、その中で地震を再現(シミュレート)することによって予測しようとするものです。ですから、精度の高い地震計やGPS、S-netのような海底観測点の設置数が増えれば増えるほど確度が上がり、進歩していきます。ただ、設置にはコストがかかりますから、無尽蔵に増やすわけにはいきません。例えばGPS観測点は一点約1000万円、S-netは一点あたりなんと2億円もかかるそうです。今後は、技術革新によって設置価格を下げることが重要な課題になりそうです。
  • 釡井
    他にも、課題となりそうな点はありますか?
  • 長谷川
    これだけ多くのセンサーデータがリアルタイムで送受信されるとなると、膨大な伝送に耐えられるだけのネットワークを、急ぎ構築する必要があるでしょう。また、データを処理するコンピューターの性能も課題となります。現在の10倍、100倍のデータが取れるようになっても、処理が追いつかないのでは意味がありません。「京」の100倍の処理能力を持ったコンピューターが登場すれば、地震予測もまた格段に進展するでしょう。
  • 釡井
    その頃には、スマートフォンやPCに入っている民生用のGPSなどの性能が上がって、リンクする可能性もありそうですね。2020年には、センサー1兆個時代が到来すると言われています。これらがつながって生まれるビッグデータの利活用もまた、地震予測を進展させていく鍵となるかもしれません。
  • 長谷川
    そうですね。サイエンスの進展には、人材育成も含めて、数十年という長い時間が必要です。一方で、テクノロジーの進化がそのスピードを格段に早めているという事実もある。地震学に限らず、すべてのサイエンスの領域でICTは欠かせないものだと感じています。

震源の分布だけでなく、断層面での滑り量や地殻変動の様子なども立体映像で確認できる。
見る人の動きに合わせて、3Dで様々な角度から映像を見られるのが、MRの大きな特長だ。
(提供:東北大学地震・噴火予知研究観測センター)

被害を最小限にとどめる「防災・減災」こそが鍵

  • 釡井
    東日本大震災で起こったあの大津波による甚大な被害は、多くの人にとって生涯忘れられない、衝撃的な出来事でした。あのような悲劇を繰り返さないために、どんなことをしたらよいのでしょうか?
  • 長谷川
    地震や津波を回避することはできません。しかし、「防災・減災」の取り組みによって、その被害を最小限に食いとどめることはできる。そのためには「情報を早期に正しく伝達する」、これに尽きます。東日本大震災では、地震発生の30分~1時間後に津波が到達すると予測されました。それはよいのですが、到達する波の高さが3m~6mと発表されてしまった。一部の地域には、世界的に有名な防潮堤があったこともあって、「その程度ならば」と逃げない人も多かったと聞いています。あのとき、最初から「10m以上の津波がやってくる」という情報を発信できていれば…。多くの人が犠牲にならずに済んだのではないかと思うと、今でも悔しい気持ちでいっぱいです。
  • 釡井
    私もあの時のことは、とてもよく覚えています。テレビで最初に報じられた情報と、その数十分後に流れた目を疑うような映像との、あまりの落差に驚きました。
  • 長谷川
    実は阪神淡路大震災のあと、国が強化すべき地震調査研究の施策として、「長期予測」「現状把握」「強震動の予測」「早期伝達」の4つがすでに挙げられていました。私は「早期伝達」が何よりも大事で、真っ先に取り組まないといけない、特に津波警報の精度を格段に上げないと、津波による悲劇が起きると分かっていたので、当時から「費用が少しくらいかかってもすぐに対策に取り掛かるべき」と主張していました。しかし、後手後手になってしまって…。東日本大震災の後に一気に予算がつき、現在、情報の精度を上げるための研究に全力で取り組んでいます。
  • 釡井
    多くの人が亡くなって、ようやく予算がついたのですか。しかし、取り組みが進んでいると聞いて、少し安心しました。
  • 長谷川
    今、警報が出ても避難する人が少ないのは、情報の精度が低いからだと思うんです。「逃げなくていいときには警報を出さない」「逃げなければいけないときにしっかり出す」という当たり前のことを、まずはしっかりやることが大切だと思っています。

東北大学のオープンキャンパスで行われた、MRデモンストレーションの様子。
高校生たちが長い列を作り、地球内部の探検を楽しんでいた。
(提供:東北大学地震・噴火予知研究観測センター)

“情熱”が人を動かし社会全体を変えてゆく

  • 釡井
    長谷川先生とMRのプロジェクトを進める中で、多くのことを学ばせていただきました。もっとも感銘を受けたのが、先生がお持ちになっている熱い“思い”の部分。私のように知識のない人間にも、地震のメカニズムやサイエンス・コミュニケーションの重要性について、熱意を持って、何度でも、しかも非常にわかりやすく語ってくださいました。一体なにが、先生を動かす原動力になっているのでしょうか?
  • 長谷川
    純粋な興味、でしょうか。自分が知りたいから研究していて、知ること自体が楽しみになっている。子どもの好奇心のそれと、なんら変わりはありません。
  • 釡井
    とても先生らしいお言葉ですね。先生のように“情熱と探究心の塊”のような研究者がどんどん育っていけば、日本の未来は変わっていくと思います。私たちも微力ではありますが、これからもICTの力で復興を支援し、地方創生のお役に立ち続けたいと、心から思います。
  • 長谷川
    ありがとうございます。なかなか進まない復興の状況を見てもわかるように、政治のリーダーシップという点で、日本はまだまだ後進国レベルで全くお粗末です。だからこそ、国民自らが考え、意識を高めることが大切で、そのためにもサイエンス・コミュニケーションが必要なのです。これからも、この国に住む者としての宿命を受け入れ、社会に貢献する研究をし続けたい。そう、強く思っています。
  • 釡井
    本日は、ありがとうございました。

2015年10月更新

(終わり)

Profile

長谷川 昭氏(はせがわ あきら)

国立大学法人東北大学 名誉教授

群馬県桐生市出身。1967年東北大学理学部卒業。
1969年東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻修士課程修了。東北大学理学部助手、助教授、教授を経て、名誉教授。理学博士。文部科学省地震調査研究推進本部をはじめ、同省科学技術・学術審議会、内閣府中央防災会議などの委員を歴任。現在は地震調査研究推進本部政策委員会委員、同総合部会部会長を務める。専門は地震学、特にプレート沈み込み帯の地震の発生機構。2008年には、優れた地球物理学の業績を挙げた会員に与えられるAGU Fellowの称号を米国地球物理学連合(American Geophysical Union)から授与。また2010年にはThomson Reuterより地震学分野における The 7th of Top 20 Authors in 10 years(Citations)に選出。