デザイン×テクノロジーで促す行動変容が、循環型社会推進の新たな一手に

写真左より 多摩美術大学 プロダクトデザイン専攻 濱田芳治教授、ISID Xイノベーション本部 オープンイノベーションラボ 安崎郁生、同 藤木隆司

サーキュラーエコノミーとは、「循環経済」の一種で、「資源の循環を図り、廃棄物を出さない」経済モデルのこと。製品のライフサイクルを通してリサイクル・アップサイクルを促進し、資源を循環させることで廃棄ゼロを目指す考え方です。現在、SDGsの目標の1つ「つくる責任 つかう責任」(ゴール12)の達成に向けた重要な施策として注目を集めています。

ISIDのオープンイノベーションラボ(イノラボ)は、2021年12月、サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みにドライブをかける多摩美術大学の共創プロジェクト「すてるデザイン」と、フードロス(Food Loss & Waste)削減のためのアイデアソンを実施しました。多摩美術大学の学生20名、ISID社員11名のほか、フードエコロジーや廃棄物等の専門家が集い、デザインとテクノロジーの力を生かして食品の未来を考える企画です。

サーキュラーエコノミー推進において、今一番重要なことはなにか? デザイン/テクノロジーはそこにどう寄与していけるのか?本アイデアソンを企画・運営した多摩美術大学プロダクトデザイン専攻の濱田芳治教授と、イノラボの藤木隆司、安崎郁生が企画の背景や実施後の気付きを語り合います。

社会課題は多くのステークホルダーと共通の目標になる

— イノラボと共創プロジェクト「すてるデザイン」、それそれがSDGsをどう考えて、取り組みを進めてきたか教えてください。

藤木隆司(以下藤木):イノラボは2011年の発足当初から、企業や大学と共に社会課題を見つけ、解決のための仕組みをプロトタイピングし、それが世の中に必要とされるかを検証してきました。社会課題は多くのステークホルダーとの共通目標になりえますし、SDGsも同様です。そこで2021年に、さらにSDGsに注力していくための専任チームを発足しました。

安崎郁生(以下安崎):私がSDGsチームに加わりまず取り掛かったのは、過去にイノラボが実施した案件とSDGsの各目標との関連性の整理でした。すると、1つの目標に偏るのではなく、複数の目標の貢献に関わっていたことが分かりました。それはイノラボが今後もSDGsに対して幅広くアプローチできる可能性があるということであり、この実績は強みになると気づいたのです。

濱田芳治教授(以下濱田):「すてるデザイン」は、産業廃棄物をいかにアップサイクルするかを一番の目的に、「すてたモノをデザインする」「すてる前提をデザインする」「すてるエコシステムをデザインする」の3つのフェーズで考え進めています。
このプロジェクトの特徴は「教育」という建付けで行っていること。プロジェクトがスタートした2021年4月から本学の授業カリキュラムに組み込み、単位取得と一緒に進められるプログラムにしました。私は、教育は未来を変えるためのスイッチだと思っています。今年入学した新入生も、5年後には社会の中に入り主要な人材になっていく。大学という場でどのくらい循環型社会や社会課題への意識を高め、そこに対して何かができるという自信をつけられるかはとても大切です。

サーキュラーエコノミー達成に不可欠なのは「人々の行動変容」

— SDGs17の目標の中で、ゴール12「つくる責任 つかう責任」、およびその手段としてのサーキュラーエコノミーに着目したのはどのような考えからでしょうか。

藤木:イノラボでは、以前に宮崎県の綾町という自治体が有機栽培した野菜を販売するためのお手伝いをしました。綾町は日本で初めて有機農法を始めた町なのですが、有機農法は手間暇がかかるため、通常の流通形式だと価格競争で負けてしまう。そこで「ブロックチェーン」という技術を使って、綾町の野菜がどのように作られ、流通してきたかの情報を商品に付加することで消費者に価値を伝え適正な価格で販売できるようにしたんです。この経験から、ものの生産や流通が関係するゴール12に特に関心を持ちました。

安崎:私はITとの親和性の高さという観点からゴール12に着目しました。ゴール12はSDGsの17の目標の中で、現状達成度の低い目標の1つです。SDGsという広いテーマや、ゴール12の施策の一つであるサーキュラーエコノミーの実現には、より多くの人々の行動変容にアプローチする必要があると考えます。ITはそんな多くの人々へアプローチする手段として非常に有効的ではないでしょうか。例えば、私たちが普段よく目にするスマートフォンを通して啓蒙や理解促進を進めることもできますし、他にもVR・ARでSDGsについて臨場感のある体験をしてもらうなど、さまざまな活用方法が考えられます。

濱田:私たちも最終的に何とかしたいと考えているのは、人の行動変容を図る部分ですね。循環サイクルの一点一点に対策を打っていくには、点が多すぎます。それよりもどれだけ多くのプレーヤーを巻き込めるかが重要です。
「すてるデザイン」を発足した際大事にしたのは、美術大学が取り組む以上、学生や参加者に「カッコいいから」「美しいから」やってみたいと思わせる仕掛けをきちんと作ること。そのためにクリエイティビティやデザインの力を使おうと考えました。

安崎:「すてるデザイン」の皆さんは「行動変容」というキーワードを前面に出していたので、イノラボとの共通点を感じました。

濱田:教育の建付けではなく、最初からプロに頼んでうまく解決していく方法もあったと思います。けれど、それでは新たな人材が育たない。同様に企業もプレーヤーを育てていかないと、トップが号令をかけても現場が動かないといった事態が起こりかねません。サーキュラーエコノミーの課題に継続的に向き合い、実現していくには、プレーヤー=戦力を増やしていくことが不可欠ではないでしょうか。

多摩美術大学 プロダクトデザイン専攻 濱田芳治教授

デザインとテクノロジーのプレーヤーが、進まぬ状況に変化を起こす

— サーキュラーエコノミーの実現に向けて、デザイン/テクノロジーが貢献できることはどのような点にあると考えていますか?

濱田:広義で考えると、「デザイン(Design)」という言葉には既存の「こういうものだ」という決まりを壊すといった意味が含まれます。見目形の前に、そもそも現在の状況を「整理する」ところから始めて、仕組みをデザインするといった形で変えていくこともできるのではとないかと考えています。
もう一点は視覚化する力ですね。多くの人に何かを伝えたり気づかせたり、それによって行動変容を促したりする上で、視覚化は非常に役立ちます。プレーヤーを増やすという観点においては、この視覚化する力が使えるのは間違いありません。

藤木:テクノロジーには、「実現手段の提供」や「新しい価値観の提供」ができる可能性があります。例えばアプリで生産者と消費者を直接繋ぎ合わせたり、知り得なかった情報を提供して行動変容を促したりなど皆さんが普段利用されているサービスでも実感されていることでしょう。テクノロジーを扱っていて面白いと感じるところは、1つの技術が場合によって多数のニーズに応えられること。デザインが組み合わさることで、循環させる仕組みの中で、例えば生産と流通といった違うプロセスやレイヤーに同じテクノロジーを適用できるようなケースが出てくると考えています。

濱田:「すてるデザイン」に参画している企業の中には、産業廃棄物を取り扱う事業を展開している会社があり、サーキュラーエコノミーの実現につながるさまざまな手段を講じています。にもかかわらず、現状では一般の方々に変化が見えにくく、評価もされていません。
この状況に新たな何かを加えて変化を起こすとしたら、必要なのはデザインとテクノロジーのプレーヤーだと私は思います。デザインにはフィールドを横断して共同体のようにつなげる力があり、テクノロジーには効率化や自動化といった形でハードルを下げる力がある。テクノロジーの力でサーキュラーエコノミーへの参入ハードルを下げてもらえれば、多くの企業や消費者が循環型社会に向けた仕組みを取り込める可能性が出てきます。

Xイノベーション本部 オープンイノベーションラボ 安崎郁生

資源循環を軸に複数の社会課題を考えることが大切

— そうしたデザイン・テクノロジー分野のプレーヤーがタッグを組み、行われたアイデアソンですが、開催を経て新たな気づきや発見したことがあれば教えてください。

濱田:アイデアソンはグループ対抗形式で行うことが多いけれど、今回はフードロスにちなんだ異なるテーマをグループごとに設定し、それぞれにアイデア出しをしました。多岐にわたるアイデアの創出を一番の目的に、各チーム2案ずつ発表としたこともポイントです。結果、1つ目と2つ目の視点はできるだけ離そうなどの考えが生まれ、グループの中でもアイデアが広がりを見せたように思います。

藤木:私も1案だと全員の意見を取り入れた、当たり障りのないものが生まれやすいが、2つにしたことでとがったアイデアが出てきたと感じています。印象的だったのは、スマート眼鏡を付けて自分がどのくらい食べたら満足するかを測れるようになり買い過ぎによるフードロスを削減できる案。飲食店にも情報共有することで自動的に適量の食事が出てくるというアイデアも出ていました。センシングの技術に加えて、デジタルデータが地域の社会インフラと接続し、サーキュラーシステムを実現する未来を感じさせるものでしたね。
もう1つ、アイデアとして出てきた3Dプリンタはサーキュラーエコノミーを実現させるキーテクノロジーだと思います。3Dプリンタは、リサイクルや生分解性といったサステナブルな特徴を持つ素材と相性が良く、少量生産も可能です。また、3Dプリンタが設置されていれば、ものでなくデータを送れば再現できます。イノラボのリサーチプロジェクトの一環として、そうした技術の使い道をさらに調べていきたいですね。

濱田:私が面白いと思ったのは、フードロスの問題だけを解決するのではない案がいくつもあった点ですね。例えば地域の高齢化問題が包含されている案や地産地消も解決できる案がありました。
社会課題は山積みです。資源循環の話を軸にしつつ他の問題も意識して考えていかないと、今使っている資源が別の再生資源に置き換わるだけの話になってしまいます。そうした複合的な考え方がたった一日のアイデアソンで出てきたのには、専門家の方々が一番驚いていましたよ。

安崎:私はグループワークへの参加を通じて、「SDGsには関心があるけれど、何かに背中を押されないと具体的な行動には至らない」という参加者が多いことに気が付きました。今回のアイデアソンはフードロスについて集中的に考えさせることで、参加者の”背中を押す”一つのきっかけになったと思います。実は、私自身アイデアソンに関わった日から、フードロス問題が頭に浮かび上がるようになり、食べ物を残さなくなりました。アイデアソンで一番影響を受けたのは私かもしれません(笑)。

“ステップバック”で考え、新たなアイデアにつなげたい

— サーキュラーエコノミーに関わる今後のご予定についてお聞かせください。

濱田:イノラボや他の企業の方々と一緒に、産業廃棄物、一般廃棄物、フードロスを一緒にして考えてみる「循環タッグ」のようなプロジェクトを作りたいと思っています。まずは現場で出てきた問題を吸い上げるところからですが、その後の分析やアイデア出しの段階になると、イノラボの力は効いてくるはずです。ほかにも産業廃棄物、一般廃棄物、フードロスをすべて含めた「ゴミって何だろう」という展示会の開催や、書籍の発刊、ワークショップなどのイベントを検討しています。また、現在本学が主体となって文科省の支援プロジェクトへの申請も進めているところです。

安崎:イノラボも次のステップとして「循環タッグ」に関わりながら、現場の課題感を企業や自治体とリサーチしていきたいと思っています。また、アイデアソンで得られたアイデアを基に視点を広げ、テクノロジーの観点でサーキュラーエコノミー実現へのアプローチを探求する予定です。

藤木:アイデアソンの中で、濱田先生から「今起きている問題の解決法を考えるときは、ステップバックして捉えてみよう」というお話がありました。例えば、パンを焼くには、スイッチを入れるだけのトースターがあるけれど、あえてフライパンで焼いてみて、その行為の様子を観察していくと、気づくことがある。パンを焼く際に、美味しさは何からもたらされるのか? 厚み、焼き加減、など、より立ち戻って考えることで、見えてくる気づきがある、という考え方ですね。アイデアソンでフードロスに取り組んだ次に、「循環タッグ」で「フードロスを含めた廃棄物ってそもそもどうして生まれるんだっけ?」とステップバックして考えると、また新しいことができそうな期待やワクワクがあります。
予測可能な未来ではなく望ましい未来を考えるスペキュラティブデザインの考え方に、現実社会の制約を取り入れながら新しい可能性を探ることで、現実的でかつ新しいアイデアを引き続き生み出していきたいと思います。

Xイノベーション本部 オープンイノベーションラボ 藤木隆司

ご参考資料

ISIDのオープンイノベーションラボ(イノラボ)は、先端テクノロジーを活用したサービス開発を世界に先駆けて手がけていくことを目的に、2011年に設置した研究開発組織です。社会課題の解決に向けて、生活者の行動をデザインし、先端技術を活用した仕組みを実装するべく、国内外の企業や教育機関、スタートアップとのオープンコラボレーションを推進しています。現在は「街づくり・地方創生」「ヘルスケア」「モビリティ」「食・農業」「SDGs・ESG」などのテーマを中心に、プロトタイプ開発や実証実験を通じて、新たなソリューションの創出に取り組んでいます。

 

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2022年6月更新