生産者の想いをテクノロジーに乗せて!スマート農業データ流通基盤「SMAGt」開発の軌跡をたどる

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「横浜野菜」プロジェクトを担当したメンバー。写真左から 中山晋一、鈴木貴裕、鈴木貫太

2020年1月にISIDが発表した、スマート農業データ流通基盤「SMAGt(スマッグ:SMart AGriculture Traceability)」。農作物の作付け日や育ってきた土壌、与えられた肥料、散布された農薬、収穫・出荷量、お店に運ばれてくる物流や販売の履歴に至るまで、消費者が購入する際に確認できる仕組みです。
この仕組みを裏で支えているのがブロックチェーン技術。耐改ざん性と透明性を兼ね備えたこの技術で、農産品への高い信頼性を担保し、産地偽装問題への対応やブランド価値の向上に貢献します。

2020年11月現在に至るまで、私たちはさまざまな実証実験を行ってきました。2020年5月に、横浜銀行と共同で実施した「横浜野菜」の実証販売もその一つ。横浜の地で育てられている野菜の“おいしさ”や“安全性”といった魅力を伝え、地産地消を推進することを目的とした「横浜野菜」プロジェクトの一環で行われたものです。

SMAGt開発の軌跡と「横浜野菜」プロジェクトの様子をお届けします。

SMAGtを活用した横浜野菜の実証販売

2020年5月、横浜のとあるスーパーで横浜産トマトの特別販売が行われました。Xイノベーション本部 中山晋一、鈴木貴裕、金融ソリューション事業部 鈴木貫太が関与したこの特別販売は、ISIDが開発・提供するスマート農業データ流通基盤「SMAGt」を活用した農産物販売の実証実験。横浜銀行とISIDが共同で進めている、横浜産野菜のブランド価値向上と地産地消推進への取り組みである「横浜野菜」プロジェクトの一環として行われたものです。販売コーナーには全国でも希少な品種である横浜産の高級トマト「サンロード」が並び、多くの買い物客が 足を止めていました。

2020年1月に発表したSMAGtは、ISIDがブロックチェーン技術を用いて開発したプラットフォームです。農産品の生産から出荷、流通、販売までの履歴を記録することが可能な仕組みで、消費者への情報提供や輸出規制への対応に活用することができます。

ISIDは今回の横浜野菜実証販売で、SMAGtの導入による生産履歴情報の記録・提供のほか、農産品の価値を生活者によりわかりやすく届けるために、横浜野菜の“おいしさ”や“信頼”を訴求するデザインコンセプトづくりから、商品パッケージ・店頭装飾のデザイン、プロジェクト専用のWebサイト構築までを担当しました。

農家の方の想いをデザインに

「横浜野菜プロジェクト」は、ISIDが宮崎県綾町と進めてきた“有機農産品の安全性や品質の高さをアピールする取り組み”に横浜銀行が興味を示したことを起点にスタートしています。

ISIDは横浜野菜プロジェクトの推進にあたって、農産品の生産・流通履歴だけでなく、おいしさの理由や生産者のこだわりといった裏にあるストーリーもSMAGtに記録することを提案しました。これは、ISIDが過去に実施した実証実験を通じて、消費者の継続的な購買を促すには、生産者と消費者を繋ぐストーリーも大切であるという理解がもとになっています。商品パッケージには、商品の生産履歴やストーリーが閲覧できるWebページへ誘導する二次元コードが記載されており、消費者はスマートフォンから確認することが可能です。

WebページやPOP、店内装飾のデザインコンセプトは、実際に畑に足を運び農家の方からの話をもとに制作したといいます。
「都会的で洗練された横浜のパブリックイメージと農家さんのこだわり。双方をあわせてデザインすることで、非常に魅力的な野菜ブランドができるのではないか——。ヒアリングを経て生まれたブランドコンセプトが、“横濱デリシャスプルーフ”です。地元でとれた野菜の“おいしさ”と、データで担保される“信頼の証”をブランド名に込め、“横濱”という旧漢字には、赤レンガ倉庫をはじめ横浜の街並みに残る明治時代の香り、歴史のイメージを持たせています。トラディショナルな雰囲気を大切しながら、横浜に憧れをいだく人、横浜が好きな人に、“横浜産の野菜だから手に取ろう”と思ってもらえる、そんな洗練されたイメージを大切にしました 」(鈴木貴裕)

実証販売は予定数をほぼ完売。購入者の3割を超える方がWebページへアクセスしていることがわかりました。Web上のアンケートでは、購入動機に関して「横浜産(地元産)のトマトだから」「生産者の顔や名前を確認できて安心だから」という声が多く聞かれ、SMAGtによる情報流通の仕組みが、農産品のブランド力向上と、販売向上に一役買うのではないかと期待されています。

「今回の横浜野菜プロジェクトでは横浜銀行のお客さまである、地域の農家さんの“野菜を手間暇かけてつくっても、価格に転嫁されない”といった課題に対し、私たちに何ができるかと考えた結果、SMAGtの提供・デザイン制作に至りました。実際にトマトの売れ行きも好調で、横浜産野菜の品質の高さもアピールできたと思います。 地域金融機関では、その地域の経済の要という重要な役割があり、地域活性化のための施策を今後も多く展開していくでしょう。その一つとして、 SMAGtを活用し、 その土地の農産品のブランド化に貢献していきたいですね」(鈴木貫太)

各地で実証実験を重ね、地域の課題解決に貢献

SMAGt開発のきっかけは2016年の宮崎県綾町との実証実験まで遡ります。
「2016年当時、ブロックチェーン技術は金融分野での活用が中心で、非金融分野での活用は進んでいませんでした。しかし、私たちはブロックチェーン技術というのは“改ざんを困難にしながら完全なデータ更新履歴を保管する”という真正性と可塑性、そして、“管理者不在でも運用可能なアーキテクチャ”といった透明性を兼ね備えており、トレーサビリティの管理に適した技術だと考えたのです」(中山)

地域農産品のブランド化は以前から取り組みが進んでいましたが、その裏側では常に産地偽装の問題があり、その対策に決定的な解決法がありませんでした。また、SDGsが社会に浸透し、生活者の消費行動においても、世界の持続性を考えた賢い消費、いわゆるエシカル消費への関心が高まっている状況もありました。
「私たちはその流れを受け、ブロックチェーン技術を用いて、有機農産品の生産・流通履歴の可視化、安全性・品質の高さを消費者にアピールする仕組みの開発に着手したのです」 と、SMAGtの開発を主導してきた中山は振り返ります。

その後、多くの自治体や企業の方々の協力のもと、実証実験を繰り返します。

2019年には、福島県広野町で実証実験を行いました。福島県広野町は、東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故により、農業と観光に大きな被害を受けましたが、その再生に向け、町の新たな特産品として国産バナナの栽培に2018年から取り組んでいます。
「東北地方で南国フルーツを、しかも農薬を使わずに栽培するというチャレンジのため、非常に苦労をされている様子を拝見しました。福島産ということで心配をされている方々に、安心安全なものを届けたいという思いに対し、それをデジタル技術で証明することによって後押しできないかと考えての取り組みでした。生産者の方には栽培期間中に日々の作業記録を登録してもらい、販売の際にはその記録を多くの方にみていただき安心安全であることを確認して購入いただくことができました」(中山)

「とっとり旬菜マルシェ」の様子

2019年10月、11月に大阪の中之島で開催された「とっとり旬菜マルシェ」でもSMAGtを活用した実証販売を実施しました。鳥取県では梨のリレー栽培といって、品種を変え一年中梨を栽培しています。それぞれの梨は栽培方法も違えば、味の特長も違う。それぞれの梨のアピールポイントをSMAGtに乗せて消費者へ届ける取り組みを行いました。
「このときに新しく開発したのが、農家のこだわりや先進的な栽培への取り組みなどを消費者にお届けする機能。栽培の裏にあるストーリーを付与することで、生産者のファンを増やすことが可能になると考えました」(中山)

その後、鳥取県の梨はマレーシアへ。SMAGtは海を渡り、海外でも好評を得ることができました。
「異国の地である日本ですが、食品に対する評価は元々高いので、ただ品質が良いというアピールだけでは同じ日本産の食品には勝てません。そんな中で、生産から流通までを一貫して管理されていることは販売店のバイヤーにとって大きな魅力だと伺いました」

農業とIT、デザイン。その先にあるものは?

数多くの実証実験を経てきたSMAGt。今後どのような展開を見せるのでしょうか。

「今後は、生産者と消費者はより個人でつながる時代になっていくと思います。コロナによって、人と人との、個人的なつながりの大切さを実感したからこそ、今回の農家さんの様な、真摯に野菜作りを行っている生産者を応援したいという思いなども強くなってくるでしょう。その時に、彼らの信頼性を担保するSMAGtの様な仕組みは、今後益々活きてくるのではないかと思います。 また、その様なアプローチを通じて生産者のファンコミュニティが生まれた際には、消費者がスムーズに商品を再購入できる仕組みや、生産者と消費者が感謝を伝え合う仕組みなど、地産地消を“心地よく”促進するためのデザインに発展できる可能性もあるのではないかと思います」(鈴木貴裕)

「生産者の想い・こだわりを生産から消費の現場までデジタル技術で証明して届けられるプラットフォームは、従来のサプライチェーンには無い価値を持っています。 今後はユーザーの手間をもっと減らし、快適にデータを記録・管理できる仕組みに進化させること、また、自社のシステムとの連携によってより幅広い領域でトレーサビリティを保証する仕組みにし、あらゆるものの安心安全を届けるのに貢献していきたいと思います」(中山)

 

2020年11月更新

 

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