WEBアプリで広島被爆電車プロジェクトのライブ配信を支援
~コロナ禍の今だからできる平和のメッセージの形~

  • クラウド/IT基盤

「被爆電車特別運行プロジェクト」は、広島の被爆70年の節目となる2015年に始まった、中国放送と広島電鉄による共同プロジェクトです。 毎年7~8月に被爆当時の塗装を施した路面電車「被爆電車653号」を運行するとともに、車内では被爆当時の惨禍や復興エピソードの映像を上映。 全国から集まった多くの乗客は当時に思いを馳せ、車窓に広がる現在の風景を見ながら平和の大切さを実感する機会となっていました。 被爆75年にあたる今年、ISIDはこのプロジェクトの社会的意義に共感し、技術支援を行うこととなりました。 今年は車内で映像を流すだけでなく、乗客の年齢層に合わせた内容を手元のスマホで補足したりするなど、最適な情報を最適な方法でお届けしたい—— そう考えていた矢先に新型コロナウイルスの感染が拡大、一時はプロジェクト中止も検討されました。 しかし、コロナ禍だからこそ世界に向けて平和のメッセージを発信する意義があるはず。協議の結果、乗車体験を中止して無乗客の被爆電車を運行し、 ISIDは乗車の疑似体験ができるWEBアプリの開発とライブ配信の支援を担うこととなりました。8月6日・9日に行われた被爆電車の運行と配信を、 どのような思いで支えたのか、開発を担当したISID Xイノベーション本部 西川敦に話を聞きました。

未来につながるバトンを受け継ぐ重み

—「被爆電車特別運行プロジェクト」に携わることになったきっかけについて教えてください。

2020年1月、別案件の打ち合わせで広島電鉄を訪問したことが最初です。私は鉄道での旅が好きで、車両や設備などの技術にも興味があり、打ち合わせ中にもそのようなお話をしたところ、広島電鉄の担当者から「今、中国放送と共同で被爆電車を走らせるプロジェクトをしているので、この件でもご一緒できたら良いですね」と、お声がけをいただきました。そして、「実際に見てみますか?」と、車庫に眠る被爆電車653号を見せていただいたのです。

「被爆電車プロジェクト」は2015年に中国放送と広島電鉄が被爆70年の節目に始めたもので、被爆3日後に走行を再開した広島電鉄の路面電車650形のうち「653号」を、当時の灰色と紺色カラーに復刻し特別運行を実施、5年間で約2,700名が体験乗車をしています。

被爆電車653号の車体には、昭和17年製作と記されていました。戦時中に製造され、戦争にも、原爆にも負けずに走り続けた車体。2006年まで広島市内を現役で走り、広島の復興と繁栄を見届けてきた列車です。車内に入ったときには、この電車に乗った当時の人々の思いを想像せずにはいられませんでした。そんな車両の歴史の重さに心を打たれ、「このバトンを、未来につなげていかなければいけない」と、強く感じました。

毎年7~8月の広島原爆の日前後の土日に実施されている被爆電車653号の運行は、車内に設置してあるモニターから被爆と復興に関する貴重な映像が流れます。ここでISIDの技術が、何らかの形で貢献できるのではないか。そう考え、その場で「ぜひとも乗客の体験価値を上げるための、お手伝いをさせてください」とお伝えしました。

被爆電車653号

コロナ禍だからこそ、「平和」を世界に発信

—新型ウイルスの感染が拡大する中、プロジェクトはどのように進んだのでしょうか。

歴史ある特別な電車の乗車体験と車内で上映される映像。これまでに体験されたお客様の中には、映像の視聴に集中しすぎて車窓からの“原爆ドーム”を見逃してしまうこともあったようです。「映像と体験のどちらも乗客にとって印象的なものにしたい」と考えました。当初は、運行ルートに合わせたショートストーリーを手元で再生しながら、乗客それぞれが好みのペースで視聴できる乗車体験のアシスタントとなるアプリを計画。2020年1月から開発に着手していました。

そんななか、新型コロナウイルスの問題が立ちはだかり、計画は一変。緊急事態宣言を受け、今年は中止にせざるを得ないのではないかという声も多く聞かれるようにもなりました。

しかし、ここで中止を決めてしまったら、終戦から75年という節目の年に何もできません。それが非常に残念で、中止も視野に入れた議論の場で、「コロナ禍だからこそ、戦争にも原爆にも負けなかった被爆電車を走らせることが、広島の街にとって大きな希望になるはずです」とお話させていただいたんです。中国放送・広島電鉄のご担当の方々もこの意見を受け入れてくださり、プロジェクトの続行が決定しました。

再検討の末に決定したのは、乗車体験を中止したうえで被爆電車を走らせること。そして、車内にカメラを設置し、その映像を世界に配信すること。さらに、映像なども含めた疑似乗車体験ができるアプリを公開し、誰もがこのプロジェクトに参加できるようにすること。ISIDは、このアプリ開発とライブ配信支援を担当することになりました。

映像とウェブをつなぐISIDの技術

——今回開発したWEBアプリはどのようにリモートで乗車体験を提供するのでしょうか?

運行当日のライブ配信は「ひろでんビュートラム」というWEBアプリで行います。このアプリは被爆電車653号に載せたネットワークカメラの映像とともに、広島の3D地図上にGPSで測定した電車の走行位置が表示されます。電車が走行している場所に合わせ、被爆当時の広島の様子や復興の軌跡、広島市内の子供たちが描く“ひろでんがある風景”の絵が地図上に現れる仕掛けも作りました。75年前に思いを馳せながら、アプリを見ている人全員で広島の街を走る体験をリアルタイムで共有できる、新しい演出です。

プラットフォームには、特別なアプリをダウンロードせずに一般的なブラウザー上で作動するWEBアプリを採用しています。スマートフォン、タブレット、PC、どのデバイスでも同じ感覚で使えますし、3Dの表現の微細さや動きの滑らかさは専用のアプリと比べても遜色ありません。また、GPSで測定した走行位置とカメラ映像を表示するタイミングのズレ解消など、映像技術とウェブ技術とを簡単かつスムーズに融合させるインターフェースも意識しました。

撮影は、ISIDが開発中のネットワークカメラ「ミエルカム」を活用します。このカメラにはSIMカードを内蔵しているので、スマートフォンと同じ通信回線を使って遠隔操作が可能です。車内に置いておくだけで、どこからでも映像が視聴できるほか、カメラの首振りやズーム制御も行うことができます。

アプリでは車窓からの映像と3D地図上の走行位置が2画面で見れる

被爆当時の広島の様子や復興の軌跡が地図上に表示される

新しい体験やサービスの創出を

——当日の配信について視聴者からどのような反応がありましたか。

今回は被爆した当日の8月6日と被爆後に路面電車の一部運行が再開した8月9日という非常に意義ある日に被爆電車が走らせることができました。さらに今回はどこからでもこのプロジェクトに参加することが可能なため、多くの方にWEBアプリで乗車体験をしていただき、みんなで平和の祈りをささげられたと思っています。車窓の映像と地図をシンクロさせて同時に体験できるようにしたことで、広島の街に詳しくない方でも今、被爆電車がどこを走っているか、そこにかつてどんなエピソードがあったのかわかりやすかったと好評をいただきました。

——このWEBアプリケーションを今後どのように育てていきたいですか?

コロナ禍に加えて、地震や風水害など、地方の鉄道が大きな打撃を受けたニュースが続いていて、実際に自分自身が訪れたことのある場所も多く被災していたりと、とても心を痛めています。

最近は各地の鉄道会社が、その地域や路線の魅力を活かした観光列車を走らせていて、窓の外を流れる美しい景色を眺めながら、土地の名産に舌鼓を打つ機会も増えてきていました。そうした取り組みにも、なんらかの形でお手伝いができればと願っています。 情報を伝える仕組みだけでなく、地域の方自身が、より簡単に、よりいい形で自然に情報発信ができるインターフェースを作り出していくことが理想です。

今回のコロナ禍は突然に起こった、不測の事態でした。多くの人に来てほしくても呼べない、行きたくても行けないといった状況が続くなか、様々な企業や自治体が新たな繋がりを求めて新しい体験やサービスを模索しています。そんな方々の思いに寄り添い、今後もIT技術で“新しい体験のあり方”を提供できたらと考えています。

運行当日の様子

 

2020年8月更新

 

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