本来動かないものが動くと何が生まれるか
~植栽展示会「CONNECT」で見えてきた“動く植栽”の可能性~

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ISIDのオープンイノベーションラボ(以下 イノラボ)は2月18日から21日まで新木場で開催された植栽展示会「CONNECT」で、自律移動ロボットを用いた“動く植栽”の実証実験を実施しました。本来動かないものが自律的に動くことで、どのような価値が生まれるのか。イノラボが取り組むサービスロボットの開発についてイベント当日の様子と共にお送りします。

グリーンディスプレイとの出会い

イノラボでは、本来動かない物が動くことで、人々の生活をより快適にしたり、環境や景観に好ましい変化をもたらす可能性に着目し、自律移動ロボットの技術研究開発を進めています。
参考:ロボット技術を身近なものに活かす、ISIDイノラボの挑戦!

その第一弾として取り組み始めたのが「動く家具」プロジェクト。アプリケーションの開発にあたり、利用用途やもたらす可能性について議論を進める中で、「オフィスや商業空間に設置された植栽が動くと、人の作業効率を高める効果が期待できるのでは」というアイデアが出てきました。例えば、ワークスペースで人と人の間に植栽が入り、お互いの視線が気にならないようにしてくれたり、部屋の片側は打ち合わせスペース、もう片側は自習スペースなどの仕切りの役目になってくれたり。しかし、実際に植栽が動くことに、どれほどニーズがあるのか。ヒアリングを行うために紹介してもらったのが、植物を用いた空間設計を手掛ける株式会社グリーンディスプレイでした。

「動く家具」プロジェクトのコンセプトやその家具を植栽に置き換えるアイデアについて話をしたところ、グリーンディスプレイでも植栽・内装にIoT・VRなどの先端技術を活用する取り組みを進めていることもあり、非常に興味を持ってもらうことができました。そして、2020年2月にグリーンディスプレイ主催の植栽展示会「CONNECT」が行われるということで、展示に伴う公開実証実験へと発展したのです。

CONNECTでの展示に向けて

グリーンディスプレイの狙いは、植栽が自律的に動くことで、人と植物の関係性をペットのようにより密接なものにできたり、人と人とのコミュニケーションツールになったり、今まで以上に植物が空間に欠かせないものにならないかというもの。植栽が自ら動き、光や水を補給しながら成長することで、人にとっても無機質なものでない有機的な植物と接することによる癒しや空間に心地よさが生まれ、双方にとっての気持ちの良い空間づくりが可能になるのではないかと考えたのです。さらにバイオフィリックデザイン(生命や自然との融合を重視したデザイン思想)の提案としても今後生かしていけると感じたといいます。

一方で、イノラボでは従来から開発してきた自律移動ロボットを今回の展示を機にバージョンアップし、新しい技術検証を行いたいと考えていました。それは高精度な自己位置推定技術。これまでに開発してきたロボットアプリケーションでは、LiDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれる、照射した光の反射により周囲との距離を測定する手法を用いて自己位置推定を行っていました。しかし、複数のロボットが同時に動く環境では、他のロボットが「動く障害物」と認識され、ロボットにとっては周囲との距離が目まぐるしく変化しているように見えてしまいます。そのため、自己位置推定がうまくいかず、期待するような位置精度が出にくいという壁にぶつかっていました。また、これまで用いていたLiDARではそれぞれのロボットが発する光が干渉してしまい、正しい距離が得られない問題もありました。そこで今回は不可視マーカとタイヤの回転数から自己位置を推定する技術を活用することにしたのです。不可視マーカとは人の肉眼では見えないマーカのことで、赤外光を出力する専用装置に映しだされた画像をロボットに搭載したカメラが認識することで大きさや位置、角度などから自己位置を推定します。また、ロボットに取り付けられたモーターセンサーでタイヤの回転数を測定し、移動距離を把握することで、さらに高精度な自己位置推定を可能としました。自律移動ロボットの駆動部・筐体、ならびに不可視マーカのプロトタイプ制作に合同会社インテリジェント・ロボット・テクノロジー、マーカの認識・位置制御ソフト部分に株式会社キビテクというロボット技術に長けた強力なパートナーも加わり、実装をスムーズに進めることができました。

これによりISIDとグリーンディスプレイはCONNECTの展示で、「人が多く往来する中で、自己位置推定技術が正確に機能するか」「会場の雰囲気を損なうことなく来場者の動線を確保できるか」そして、「植栽が光を求めて動くことで来場者にどのような印象を与えるか」を検証することにしました。

人の目にはなにも見えない不可視マーカ

カメラが捉えたマーカの様子

植栽に搭載されたカメラ

当日の様子

“動く植栽”は、グリーンディスプレイが手掛けた緑化アイテムが立ち並ぶ中、開催期間を通して、会場内を500回以上巡回。会場は人が多く往来するため不可視マーカと動く植栽を遮ったり、時間帯によって照明や入り込む日差しが変化し、読み込むマーカの光が異なって見えるなど、停止位置の精度を左右する要因が複数ありましたが、今回はその影響下でも不可視マーカを用いて1度も位置を誤らず、目的位置に停止させることができました。停止位置の精度は、カメラで捉えられる画角と解像度、マーカまでの距離によって変わりますが、今回は市販のWEBカメラとそれに装着する特殊なフィルターを利用し、期待通りの精度で停止。実地での運用に足ることがわかり、安堵しました。
さらに、停止位置だけではなく、プランターに搭載した小型パソコンの処理能力と植栽の重量などのバランスやバッテリー性能に関する知見も得られ、今後の自律移動ロボットの開発に応用していく予定です。 検証項目の1つであった、人の動線を区切ったり確保したりするアクションについては、新型コロナウィルスの感染拡大により、実験予定のセミナーが中止となりましたが、会場の設営中に植栽が動き回る中、人が歩くルートを逐次変えることが確認できました。別の屋内展示において、これらを主眼においた検証を実施したいと思います。

来場者の反応

会場では様々なお客様の反応に触れました。最初は動く植栽を見て、「これはなんだ?」と反応される方が大半でしたが、慣れてくると「おいでおいで」と声をかける人が現れるなど、生き物のように感じてくださっている様子を観ることができました。また、植栽にスピーカーを搭載して音楽を流して欲しいというご要望もあがり、動くインテリアと捉えられているようにも見えました。 これは私たちも想定していなかったことですが、アンケート結果から、葉のボリュームがある植栽が動くと動きがコミカルで和む・癒されるという感想や、空間に飽きず常に新鮮味を感じることができるという意見があり、植栽が動く新たな価値が見えてきました。

今後は、ロボット自身が、そこに存在する人や置かれた場所によって自らの動きを変化させ、空間の快適性を高める技術をさらに研究・開発していきたいと思います。しかしながら、実際の家具や内装に実装するためにはグリーンディスプレイのようなパートナーの存在が欠かせません。多くの人たちの知見を結集し、自律移動ロボットによる「静物が動く価値」を探求していきます。

来場者が動く植栽に近づく様子

2020年4月更新

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