本田技研工業株式会社 AI人材育成プログラムで時代の荒波を乗りきる技術力を育む

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写真左より 本田技研工業株式会社 大玉千香子氏、鈴木拓也氏、谷川裕樹氏、大久保勇三氏、中村聡氏

世界初のレベル3自動運転システムを搭載したクルマ、世界一の出荷台数を誇るバイク、カテゴリートップのデリバリー数を達成している小型ビジネスジェット機など、高い技術力を世に示す本田技研工業(ホンダ)。2021年4月、同社はカーボンニュートラル社会を見据え四輪車の新車販売を100%電動車とする事業計画を発表し、2040年の目標達成に向け、変革の流れを加速させています。こうした動きと同調し、ものづくりの現場でもエンジニアリング力強化の取り組みが活発化。車両性能の構築・検証を担う完成車開発統括部車両開発三部ではその効率を高めるため若い世代を中心にしたAI教育が始まっています。そこで採用されたのはISIDの提供するAI人材育成ソリューション“HUMABUILD(ヒューマビルド)”。AIの基礎知識から活用法、そして実務への展開まで、コンサルタントやデータサイエンティストの指導のもと段階的にスキルを身につけていくためのソリューションです。導入を進めた同部チーフエンジニアの中村聡氏は「これからのクルマづくりでは、データドリブンな開発が求められます。そこで武器になるのがAI。今回採用したISIDのAI人材育成ソリューションは、性能検証の現場でAIの技術を使いこなす人材を育てるのに役立っています」と話しています。

100年に1度の激震

ISIDのソリューションは、現場でAIの技術を使いこなす人材を育てるのに非常に役立っています

本田技研工業株式会社
完成車開発統括部
車両開発三部 NV・車体剛性開発課
チーフエンジニア 中村聡氏

「単なるはやり言葉ではなく、まさに100年に1度の大変革期」と話すのは本田技研工業(ホンダ)の完成車開発統括部車両開発三部で静粛性や車体振動、剛性の性能構築から検証を指揮する中村聡チーフエンジニア。「100年に1度の大変革期」とはいま自動車業界を襲うパラダイムシフトのこと。増え続けるCO2排出によって激化する気候変動を背景に世界の先進諸国はカーボンニュートラル政策を推し進め、自動車業界でもガソリンエンジン車からEV(電気自動車)への急激な転換が始まっています。

ホンダは2021年4月新たに経営トップに就いた三部敏宏社長が2040年までに新たに販売する四輪車のすべてをEVとFCV(燃料電池車)とする事業計画でハイブリッド車も含めたガソリン車をなくすという国内メーカーでは初の目標を発表。社内各部門はその実現に向けた取り組みを活発化させています。

「これまでにもいろいろな環境変化を経験しましたが、今回はまさに激震。対応するためには力のある人材を育てていかなければなりません」と中村氏は話します。

独学では至難の業

座学で学んだことを実務で深めていく方式がとても効果的でとくにPythonのハードルが下がりました

同 完成車開発統括部
車両開発三部 車両運動性能開発課
アシスタントチーフエンジニア
大久保勇三氏

こうした流れのなか、2019年、車両開発三部ではクルマの性能検証へのAIの導入が議論されていました。「若いスタートアップが次々と参入してくるEV市場で戦うにはデータドリブンな開発 が不可欠です。データを最大限に活かすという意味でAIが武器になるだろうと考えていました」と中村氏は話します。

部内には独学で機械学習を業務に試すエンジニアもいましたが、多忙な業務の合間にAIの技術を広く身につけることは至難の業。一言でAIと言ってもそこには統計学や多変量解析、機械学習などの知識、そしてプログラミング言語Pythonのコーディングスキルなどが求められます。それらを初歩から体系的に学ぶための教育メソッドが必要でした。

実務に即した実践的なソリューション

AIを活用してより上流から性能予測ができるようにデータ管理の仕組みを変えていきます

同 完成車開発統括部
車両開発三部 車両構造信頼性開発課
スタッフエンジニア 大玉千香子氏

教育メソッドを模索していた中村氏らの目にとまったのはISIDの“HUMABUILD(ヒューマビルド)”。AI初心者のために基礎から実践まで段階的にスキルアップを促すAI人材育成ソリューションです。「単に知識だけでなく、実務に即してAIの活用法を学べ、さらにその先を求めればより高度な技術と手法も指導してくれる点が魅力的だった」と中村氏はHUMABUILD選択の理由を語ります。

HUMABUILDは講義・演習のLEARNフェーズ、テーマ設定のためのTARGETフェーズ、実現性検証のCHALLENGEフェーズ、システム開発のBUILDフェーズの4つのフェーズに分かれており、入門に当たるLEARNフェーズではAIの基礎知識の講義や演習を行います。

TARGETフェーズではISID独自のテンプレートに基づくテーマ発案や選定、実行計画の具体化などを通して、受講者はAIプロジェクト立ち上げのノウハウを身につけることができます。

CHALLENGEフェーズでは、実課題をテーマとしISIDのコンサルタントやデータサイエンティストが併走しながらPBL(Project Based Learning)形式でプロジェクトの実行や実現性検証を支援。受講者はAIプロジェクトの実際の進め方やアルゴリズムなどの技術に触れながらAIの活用法を学びます。

さらにBUILDフェーズでは、業務変革や効率化のためのAIシステムを共に開発。クラウドアーキテクトの育成などAIだけでなくDXに関わる広範囲な支援も必要に応じて行われます。

2019年11月、社内の承認を得た中村氏は各課から志願者を募り、HUMABUILDによるAI人材育成を始動させました。

育つ精鋭部隊

物理モデルと統計モデルをAIでつないで性能検証の技術をさらに掘り下げていきます

同 完成車開発統括部
車両開発三部 車両運動性能開発課
アシスタントチーフエンジニア
鈴木拓也氏

現在、同部ではHUMABUILDのCHALLENGEフェーズを一通り修了。若手エンジニアがAIの基礎教育と実践指導を受け、先行するプロジェクトにおいては、システム開発のBUILDフェーズに入ろうとしています。

受講者のひとり、車両運動性能開発課のアシスタントチーフエンジニア大久保勇三氏は今回の教育プログラムについて「座学で学んだことを実践していく方式がとても効果的で、特にPythonを使いながら体系的に学んだことで、自分の中でのプログラミングに対するハードルが下がった。検証する際には壁にぶつかることもあったが、ISIDのデータサイエンティストから効果的なフォローやアドバイスが貰えたので、課題解決に向けて着実に前進することができた実感がある」と話しています。同氏はいま機械学習とCAEを組み合わせた車両挙動予測システムの開発に挑んでいます。

今回の教育プログラムでAIプロジェクト推進のノウハウがつかめたと話すのはデータ処理の最新トレンドを学んだ車両構造信頼性開発課のスタッフエンジニア、大玉千香子氏。「今後はAIを活用してより上流から車両の性能予測が行えるようデータ管理の仕組みを変えていきたい」と意気込みを語ります。

車両運動性能開発課のアシスタントチーフエンジニア、鈴木拓也氏は「独学でPythonを学び性能評価に応用していたが、コーディングに不安を感じていた。しかし、今回の教育プログラムでその不安が払拭できた。今後は、物理モデルと統計モデルをAIでつなぎながら性能検証の技術をさらに掘り下げていきたい」と意欲を見せます。

中村氏と共にAI人材育成を推進したNV・車体剛性開発課アシスタントチーフエンジニアの谷川裕樹氏は、「教育プログラムに参画したことでAI活用のイメージが明確化できた」と話します。「以前はAIといっても漠然とした印象でしたが、今回の活動を通してそれがより具体的になりました。これまでの開発によって蓄積された膨大なデータに注目して性能を構築することで、新たな気づきが得られると思います」。

AIを当たり前に使う時代

以前は漠然としていたAIが今回の教育プログラムでより具体的にイメージできるようになりました

同 完成車開発統括部
車両開発三部 NV・車体剛性開発課
アシスタントチーフエンジニア
谷川裕樹氏

近年、製造業だけでなく多くの産業分野で活用が広がるAI。これからは実務にAIを用いることは当たり前になるだろうと中村氏は予測します。「そのときこの技術は知りませんと言っていたのではもう遅い。今回のソリューション導入の根本的な動機もそこにあります」。

「かつてCAE技術と格闘して基礎を築いてくれた先輩たちがいたから、いまの私たちの仕事がある」と続ける中村氏。「同じように若いエンジニアたちにはAIと真剣に格闘してもらいたい。それがこれからのホンダの競争力につながっていくはずです」。

最後に中村氏は今回のAI人材育成ソリューションの評価についてこう語りました。「ISIDには教育だけではなく、分析基盤やデータ環境構築など、AIを業務へ適用するまでに必要なシステムまわりも相談 することができ、常に最適な人材を投入してくれます。今回採用したISIDのソリューションは、現場でAIの技術を使いこなす人材を育てるのに非常に役立っています。今後もデータ環境構築の取り組みなどで知恵をお借りしたいですね」。

2022年2月更新

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社名
本田技研工業株式会社
本社
〒107-8556 東京都港区南青山2-1-1
設立
1948年9月
売上
13兆1,705億円(2020年度/連結)
資本金
860億円
従業員
211,374名 (2020年度/連結)
主要製品
2輪車、4輪車、パワープロダクツ
  • 記載情報は取材時(2021年12月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。

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