ヤマハ発動機株式会社 iQUAVISで二輪エンジン適合業務を高度化

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1955年、日本楽器製造株式会社(現 ヤマハ株式会社)の二輪製造部門が独立するかたちで誕生したヤマハ発動機。浜名工場で開発した初代バイク「YA1」がその年の第一回全日本オートバイ耐久ロードレースでいきなり優勝。以来、モーターサイクル業界の雄として存在感を示し、2020年現在、世界で市場シェア第2位を誇るまでに成長しました。近年の稼ぎ頭は東南アジア市場。しかし、ASEAN諸国は排ガス規制が強化され、性能と環境特性を両立させた製品をタイムリーに市場に出していくことが日々難しくなっています。それぞれの国で異なるニーズや環境規制に合わせてエンジン特性を調整し、最適な製品に仕上げて送り出す仕事が適合業務。以前は熟練エンジニアの専門領域であったこの業務を見える化するため、ヤマハ発動機はISIDのiQUAVIS(アイクアビス)を導入。技術伝承はもとより、適合業務の高度化、工数の削減にも成果を挙げています。「iQUAVISはもはや欠かせない戦力。これなしでは仕事が進みません」と同社エンジン適合部隊のグループリーダー、染矢陽氏は語っています。

見えないノウハウ、膨らむ工数

「このままだとやりきれない、一度整理しなくては」。ヤマハ発動機パワートレイン部門でエンジン適合の部隊を指揮する染矢陽氏は、2012年当時の切迫感をそう語ります。
エンジン開発では、燃費効率や排ガス規制といった厄介な要件をクリアしながら、ハイパフォーマンスとローコストを追求していかなければなりません。そこでは互いに相反する要件を満たすように、実験や経験によって得られた最適な制御パラメータをECU (電子制御装置)に設定していきます。それがエンジン適合です。

もともとこの仕事は熟練エンジニアの専門領域。「エンジン開発を知り尽くした熟練エンジニアが“個人商店”のようにやっていた」と染矢氏は振り返ります。しかし、そのために担当者ごとにやり方が異なり、時には手戻りも発生していました。
「また、熟練エンジニア自身、自分のもつ暗黙知を伝えるのはなかなか難しく、技術の習得は徒弟制度のような雰囲気でした」と染矢氏は話します。

折しも会社は旺盛な需要を見せる東南アジアにリーマンショック後の成長の活路を見出しており、それぞれの国のニーズに合わせた新型モデルの投入を決定。インドネシア、タイ、ベトナムなど、国ごとに異なる排ガス規制の問題や各国のニーズに合わせた新たなモデルの開発など、適合業務の工数は増加傾向にありました。

プロセスを見える化、工数削減に威力

パイロットプロジェクトで適合業務の工数を20%削減することができました。

ヤマハ発動機株式会社 パワートレインユニット パワートレイン開発統括部 燃焼システム開発部 FIグループ グループリーダー 染矢陽氏

「とにかく熟練のノウハウを明文化し、誰でもわかるかたちにしたかった」と話す染矢氏。それがiQUAVIS導入を決める動機にもなっています。
iQUAVISは、ISIDが製造業向けに提供している開発の見える化ツール。国内大手自動車メーカーやサプライヤーをはじめとした製造業各社の開発現場で適用されています。

その特長は、技術と業務の両方を見える化できること。 機能要件と構成要素をロジカルに紐付けし、変更時のリスク、技術間の背反関係などをツリー形式やブロック図などで自動表示することができます。これを用いることで品質や機能評価の抜け漏れを防ぐことができるほか、作業手順やプロジェクトの日程管理にも力を発揮します。

2012年、染矢氏らはISIDのコンサルティング部隊であるITIDにサポートを依頼。適合業務プロセスの整理に着手します。翌2013年にパイロットプロジェクトを実施したところ、結果は良好。「iQUAVISを活用したおかげで、細かい仕様変更が起きた際でも、どの評価に影響が及ぶか一目でわかるようになった。その結果、適合業務の工数を20%程度削減できた」と染矢氏は話します。

全プロジェクトに適用、専任者を配置し自走へ

以来、エンジン適合部隊ではiQUAVISの活用が進み、現在ではすべてのモーターサイクルエンジン適合にこのツールが用いられています。「排ガス規制の大きな変更や新たなタスクの追加があると、業務プロセスのベースラインを更新していかなければならないのですが、その甲斐は十分あります」と染矢氏は話します。「エンジン適合の一連の業務プロセスがiQUAVISに収められていて、新人でもこれを見れば次のプロセスやタスクの進捗状況、評価の影響範囲がわかる。スタンダードな手順へのリンクもあり、情報ハブとしても非常に有効です」。

iQUAVISはもはや欠かせない戦力。これなしでは仕事が進みません。

染矢陽氏

ほかにも、委託企業・関連部門との情報共有や、海外開発拠点とのコラボレーションに効果が出ていると染矢氏は話します。「iQUAVISはもはや欠かせない戦力。これなしでは仕事が進みません」。

こうした成果を受け、同部隊では2017年からiQUAVISの専任者を配置。サポートなしで自走する体制を整えています。

コロナ禍のなかクラウドも視野に

業務プロセスのベースラインを綿密に練りあげ、市場変化に合わせてそれを更新していく苦労を重ねてきた適合部隊。そこには思わぬ収穫もあった、と染矢氏は打ち明けます。「iQUAVISを活用することで、“ばらし”という手法が社内に根付いている。iQUAVISと違うところでもプロジェクト内の課題を解決する際に技術や業務をばらし、それぞれがどのようにつながるかを考える、これはITIDのコンサルティングがあったからこそだと思っています」。

そして2020年、世界のあらゆる暮らしとビジネスに突如として降りかかった難題、コロナ禍。染矢氏の部隊でもニューノーマルな働き方に向けて新たな施策を考えているといいます。

「iQUAVISには私たちのエンジン適合のノウハウが詰まっているため、導入当初はセキュリティ面を考慮し、会社のファイアウォール内に構築しました。しかし、今後はコロナ禍における人との接触低減に加えて、社員の多様な働き方にも対応していかなくてはなりません。ISID・ITIDには今後も支援いただきながらクラウド化も検討していきたいと思っています」。

また、実験データから統計モデルを作成し、このモデルを活用して効率的に適合を行う“モデルベース・キャリブレーション”についても染矢氏は触れました。「ものづくりの世界ではデジタル主導で品質とコスト効率とスピードをあげていくMBSEの手法が注目されています。近い将来ですが、適合業務もこの流れに乗っていかなければならないでしょう。おそらくそこでもiQUAVISは有効な情報ハブとして役立ってくれるのではないでしょうか」。

2020年11月更新

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社名
ヤマハ発動機株式会社
本社所在地
静岡県磐田市新貝2500
設立
1955年7月1日
資本金
859億5百万円(2020年6月末現在)
売上高
1兆6,648億円(2019年12月期/連結)
従業員数
55,255人(2019年12月末現在/連結)
事業内容
ランドモビリティ事業、マリン事業、ロボティクス事業、金融サービス事業、その他
  • 記載情報は取材時(2020年9月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。

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