ダイダン株式会社 IoTを活用したビル制御のクラウド化で建築設備の常識を塗り替える

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写真左より 前園武氏(ダイダン株式会社 技術研究所 IoT推進課)、熊尾隆丈氏(同 技術研究所 IoT推進課 課長)

電気、空調、水道衛生など、ビル設備の設計施工を一括受注する総合設備工事会社、ダイダン株式会社。建築設備のサブコントラクターとして常に業界上位を占め、特に病院等の医療施設でトップシェアを誇る同社は、未来を見据えた革新的な研究開発でも知られています。2019年7月、同社は空調や照明といった設備機器をコントロールするビル制御盤を、これまでの各建物内に構築される制御装置から、クラウド上に構築したソフトウエアへと変えた「REMOVIS(リモビス)」を発表しました。業界初のこのクラウド型ビル制御システムは、施工の効率化のほかリモートによる保守整備や複数ビルの一括管理など、これまで考えられなかった多くの利便性を提供します。IoTで街全体を最適化するスマートシティへの応用も期待されるこのシステム、開発にあたった技術研究所主幹研究員の前園武氏は、ISIDとの共創が成功の鍵になったと話します。「このプロジェクトは、ISIDとのオープンイノベーションでした。技術の実装だけでなく、事業化についてもさまざまな提案をいただきました。その支援がなければここまでできなかった」。

建築設備のIoT、事業メリットはどこに

システムインテグレーターと建築業の人間が話をしても通常は噛み合わず、物別れに終わることが多い。しかしISIDの場合、そのまま話が通じるので本当にやりたいことができます

熊尾隆丈氏

「IoTは世の中を変える」。ダイダン株式会社技術研究所の主幹研究員、前園武氏がそう直感したのは2015年のこと。当時まだ国内ではIoTは黎明期、建築設備業界でそれについて語る人は皆無でした。IoTを活用することで、OT(Operational Technology:制御技術)とIT(情報技術)を融合させ、これまでにないさまざまな利便性を生みだすのではなかと可能性を感じた前園氏は、迷うことなくそれを新たな研究テーマに選びます。

技術研究所はダイダンの研究開発部門で、なかでも前園氏の所属する開発技術企画部は、次の事業成長力を生みだすイノベーションの企画がミッション。さっそくIoTについて調べ始めたものの「当初はそれがどのように建築設備に結びつくのか、イメージが浮かばなかった」と前園氏は話します。

最初に可能性が感じられたのは“屋内測位”。「室内設置のセンサーでそこにいる人の位置情報をデータ化できれば、それをもとに空調や照明の省エネ効率をさらに高められるのでないかと考えたのです」と前園氏は説明します。
しかし、大きなブレークスルーはその先にありました。

共創パートナー、大きなポテンシャル

これはISIDとのオープンイノベーション。ISIDの支援がなければここまでできなかった。そこには感謝の言葉しかありません

前園武氏

2016年1月、屋内測位の技術構想を練っていた前園氏は、実証実験を行うため実装パートナーを探し始めます。ちょうどその頃、半導体メーカーのある担当者から「機械制御にも知見やノウハウがあるITベンダーがある」と紹介されたのがISIDでした。

「実際にISIDは、情報技術のノウハウだけでなく、制御技術にも通じていました」と語るのは同技術研究所でIoT推進課を率いる熊尾隆丈氏。「システムインテグレーターと建築業の人間が話をしても通常は噛み合わず、お互いにそんなことはできるわけがないと物別れに終わってしまうことが多いのです。しかしISIDのメンバーと話してみるとそのまま話が通じることにまず驚きました。 “OPC UA(産業用通信規格)”、“PLC(設備機械の制御装置)”といった建設業界特有の用語でも、そのまま話が通じます」。

また、熊尾氏は、ビジネスモデルの構想を練り上げていくパートナーとしてもISIDの役割は大きかったと語ります。「部内では屋内測位が本当にビジネスになるのかという懸念がくすぶっていました。部屋にいる人やモノの位置を検知するだけではあまり大きなインパクトが期待できない。しかし、実証実験を続けているうち、事業化につながる決定的な答えが出てきたのです」。

それは照明、空調機、熱源、ポンプなどの設備機器をコントロールする自動制御盤を仮想化してクラウド上に置き、物理的に建物からなくしてしまうという“制御盤レス”の構想でした。
「もともと前園の構想の一部にそれはあったのですが、それまで陰に隠れて見えていなかったのです」と熊尾氏は話します。「しかし、いったんそこに気づくと、大きなポテンシャルが見えてきました。制御盤をなくすことで実現できるアイデアが次々と湧き出てきたのです」。

業界初のシステム、デジタル革命

ZEB(ゼロエネルギービル)の「エネフィス四国」(ダイダン四国支店)

「ISIDとのプロジェクトは、かなり円滑に進行しました」と前園氏は振り返ります。実際に開始から3ヶ月ほどで早くも骨格ができあがり、その後さまざまな実証実験を経て、2019年7月、“制御盤レス”の構想は、業界初のクラウド型ビル制御システム「REMOVIS」に結実します。

リモビスは、空調や照明など建物の設備機器の制御盤“PLC”を仮想化し、クラウド上で稼働させるシステムです。クラウド上でのデータ集約と管理、そしてモバイルアプリの開発にはISIDのバックエンドサービス「FACERE(ファケレ)」が活用されています。

「建物に設置される設備機器の制御盤は数年ごとに陳腐化し、更新には莫大な費用がかかるほか、故障時にはエンジニアが現場に出向いて修理する必要があるため管理コストがかさみます」と前園氏は説明します。「また、通信は有線のため、部屋のレイアウト変更に際しては、配線のやり直しなど工事費が都度発生してしまいます」

リモビスは、制御盤を仮想化することでこうした悩みを一気に解消させるほか、制御機能をソフトウエア化してクラウド上に実装することで、遠隔操作による設備消費エネルギーの自動最適化や故障情報や稼動状況の遠隔監視、AIによる設備管理作業計画の自動化といった新たな利便性に道を拓きます。

「このシステムはダイダン四国支店にすでに実装されており、試算では、中規模程度のビルのライフサイクルコストを10%ほど低減できることがわかっています。建築設備の維持管理コストは年々高まっていますので、これは大きなメリットとなるでしょう」と熊尾氏は語ります。

オープンイノベーション、未来への一歩

今回のプロジェクトの成功要因はISIDとダイダンの共創にあった、と話す前園氏。「技術はもちろん、事業化の部分でも積極的に関わってもらったことが大きかった。実証実験をアジャイルに繰り返してビジネスモデルを組み立てていく。まさにオープンイノベーションです」。

今後IoTが社会に浸透していけば、クルマなどのモビリティだけでなく、ビル設備も自律的に稼働する時代が来ると前園氏は話します。「そのとき、設備制御で活躍するのがリモビスです。いくつもの建物を一括して管理できるその機能は、街全体をIoTで最適化するスマートシティにもおそらく役立つでしょう」。

まさにその未来への一歩を踏み出したダイダン。今後の研究開発に意欲を燃やす前園氏は、最後にこう言葉を結びました。「ISIDの支援がなければここまでできなかった。そこには感謝の言葉しかありません」。

2019年12月更新

ダイダン株式会社 会社概要新しいウィンドウで開きます

社名
ダイダン株式会社
本社所在地
大阪市西区江戸堀1丁目9番25号
創業
1903年(明治36年) 3月 4日
資本金
4,479,725,988円
営業収益
76億6,100万円(2018年度)
従業員数
1,540名(2019年3月31日現在)
事業内容
電気工事、空調工事、水道衛生工事、消防施設工事および機械器具設置工事の設計、監理、施工
  • 記載情報は取材時(2019年8月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。

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株式会社電通総研 Xイノベーション本部
E-mail:g-ss-info@group.dentsusoken.com

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