新日鐵住金株式会社 製鉄現場のビッグデータ解析設備の微小な信号を診断し隠れた故障予兆を事前に検知

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写真左より 井上 学氏 (新日鐵住金株式会社 技術総括部 ものづくり基盤推進室長)、田中 誠氏 (同 参与)

日本の鉄鋼界を牽引してきた新日鐵と住友金属が経営統合し2012年に誕生した新日鐵住金株式会社。鉄鋼売上で国内トップシェアを誇り、グローバル市場でも顧客ニーズを外さない営業力と現場力で熾烈な競争を勝ち抜いています。2015年、同社は製鉄所の設備保全を強化するため、故障を事前に検知する新たな手法を導入しました。その核となったのはISIDが米国プレディクトロニクス社とともに提供する「知的保全ソリューション」です。

ベテランも予測を外す、故障予知の難しさ

考えられる解析手法をすべて網羅して一気に解いてしまう。これまでのやり方とはまったく違います。
今回の新手法導入で、次に向けての道筋が見えてきました。

井上 学氏

内部温度が2,000℃にも達する高炉や転炉、赤く焼けた何十トンもの鋼が高速で走り抜ける鋳造や圧延の施設など、製鉄所の生産設備は極めて苛酷な環境のなかで稼働しています。当然、各部品は大きな負荷を受け、時として故障が発生。それは生産スケジュールや製品コストに影響を与えるだけでなく、高品質鋼板の安定供給というビジネス戦略にも影響を与えかねません。

そうした事態を未然に防ぎ、生産が遅延するリスクを最小限に減らすのが設備保全の仕事です。「しかしこれほどうまくいかない仕事もありません」と漏らすのは、新日鐵住金のものづくり基盤推進室長を務める井上学氏。「トラブルは日常茶飯事。故障はたいてい予期しないタイミングで起きてしまいます」

保全のプロとして長年設備設計やメンテナンスに携わってきた井上氏によれば、この仕事で一番難しいのは予測。「単一製品を単一工程で規則正しく作っているかぎり故障は起きにくく、また起きるにしても予測がつきやすい。しかし、近年ではさまざまな特性の鋼板を多様なプロセスで生産するようになってきており、そのため故障の予測がずっと難しくなりました。設備がどこで悲鳴をあげているのかわかりにくいのです」

これまでは経験豊富なベテラン技術者がそうした予測を担当しており、その経験知と勘は信頼に足るものでした。しかし、生産プロセスの多様化によって過去の経験があてはまらない事象が増え、予測の難易度が上がってきていたのです。井上氏は危機感を募らせます。「部品の劣化を検知する新たな方法、科学に基づき実証的に検知できるような方法が必要でした」

設備保全を科学する、鍵はデータ解析

生産設備からあがってくるデータの量は尋常ではない。
その波に呑み込まれないようにするためにも、ISIDの知的保全ソリューションは非常に有効な武器となります。

田中 誠氏

「科学的な方法」とはすなわち、設備の稼働データから部品の劣化を事前に検知する手法です。しかし、それを行うには膨大なデータの処理やその解析といった高度なスキルが必要とされ、現場には少々荷が重いものでした。

頭を悩ませていた井上氏の目にそのとき偶然飛び込んできたのが、ISIDと米国プレディクトロニクス社が共同で、ビッグデータ解析を用いて、製品や設備の故障を高精度に予測する「知的保全ソリューション」を提供開始するという記事。プレディクトロニクス社はアメリカ国立科学財団の産学連携プログラム(IMSセンター)からスピンオフしたベンチャー企業で、知的保全のためのデータ解析手法に広い経験とノウハウを備えています。

ものづくり基盤推進室を立ち上げ、現場力の再構築に取りかかっていた井上氏は、プレディクトロニクス社のノウハウの有効性を測るためIMSセンター主催の事例発表会に参加します。そこにはシンシナティ大学、ミシガン大学、ミズーリ大学といった米国著名大学の研究者や、ボーイング、GE、GM、フォード、P&Gなど名だたる米企業の保全技術者が集まっていました。「まさに侃々諤々、その白熱の議論に衝撃を受けました」と井上氏は話します。「知っているノウハウを包み隠さず出し合い、みんなで知恵を絞ってこの分野の技術を高めていこうという気概にあふれていました」

帰国した井上氏はさっそくISIDと契約を交わし、古巣の製鉄所で知的保全ソリューションを試すことに決めます。

隠れた予兆を一気に検出、成果は従来の倍以上

苛酷な環境で稼働する製鉄所の生産設備

井上氏とともに生産安定化の問題を考えてきた田中誠参与は、このソリューションを見て「目から鱗が落ちた」と話します。「劣化を検知するその手際は、まるで聴診と問診だけで病患を言い当てる総合医のようでした」

現場に立ったISIDとプレディクトロニクス社は、従来から点検作業に用いられていた振動診断を生かすことにし、劣化の初期段階ゆえの信号レベルの低さやノイズの問題を、エンベロープ解析、ケプストラム解析、周波数帯域エネルギー解析といった複数アルゴリズムの組み合わせで解決しました。さらに各部品の健全性診断については「ピア・トゥ・ピア」と呼ばれる相対比較の手法を採用。これにより隠れた異常や劣化を検知します。

こうした一連のプロセスを経ていくなかで、従来手法で確認できた4カ所の劣化に対し、新たに10カ所の劣化が発見されました。「データだけでここまでやれるのか」と井上氏もその効果に舌を巻きます。「プレディクトロニクス社には故障をつきとめる解析アルゴリズムの膨大な蓄積があり、対象となる設備のメカニズムやデータタイプから常に最適なアプローチを導きだします。これは決められた解決策をパッケージで提供する他のベンダーにはないユニークなメリットです」と井上氏は評価します。「考えられる解析手法をすべて網羅して一気に解いてしまう。これまでのやり方とはまったく違います。次に向けての道筋が見えてきました」

製鉄に限らずいま製造業の生産現場ではビッグデータへの関心が高まっています。しかし、データが即戦力になるかそれとも足かせになるかは解析能力次第、と田中参与は指摘します。「設備からあがってくるデータの量は尋常ではありません。押し寄せる大波に呑み込まれないようにするためには、しっかりした解析メソッドとプロセスが必要です。ISIDの知的保全ソリューションはその際に非常に有効な武器となります」

最後に井上氏は今回の成果についてこう加えました。「知的保全ソリューションは、熟練技術者の能力をさらに生かしてくれます。診断結果は技術者を余計な作業から解放し、設備に真正面から向き合わせてくれる。科学の助けを借りて、微妙な音や振動の違いを感じ取る五感が、真価を発揮するのです」

2015年10月更新

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社名
新日鐵住金株式会社
本社
東京都千代田区丸の内 2-6-1
設立
1950年4月1日
資本金
4,195億24百万円
売上高
5兆6,100億30百万円(2015年3月期/連結)
従業員数
84,447人(2015年3月31日現在/連結)
事業内容
製鉄、エンジニアリング、化学、新素材、システムソリューションの各事業

お問い合わせ

株式会社電通総研 営業推進本部
TEL:03-6713-6134 E-mail:g-ims@group.dentsusoken.com

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