タレントマネジメントコラム:第2回

タレントマネジメントとHRテック

02 タレントマネジメントからHRテックをみる

著者:篠崎 隆氏

2016年10月1日掲載

ポイント

  • 環境の変化に対応するために、従来の人材管理と異なるアプローチのタレントマネジメントが必要とされている
  • タレントマネジメントを導入するには、目的の明確化、人材要件定義・指標選定・データ整備、体制作りが欠かせない
  • タレントマネジメントとHRテックは密接な関係にあり、データの活用基盤となるITシステムが大きな役割を果たす

1)タレントマネジメントはなぜ必要か

タレントマネジメントを直訳すれば、人材管理である。人材管理は従来型の人事部の業務である。しかし前回紹介したVUCA(Volatility:変動性,Uncertainty:不確実性,Complexity:複雑性,Ambiguity:曖昧性の頭文字)と呼ばれる不透明な環境の中で、グローバル化に対応して多様な人材をマネジメントしていく効果の面でも、コーポレートガバナンス・コードに則った説明責任の面でも、従来の人材管理の限界が指摘されている。
その理由として、以下の点が挙げられる。第一に、人材管理のプロセスが、採用・育成・評価等の機能ごとの縦割りとなっているため、一貫性がなく必ずしも効果的でない。第二に、新卒一括採用・終身雇用を前提として、階層ごとに一律の人材管理が行われており、多様な人材のマネジメントに適していない。第三に、人事担当者等の頭の中にある情報に基づいた属人的意思決定が行われており、説明責任を果たせない。
こうした限界を踏まえて、これからの人材管理には以下の要素が必要になると考えられる。第一に、一貫したプロセスの統合を実現するための目的と戦略、第二に、人材を最大限に活かすための個人の特徴に着目した施策、第三に、ステークホルダーへの説明責任を果たすための客観的な情報に基づく意思決定、である。これら三つの要素を含んだアプローチこそ、VUCAの時代に求められるタレントマネジメントであると言える。

2)タレントマネジメント導入にはどのようなステップが必要か

それでは、実際にタレントマネジメントを導入するにはどのようなプロセスになるだろうか。
最初のフェーズは、当然のことながら、タレントマネジメントの目的を明確にすることが出発点となる。経営戦略に基づき、どのような人材が必要かという人事戦略を明確にすることが不可欠である。目的が明確でない場合、せっかく高額なITシステムを導入したのに継続的に活用されなくなることも現実には多い。
次のフェーズは、人材要件定義・指標選定・データ整備である。まず、各ポジションに必要な人材要件を定義することが必要である。抽象的なイメージに過ぎない場合も少なくないと思われるが、管理をしていくためにはデータとの紐付けを意識する必要があろう。例えば、営業部長職について、いくつかの要件のうち、リーダーシップというキーワードが考えられる。リーダーシップと言っても、いろいろな形があり、最近の若い人に対してであれば、コミュニケーション能力が高く、タイミングよくフォローしていくことができる等の特性が考えられる。既に、コンピテンシーを導入している企業であれば、こうした要件をコンピテンシーモデルに当てはめて利用することが可能である。次に、人材要件を分析するための指標の選定である。例えばリーダーシップがあるという人材要件について、具体的にどのような指標でそれが反映されるかということである。経営学や心理学の知見をもとに指標を設定することもあろうし、過去の自社データをサンプルに当てはまる人材との相関をみるというアプローチから指標を導き出すことも可能であろう。最後に、データの収集、分析を行うことになる。既に活用されているデータもあろうし、収集しても活用されていなかったデータ、あるいは新しく収集する必要があるデータもあろう。
最後のフェーズは、こうしたタレントマネジメントのための体制作りである。分析には、統計等の専門的な知見も必要になる場合が多い。タレントマネジメントのためのPDCAを確立すると同時に、人事部門の役割等の見直しも必要になってこよう。

3)タレントマネジメントにはどんなITが必要か

タレントマネジメントとHRテックは密接な関係にあり、データを収集して分析する場面では、ITシステムが大きな役割を果たす。具体的には、以下のメリットが考えられる。
第一に、膨大な情報量への対応力である。情報量が増えるに伴い、従来の手作業やスプレッドシートでは適切な頻度での情報更新が難しくなる。ITシステムを活用することにより、所属・職歴・評価・給与等に加え、能力や育成履歴・キャリアプラン・サーベイ結果等を含む人材プロファイルの構築と更新が可能である。
第二に、人材マネジメントプロセスの統合効果である。社内担当者ごとににバラバラに存在していた情報を一元管理することにより、プロセスを統合し、部分最適を超えて、整合性の取れた全体最適の追及が可能になる。
第三に、利用ユーザーの拡張性である。人事部門にとどまらず、経営者・所属上長・本人等のレイヤーごとに開示情報を柔軟に設定することで、それぞれが意思決定に必要な情報のみを適宜取得することが可能である。
第四に、分析の容易性である。システムに実装したレポーティング機能等により、容易に分析を行い、意思決定に活用することが可能である。
こうした特徴は、国内外のどのタレントマネジメントシステムも何らかの形で備えていよう。その中で、利用する企業としては、自社で設定したタレントマネジメントの目的や、利用上の使いやすさが選定上のポイントとなろう。

[人材マネジメントプロセスの統合的アプローチ(※1)]に[ITの活用][個人の特徴に着目(※2)]を含めることで人的資本の最適化、ゴールである経営戦略の遂行 ※1:[人材マネジメントプロセス]採用、配置、育成、評価、報酬、後継者管理 ※2:職務遂行に必要な人材要件と自社の人材データをマッチングします。
図:タレントマネジメント鳥瞰図

執筆者略歴

篠崎 隆氏

株式会社ISIDビジネスコンサルティング ユニットディレクター。
野村證券の経営企画及び法務セクションを経て、米国系人事コンサルティング会社で経営者報酬コンサルティングビジネスに携わる。現職では新たにデータを利用した人事に取組んでおり、人事部門の体制についても知見を持つ。2015年より、一般社団法人研究産業・産業技術振興協会の研究会委員を務める。
日本証券アナリスト検定会員。東京大学法学部卒業。Harvard Law School修了(LL.M)。多摩大学院ビジネスデータサイエンスコース修了(経営情報学修士)。主な共著に、「米国のコーポレート・ガバナンスの潮流」(商事法務)、「コーポレート・ガバナンスと企業パフォーマンス」(白桃書房)、「OECDコーポレート・ガバナンス」(明石書店)、「経営者報酬の実務詳解」(中央経済社)等。

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