あらゆる領域にFinTechはひろがっていく 〜電通総研所長 大越いづみ氏が語る〜FINOLABスペシャルリポート #3

FinTechがもたらすイノベーションは、やがて私たちの生活そのものを大きく変えていくという。
その変化とは何なのか。
FINOLABの立ち上げにも携わり、 2020年とその先を見据えたイノベーションの動きに詳しい 大越いづみ氏に訊く。

─現在のFinTechをどのように見ていますか。

FinTechは単なるバズワードに見えるかもしれませんが、テクノロジーは私たちがお金をやり取りする方法を着実に変えつつあります。FinTechを活用すれば、金融サービスにおけるユーザーインターフェースをこれまで以上に簡単にできる可能性が見えてきました。たとえばスマートフォンの本人認証は、従来のパスワード型だけではなく、指紋認証や顔認証などが出てきて、どんどん最適化されている。しかもそれを、すでに多くの人が目撃し体験しています。こうしたテクノロジーを応用した金融サービスを体感して「もしかして、これもFinTech?」と想像力を掻き立てられることで、変化がさらに加速しているように思います。

─FinTechに期待することはどのようなことでしょうか。

今お話しした本人認証の機能はFinTechにおいても重要ですが、それを必要とするのは金融サービスに限りません。ゲームをはじめとしたエンターテインメントから公的サービス、医療まで様々な適用シーンがあるでしょう。ここで重要なのは、あるテクノロジーがゲームやエンタメで使われている限りにおいては、「既存システムの方が安全」となるのですが、金融や医療など要求水準の高い世界でそれが磨かれると、セキュリティや機能のレベルが一気に引き上げられるということです。つまり、金融や医療サービスとして耐えうるテクノロジーであることが確認されると、あらゆる世界で一気に応用が進むということです。それが行きわたるころには「FinTech」という言葉はなくっていくのだと思います。

─FinTechをさらに普及し発展させるためには何が必要でしょうか。

企業がFinTechを自社のバリューチェーンに取り込みたいと思っても、実際に実行することはそう簡単ではありません。FinTechのイメージと“向き合っている”だけでは、具体的なサービスや製品は生まれないのです。FinTechを活用して「0から1を生み出す」ためには、テクノロジーで新しいものを生み出してやろうというイノベーターと、テクノロジーを取り込んで新しいサービスを生み出してやろうとする企業が出会える「場」が必要です。ややもすると日本企業は会議室で、あるいは机上で物事を進めようとします。しかし「0から1」を成し遂げようとするとき、それでは何も進みません。ここFINOLABはリアルな「場」として存在している。ここに来ればFinTechに出会い、その空気に触れ、目撃し、体感できる。「FinTech ってこうやればいいのか」というお作法が分かる。そのことに、大きな意味があります。

─FINOLABの魅力はどんなところにありますか。

FINOLABが開業して、参画されるイノベーターの数が予想以上に多くて驚きました。彼らからすれば、他にも候補となるロケーションはいろいろとあったはずです。それにもかかわらずFINOLABを選択したのには、大手町というエリアが持つ価値も大きかったと思います。何といっても日本の金融の中心地ですから。大手町に受け入れられ、この街で許容されているということ、それ自体がFINOLABの大きな魅力になっているんじゃないでしょうか。

─FinTechの先にどのような社会の変化があるでしょうか。

いろいろな方向性があると思いますが、私が最近すごく実感するのは、FinTechはビジネスとビジネスが向き合うのと同じように、ビジネスと個人、個人と個人が向き合える世界をもたらす、ということです。ひと言で言ってしまえば、「シェアリングエコノミー」を加速させる、ということ。自分の時間やスキルといった価値を、例えば5分とか10分とか非常に分かりやすい形で、簡単にセキュアに交換して決済できる時代、つまり個人がものすごくエンパワーされる時代が来る。最初は皆おっかなびっくりだと思います。でも使ってみたら、あら便利ね。もう戻れないね。ということになって、人々の生活の隅々にゆっくり行き渡っていくと思います。

─既存の金融機関がいらなくなるのでは、という危機感もありますが。

金融機関のサービスは、長い年月をかけて高度なオペレーションシステムを構築して経済活動を成立させていますから、一つの優れたテクノロジーが出てきたからといって、すぐに置き換わるものではないでしょう。一方で、個人同士の取引であれば、サービスの対価を必ずしも円やドルで交換する必要はない。ポイントでもビットコインでも物品でも、双方が等価であると認めれば何でもいい。また個人には、それを安全に簡単にやり取りしたい、そのすべてを自分の資産として管理したい、という欲求があります。現在の金融機関がそのすべてをやりきれるとは思いません。つまり、すべてが取って代わることはなくても、ある部分がテクノロジーによって置き換わる、あるいは、ある部分の取引が金融機関を介さずに行われる、ということが進むはずです。そして最初に言ったように、金融で起きた変化は必ず他の世界に広がります。テクノロジーの進化が私たちに「避けられない未来」をもたらすとすれば、それがどこで起きるかはFinTechが先んじて教えてくれるんです。

2017年1月更新

(終わり)

Profile

大越 いづみ氏(おおこし いづみ)

株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センターEBD兼 電通総研所長 兼 レガシープロジェクトデザイン室長

シンクタンク研究員などを経た後、1998年電通に入社し、2014年より現職。クライアント企業の国内外マーケティング戦略、ブランド・コミュニケーション戦略を担当するほか、「2020&beyond」を契機とするイノベーションの動きを捉え、デジタル・メディア環境における事業戦略立案や、産官学連携/異業種連携/社会参加型のビジネスデザインの共創を推進する。